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七首村連続殺人事件  作者: iris Gabe
出題編
1/35

1. 事件の始まり

☆犯行現場の周辺図

挿絵(By みてみん)

※この地図はフィクションであり、書かれている地名は実在のものと関係ありません。



☆犯行現場近郊を巡るローカルバスの運行時刻表

挿絵(By みてみん)




  登場人物

※ 表示された年齢は、事件が発覚した2015年(平成二十七年)十二月二十八日当時の満年齢とする。なお、故人に関しては享年を表示することとする。



堂林どうばやし 凛三郎りんざぶろう  28歳。本編の語り手。私立探偵。

リーサ      4歳。堂林の秘書。対話型疑似人間コミュニケーションロボット

雨宮あまみや 幸之助こうのすけ  35歳。リーサの技術開発者。


別所べっしょ 則夫のりお   46歳。愛知県警豊橋署の警部補

千田ちだ まもる    33歳。愛知県警新郷署の巡査部長

堀ノ内ほりのうち 正義まさよし  26歳。新郷市大野駐在所の巡査。


如月きさらぎ 恭助きょうすけ   21歳。警部を父に持つ大学生。


六条ろくじょう 勝之まさゆき   かつての六条家当主。五年前に死去、享年59歳。

六条ろくじょう 道彦みちひこ   30歳。名家六条家の跡取り息子。

六条ろくじょう 房江ふさえ   53歳。道彦の母で、六条家の現当主。

りゅう 圭子けいこ    47歳。六条家の家政婦。


平川ひらかわ 猛成たけなり   31歳。六条道彦の友人。

西淵にしぶち 庸平ようへい   31歳。六条道彦の友人。

西淵にしぶち 志津子しずこ  55歳。庸平の母。


良延りょうえん      73歳。龍禅寺の和尚。

良魁りょうかい      17歳。龍禅寺の小坊主。


蓮見はすみ 雷蔵らいぞう   かつての蓮見家当主。二年前に死去、享年81歳。

蓮見はすみ 悠人ひさと   51歳。蓮見家の当主で、細川診療所の医師。

蓮見はすみ 千桜ちさ   11歳。蓮見家の令嬢。

尾崎おざき 洋美ひろみ   68歳。蓮見家の家政婦。

戸塚とつか 真由子まゆこ  29歳。蓮見家の運転手。


井戸田いどた 五鈴いすず  75歳。一人暮らしの老女。

穂積ほずみ 智宙ともひろ   38歳。かつて神童と呼ばれた薬学部准教授。

浅木あさぎ 夢次ゆめじ   40歳。山奥で一人暮らしを営む猟師マタギ

紅谷べにや 佳純かすみ   48歳。細川地区の住民。情緒不安定。

紅谷べにや 由惟ゆい   佳純の娘。五年前に22歳の若さで死去した。

小笠原おがさわら 光男みつお  53歳。佳純の元夫。






 目次

1. 事件の始まり

2. 挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

3. 八神郡七首村

4. 挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

5. 阿蔵の六条家

6. 名家の未亡人

7. 不良グループ

8. 挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

9. 第三のメール

10.挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

11.モネの睡蓮池

12.七首の蓮見家

13.可憐な美少女

14.古寺の小坊主

15.白昼の祈祷会

16.落ち武者伝説

17.特別捜査会議

18.正統なる裁き

19.挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

20.薬学部准教授

21.怯える大猩々

22.挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

23.奥三河の花祭

24.八方ふさがり

25.如月恭助登場

26.辺境の一軒家

27.児童養護施設

28.魔女の隠れ家

29.五能線驫木駅

30.読者への挑戦

31.途方に暮れる

32.どんでん返し

33.暴かれる真実

34.挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず

35.拍手かっさい



 サイフォンの中で小さく音を奏でる琥珀こはく色の液体がキリマンジャロ豆特有の甘酸っぱい芳香を部屋いっぱいに解き放ち、テーブルの上には、粗挽きミルでひいた胡椒こしょうをふんだんにかけたカリカリのベーコンエッグに、ベルギー産ヘーゼルナッツ入りのチョコスプレッドを贅沢に塗りたくった一枚の厚切りトースト。そして極めつけは、小春日和こはるびよりの木漏れ日がさし込むキッチンに、たおやかに流されるBGMが、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団による、チャイコフスキー、眠れる森の美女スリーピング・ビューティ第一幕ワルツガーランド・ワルツ。これぞまさしく至福のひと時といえよう。


 俺の名は、堂林どうばやし 凛三郎りんざぶろう。通称、なんでも屋――しがない請負人だ。仕事ぶりはそつがないので、あんがい繁盛はしている……。


 シャーっ、と漏れるようにうなるモーター音。秘書のリーサがテーブルへ近づいてくる物音だ。彼女は俺の姿を確認すると、女子アナウンサー並みの落ち着きを払いつつも、少々鼻にかかったアニメ声で、俺に話しかけてくる。

「リンザブロウさん、さぞかし遅い朝食でございますね。もう時刻は四時ですのよ。それも、夕方の……」

「仕方ないだろう。昨日の仕事が今朝未明の五時までかかっちまったんだから。実際、俺はなあ、今起きたばかりなんだよ」

 あからさまな皮肉に、俺はすかさずいいわけを取り繕った。

「それより、リーサ。凛三郎さんじゃない。凛三郎さまと呼べ。何度いったら分かるんだ?」

「はーい……、リンザブロウサマ、さん――」

 拍子抜けのあいづちを打つと、しばしの間をおいて、おそらくそのあいだになにやら彼女なりに考え込んだのだろうが、俺の呼称と思しき意味不明な言葉をリーサが返答した。どうやらリーサの思考回路には、『さま』という基本的かつ常識的な言葉が欠如しているらしい。製造業者にいうべき苦情が、またひとつ加わったな。

 秘書のリーサは、市販のコミュニケーションロボットである。とはいえ、そこはそこ、俺好みにいろいろ改良がなされているから、彼女の価格は実のところ高級車一台分に匹敵する。人工知能の部品パーツは、現在の最先端技術の性能を備え、外見もシリコン樹脂を用いて、こと上半身に限っていえば、年頃女性の生身の身体を彷彿させる上々の出来栄えとなっている。もっとも、秘書としての機能を重視したため、リーサの下半身は、移動を最優先とした低重心構造となっている。具体的にいえば、二足歩行はあえて放棄して、安定性の高い台車を使用することに妥協したのだ。たしかに二股に分かれた脚は、女の欠くべからざる性的魅力セックスアピールの一要因カテゴリーではあるが、それを追求して二足歩行を強要したあげく、うっかり転んで、精巧な部品パーツを破壊されてしまっては元も子もない。したがって、背の高さも、残念ながら、幼児と同じくらいだ。まあ、その代償といってはなんだが、ベージュのブラウスに黒のフレアスカートをはかせて、貴婦人レディを思わせる上品な雰囲気は、十二分にかもし出せている。さらに、俺好みで、薄若葉色のベレー帽に茜色の縁取り眼鏡を装着した彼女は、もはや美人人造人間ビューティアンドロイドと呼んでもさしつかえあるまい。まばたきはもちろん、しゃべる時には下あごも動くし、声音も人気ボーカロイドのに差し替えることで、必要とあらば、なまめかしいあえぎ声の発声も可能であるが、たかが人形ドールごときに秘書としての役割以外の機能を、高学歴のこの俺が期待するはずもなく、単に、人工知能のめまぐるしい技術革新の進展に取り残されぬために、あくまでも研究用として、俺はリーサを活用しているに過ぎないことを、ここで弁明させてもらう。


「あっ、そうそう、リンザブロウさん。リンザブロウさん宛てに、とっても妙な、おメールが届いていますよ」

「メールに『お』は付けなくていいんだ。手紙なら『お手紙』というのもありだけどな」

 俺はさり気なく言葉の間違いを訂正してやった。

「はーい、リーサ了解しました。それでえ、これがその問題の妙なメールです。リンザブロウさん。あまりお忙しそうではないみたいですが、どうか今、急いで読んじゃってやってください」

 リーサはタブレットを俺に手渡した。彼女は対人対話をより円滑に行うために、タブレットを身体の一部として常時携帯している。

 せっかくの至福の朝食、いや、夕食が、くだらないメールで台無しにされようとしているが、リーサがわざわざ俺の食事中にメールの報告をしたということは、その中に少なからず彼女なりに気にかかる何らかの兆候があったということであろう。

 俺は気乗りもしないままに、タブレットに目を通す。タブレットの裏側は、ピンク色の背景バックにメイド服姿のリーサが萌えイラストで装飾ラッピングされており、さらに、『リーサの秘密、のぞいちゃ嫌』とあやしげな文字まで添えられている。これはひとえに、リーサの製作者の悪趣味によるものである。

 今日の日付は十二月二十七日か――。降誕祭クリスマスも終わり、暮れが押し迫ったあわただしい一日だ。そして、問題のメールが送信されたのが、正午だった。たまたま俺がベッドで爆睡をしていたので、リーサは今まで待っていてくれたようである。ちなみに、現在の時刻は午後の四時二十二分をまわっている。

 タブレットの画面上には、妙ちくりんで、なおかつ、稚拙ちせつきわまりない、謎めいた文面が並んでいた……。



 拝啓、我が親愛なる名探偵殿。


 堂林凛三郎君――。かつて君に手紙を送った小生のことを覚えているかい? いいや、どうも君はまだ小生にちっとも関心を示してはおらぬようだな。そんなことだから、憐れなる犠牲者が生まれてしまったじゃないか。ああ、悲しきことかな。せっかく小生が老婆心ながらも善良なる警告を提供してあげたのにねえ。本当に君は、小生が期待している頭脳明晰なる名探偵なのだろうか。ちょっと心配になってきたよ。でも、まあ、よかろう。君にはもう一度、名誉挽回のチャンスをくれてやる。小生は心広き人物なのだからな。ありがたく受け取るがよい。そしてくれぐれも、今度こそは小生の期待を裏切らないでくれたまえ。


 では、今回のメールのクエストをさずけよう!

 場所は前回とおんなじ、愛知県の奥三河おくみかわ地方にある、八神やつがみ七首ななこうべ村だよ。時は十二月二十八日だ――。

 さあさあ、今度の凶事は、小生の見込んだ偉大なる名探偵君が阻止できるのか? せいぜい楽しませてもらうとしよう。じゃあね。


    あさきゆめみし。


2015/12/27(日)11時58分送信



 これが世にも奇怪で残酷な連続殺人事件の幕開けであったとは、これまでに数々の試練を乗り超えてきた俺であっても、さすがに予測できなかった。

 とにもかくにも、文章をじっくりと読み返してみて、俺は思わず苦笑していた。いいたい放題語っているくせに、凶事とやらが起こる日付が、明日、じゃないか……。これでは、どんなに有能な名探偵でも、阻止することなどまず不可能だ。どうせ挑戦状を叩きつけるのなら、もう二、三日前に届けるのが礼儀であろう。しかし、いかんせん、わざとそうしたように思われるふしもある。だいたい、埼玉県を活動拠点とする俺に、愛知県のド田舎までやって来い、というのが、そもそも無礼千万な要求である。さらにいわせてもらえば、もとより俺は、なんでも屋ではあるが、探偵ではない。無論、探偵業の仕事も、時と場合によっては引き受けることもある。でも、それは金銭面での急場をしのぐための限定業であり、なんでも屋の本来の任務は、探偵業以上に創造的であり、なおかつ、解決困難な謎に立ち向かって、それを解明することなのだ。

 八神郡七首村か……。俺はわきに投げ捨ててあった道路地図帖を手に取って、ぺらぺらめくってみたが、どこをどう探しても、愛知県にそのような名前の村は見つからなかった。


 この怪文書には、以前にも俺にメールを送信したことがあると書かれている。肝心の内容は全く覚えていないが……。

「リーサ、ここ数か月の間に事務所に届けられた全てのメールと郵便物データを調べてくれ。その中に、このメールと同じ差出人であろうと推定される配送物があったかどうかだ。それから、このメールの印刷プリントアウトも頼む」

「はーい、分かりました。リンザブロウさん、ちょっとだけお待ちください」

 そういって、リーサは、愛らしき翡翠ひすい色の瞳で、俺に向かってウインクをした。いったいどこで覚えたのか……。

「リンザブロウさん。該当するデータが一件だけ見つかりましたよ。去る十月七日に、『あさきゆめみし』なる人物より、メールが送られております」

 リーサがそう答えると、背後の棚にのっているプリンターが、おもむろにカタカタと動きだし、先ほどの十二月二十七日付けメールが印刷プリントアウトされた。この部屋のありとあらゆる端末器ターミナルは、リーサがいつでも自在に無線操作することができるのだ。その直後に、俺が手にしたタブレットの画面がさっと切り替わって、別なメールの文章が表示された。



 拝啓、堂林凛三郎様。


 ご機嫌いかがだろうか、堂林凛三郎君。お初にお目にかかる、小生は――。いや、そんなありきたりの挨拶なんかどうでもよかろう。いずれ時が来れば、いやがおうにも、小生のことを気にかけるようになるのだからな。

 ところで、堂林君。聞くところによると、君は探偵業で数々の功績をあげているようじゃないか。でも、どんな難事件でも君の手にかかれば、たちまちに解決してしまうであろうなどと、まさか、うぬぼれていることはなかろうね。広い世の中には、君の想像よりもずっと頭のいい連中がいっぱいいるかもしれないんだよ。

 そこで、お利口な堂林君にちょっとした試練を与えてみよう。果たして君は、小生の貴重なる警告をくみ取って、やがて起こる惨劇を阻止することができるだろうかね。


 では、行くよ。最初のクエストだ!

 愛知県の奥三河おくみかわ地区にある、八神やつがみ七首ななこうべ村に気を付けたまえ。時は十月十二日だ。君のささやかなる健闘を祈る。

 草々。


    あさきゆめみし。


2015/10/10(土)10時10分送信



 俺はまず発信元アドレスに注目した。間違いなく、先ほどのメールの発信元と同じものだ。ここを調べあげればメールを送った人物などたやすく割り出せそうだが、果たして、そんなに事が甘く進むだろうか? 『小生』とは、男が用いるへりくだった自称だ。だとすると、差出人は男なのか……?

 送信したのは十月十日の午後十時十分か……。わざと、韻を踏んだのか? だが、二通目である手紙が送られたのは、十二月二十七日の午前十一時五十八分だし、さっぱり分からない。

「予告場所はさっきのメールに書かれていたのと同じ七首村か……。

 リーサ、ネット検索してくれ。愛知県の七首村だ――。でも、そんな村、実際に存在するのか?」

「はーい、分かりました。直ちに検索します。

 ……。

 リンザブロウさん、3,325件の検索ヒットがありました。うち、有力な情報は、なんと23件もありますよ。さあて、リーサがそれらの情報から総括的に得た結論ですが――、七首ななこうべ村は、西暦1906年、つまり明治三十九年に、八神やつがみ郡に当時あった七つの村がくっついてできあがった村で、西暦1956年、昭和三十一年に、南設楽みなみしたら郡の鳳凰ほうおう町に合併統合され、それと同時に、七首村という名前はなくなってしまいました。さらに、西暦2005年、平成十七年に、その鳳凰町も新郷にいざと市へ吸収されたので、現在の七首村は、新郷市の中の単なる一つのちっちゃな集落になり下がっています」

「新郷市?」

 関東圏に住む俺にとって、さすがに愛知県のこの市は初耳だった。

新郷にいざと市は、愛知県の東三河ひがしみかわ地方のほぼ中央部に位置していて、豊橋とよはし市や豊川とよかわ市と隣接しています。人口はたったの五万人足らずですけど、面積はとっても広くて、500平方キロメートルもあるんですよ。愛知県内でも、豊田とよた市に次ぐ広さを誇り、あの名古屋なごや市よりも広いんですから、すごいですねえ」

 要するに、人口密度が異常に低いということだ……。

「なるほどな。合併に合併を繰り返して膨れあがった町に、その反動で消えてしまったあわれなる小さな村か……。

 それで、その旧七首村があった場所は? これから行こうとしたら、どうやって行けばいいんだ?」

「はーい、そいつもリーサにお任せください。

 七首村のある場所は、愛知県と静岡県の県境付近。ただでさえ山の中にある新郷市の中心地から、さらに国道151号線をひたすら北上して、そのまたさらに山奥へ通じる愛知県道505号線に入って、さらにさらに山奥深くへ懲りずに進んでいって、精根尽き果てて、もうだめかとあきらめかけた頃に、ようやくその姿をぴょこんと現わす、想像を絶するめっちゃ深い山里でーす」

 目指す村がただならぬ秘境の地であることが、リーサの説明からもありありと伝わってくる。

「修飾語を無駄に乱用すると、淑女レディとしての品格が疑われるぞ。それで……、交通手段は?」

 リーサが、少し間をおいてから、言葉を返す。

「リーサは反対です。依頼主がはっきりしないこの手の仕事は、苦労するだけで、一文の得にもなりません」

 『一文』という言葉は平気で使うくせに、『さま』という言葉は知らないのだから、いささかリーサの人工知能のプログラマーの感性を疑ってしまう。まあ、そんなことはどうでもいいや。この仕事は金にはならない、というリーサの意見は実に的確なものだ。でも気が付けば、最近つのった退屈からやって来る倦怠感の解消を、この謎めいたメールにひそかに期待している俺がいた。

「そんなの、お前が心配することではない。俺の質問にだけ答えろ。七首村へ行く交通手段は?」

 リーサは無表情で応答した。

「はーい、事務所から徒歩十五分に位置する所沢ところざわ駅から西武池袋線に乗って、池袋いけぶくろ駅で、東京メトロ丸ノ内線に乗り換えて、ひとまず東京駅へ行きます。それから、JR東海道新幹線に乗って、愛知県の豊橋とよはし駅へ向かいます。豊橋駅はのぞみ列車は停まってくれませんから、慌てんぼのリンザブロウさんは、すぐやって来た新幹線に乗らないよう、十分に注意してください。なにせ乗り物音痴で名を馳せた、かのリンザブロウさんですからねえ。なおのことしっかり気を付けてくださいね。豊橋駅へ着いたら、JR飯田いいだ線というローカル線で三河大野みかわおおの駅というローカルな駅まで行って、Nバスという新郷市が運営するローカルバスに乗ってください」

「あまりローカルという言葉を多発するな。嫌われるぞ。

 それで、今は五時前だが、今日中に行けるか? その、七首村とやらに……」

「リーサの計算によると、目的地への到着推定時刻は、明日の深夜、二時三十分。理由は、JR飯田線の本長篠ほんながしの駅にはリンザブロウさんは二十三時二十六分に到着できますが、その後、七首村までは十キロちょっとの山道があって、残念ながらNバスが走っていない時刻なので、リンザブロウさんは目的地へ向かってとぼとぼ歩く運命になります。先ほどの数値は、リンザブロウさんの脚力を、実年齢プラス十歳の三十八歳男性平均値の体力相当であろうと、好意的に仮定して、推定した時刻ですが、あくまでもリンザブロウさんが道に迷わないことを大前提にはじき出した数値です。実際はこの時刻での到達は、方向音痴のリンザブロウさんには、まず絶対に不可能であろうと、リーサはきっぱりと責任を持って断言できます」

 なんで俺の体力が、実年齢よりも十歳も劣っているとリーサに判断されたのか理解に苦しむが、あんがい、リーサの数値は信頼できる気がする。

「こっちだって行ったことのない初めての土地で夜の散歩などごめんだよ。ならば、翌朝に一番早く着くにはどうしたらいい?」

「JR東海道新幹線で豊橋駅まで行って、そこでホテルを取って泊まるのが賢明でしょう。翌朝、六時ちょうど発の飯田線天竜峡てんりゅうきょう行きに乗って、三河大野みかわおおの駅で七時ちょうどに降りてください。そのあとすぐ、七時五分にNバスがやって来ますから、それに乗れば、七時二十七分に七首村の中心地である巣原すはらバス停に無事到着です」

 俺はふっとため息をついた。現地に八時前に到着できるのなら、なんら手の打ちようもありそうだ。

「どうやら、それが最善みたいだな。そうと分かれば、さっそく支度したくだ……」


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