2. 挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず
これは、今をさかのぼること十二年前となる平成十五年の、軒先の梅の花が美しく咲きほこる早春に起こった出来事である。
そこは明らかに普通の部屋とは違っていた。絨毯がない素の畳部屋に、薄暗い蛍光灯がどんよりともされていた。脇へのけられたコタツの上に、ふたの開いた缶ビールと蜜柑がいくらか乱雑にのっていて、さらに、万年床を思わせる掛け布団のない布団が、部屋の真ん中にだらしなく敷かれていた。
突然、壁に掛けられた古い柱時計がけたたましく鳴り出して、十二時の刻が告げられた。晴れていれば、外では勇壮なオリオン座が真南の方角に見られるはずだが、あいにく、今宵は木枯らしが吹きすさんで凍てつくような漆黒の闇夜だった。
畳部屋の段の下には土間が広がっていて、なにかを作るための小器具がいっぱい散らかっていた。その土間の中央には、大きな達磨型の鋳物ストーブがこうこうと焚かれており、屋内を快適な温度に保っていた。二十分ごとに薪を新しくくべなければならないなど、なにかと手間はかかるものの、やはり、薪で焚くストーブは、石油やガスストーブなんかよりもずっとあったかい。そばまで近づけば、パチパチと樹皮が燃えはじける音がして、脂の香りがかすかに鼻孔を刺激する。
強風が吹いて、たよりない木製の窓枠はギシギシと軋む。ついでに建物そのものもわずかながら横揺れしているみたいだった。そんな簡素な造りの狭い建物の中に、今、五人もの人間がいる――。
うちの一番の年長者と思われる一人が静かに口を開いた。
「だいぶ効いてきたようだな。じゃあ、そろそろ始めるか……。祭りをな」




