4. 挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず
十二月二十八日早朝。時刻は六時をとっくに過ぎていた。
朝食の支度をしようとしていた家政婦が、ふと軒端を覗いてみると、風呂焚き用の薪が無くなりかけていた。しまった――。思わず彼女は顔をしかめる。はっ、そういえば、離れに行けばまだいくらか薪が残っていたような気がする。ちょっと見てくるか……。
割烹着の上に半纏をはおって、彼女はいそいそと母屋から外へ出た。それにしても、この季節の早朝の寒さは尋常ではない。自然に足も早まるというものだ。離れの建物までたどりついた家政婦は、軒下でワラ長靴にへばり着いた雪をけ落とすと、ずいぶんと建てつけが悪くなったガラス格子の引き戸を、両手で無理やりにこじ開けて、中へ入った。
あった、あった。予想したとおり、ここにはまだたくさんの薪が積んであった。彼女は喜んで、縄でまとめられた薪のたばをふたつ、えいさと小脇へ抱え込んだ。それにしても、長年この屋敷につとめてはいるけど、この離れの小汚い建物を、彼女はあまり好いてはいなかった。どことなく気味が悪いのだ。それに、誰も掃除をしないから、窓際に落ちた蛾の死骸が発する特有の嫌な臭気があたりに立ち込めている。
しかし、今朝におうのは、それとはだいぶ違っていた。なんだろう……。鉄臭いにおいだ。
家政婦はふと我に返った。どうして、今まで気付かなかったのだろう――?
目の前の冷たい土間の真ん中に、おびただしい血を流しながら、何者かがうつぶせている。すでに事は切れているようで、動く気配は全然なかった――。