幼馴染に告白したいのだが、どうすればいいのかすごい悩ましい
おれの最近の悩みはどうやって幼馴染に告白するのかということである。
高校三年生になり、その二ヶ月後に誕生日を迎えたおれが決心した理由は、高校生にもなって彼女がいたことがないのはマズイことに気がついたからである。
幼馴染の美穂子は家が隣なのもあって、物心ついたときからずっと一緒にいる。中学以来、おれの部屋には美穂子の勉強道具や衣類が置いてある。これによって、美穂子はおれの家に来たあとそのまま泊まればいいので、わざわざ自分の家に帰らなくていい、という画期的な発見である。
そんなけっこう仲の良いおれたちではあるが、それこそが告白にアダとなっていたのである。
告白するのに大事なのはシチュエーションである。たとえば、ゴミ掃除中に告白したら、いくら好き同士だったとしてもうーんってなるのと一緒で、それは回避しなければなるまい。
だが、美穂子に告白するシチュエーションが一日の中で見つからないのである。朝起きたら隣に美穂子がいるわけだが、寝起きに告白するのはおかしい。授業中はもってのほかだし、昼休みの屋上も毎日二人で美穂子が作ったご飯を食べているわけだから、ロマンチック感がない。放課後だって、基本的にいつも一緒なので、下足箱にラブレターで呼び出すということができない。それ以前に、下足箱で手紙を入れる時でさえ、美穂子と一緒な可能性が高い。休日はどうだ? しかし、美穂子と行ったことがないデートスポットはないから特に新鮮味がない。流石に外国なら、と言えなくもないが、高校生のおれたちには厳しい。
ロマンチックでサプライズ感ある場所――つまりは、美穂子に知られず、かつ雰囲気の良い場所が条件となる。
まさしく人生最大の悩みだった。
いつも相談ごとは美穂子にしていたし、それでうまく行っていた。しかし、美穂子に告白するのに、当人に相談することは難しい。リーマン予想を解こうとしている気分であった。
「たかちゃん、悩んでるみたいだけど大丈夫?」
と美穂子がベッドの上で聞いてきた。
美穂子はおれの最近の好みであるミディアムカットにした黒髪にゆるふわパーマをかけている。くりっとした大きな瞳に小さな鼻と口。最近また大きくなったおっぱいはDカップらしい。今日の下着は、上下ともに黒のフリル付きである。
ちょっと寒いかなって気がしたので、美穂子をホッカイロ兼抱きまくらにしながら考える。
なんと告白とは難しい出来事だろうか。人類の多くはそれをやってきているわけだから、おれはまだまだ半人前らしい。
どんなシチュエーションが良いのかとりあえず美穂子に聞いてみることにした。それだけなら、他愛ない会話の範疇である。
「ふと思ったんだがな、もしお前が告白されるならどういうのがいい?」
「えー、たかちゃんがしたい場所ならどこでもいいよ」
「うーむ」
一層困り果てた。どこでもいいっていうのは、正直一番困るのである。レストランを選ぶのと一緒で、いざ選んだら、不満そうな顔をするに決まっている。まあ、相手が美穂子ならそんな問題は起きないのだが。
しかし、これ以上告白の話題をするのはバレてしまう危険がある。どうやって流れを変えようかと考えていると、美穂子の方から助け舟が出た。
「そういえば、明日の放課後は健康診断あるから一緒にいられないよ」
「確か男子は朝で、女子は放課後だったか。なら、先に帰っておくわ」
早起きするのは面倒だと思ったが、おれはここで天啓を得たのである。明日の朝早く行って美穂子の親友の下駄箱に手紙を入れておく。そして親友を放課後に呼び出して二人きりで話をすれば、美穂子に気が付かれずにサプライズ告白をする会議ができる。
この天才的発想には自分自身に恐怖さえ覚えた。
「明日の晩御飯、何がいい? 一緒にスーパー寄れないから決めとこうと思って」
「美穂子の作った料理ならなんでもいいかな」
「わかった」
おれは「ねるか」と言って、明かりを消した。
待ち望んだ放課後がやってきておれは流石に緊張してきた。この相談こそがおれの人生を決めるのである。
校舎裏の一本松の下。以前、男女一人ずつこの場所で会っていたのを何度か目撃したので、ひそひそ話をするのに丁度いいと思ったのである。
そうしてついにやってきたのは、美穂子の親友こと有佐である。
美穂子と違ってゴボウみたいな体をしているうえ、髪は金色に染めているし、目つきは鋭い。おれの友人曰く、スレンダーで気の強そうな感じが良いとのことだが、美穂子の方が良いに決まってるだろ、と返したら熱い議論になってしまったのを思い出して疲れた。
おれは、「よっ」と声をかけると、なぜか有佐は緊張したふうに「よ、よう」と返してきた。
「お前、なんかテンションおかしくないか」
「たりめーだろ! 今から人間関係が壊れるかもしれねーんだぞ!」
確かに。告白に失敗して美穂子と気まずくなったら大変である。だが、おれは何度でも美穂子に好かれるように努力する自信がある。
「おれなら大丈夫だ」
「わたしだよ! ってか、おめー、美穂子が好きだってのに本気かよ。こんな場所に呼び出しといて冗談じゃねえだろうな」
「何言ってんだ。本気に決まってるだろ」
「一応手紙の内容を言ってやる。本当にお前が送ったのか合ってたら『はい』って言えよ。
『親愛なる有佐様
おれは同じクラスの孝昭です。今日の放課後、一本松の木の下で二人っきりで会ってもらえませんか。伝えたいことがあります。』
……あってるか?
」
「答えは、はい、だ。おれは嘘をつく理由がない」
「本当にいいのか、美穂子のことは」
美穂子がいい、だって? 当然いいに決まってる。
当たり前のこと言わせないでほしい。
強い意志を持って首肯すると、有佐が死地に赴く戦士のような顔をした。
「わかった。じゃあ、わたしの答えを言う」
何言ってんだこいつ。おれはまだ質問を出していないぞ。
おれが口を挟むより先に、有佐は言い切った。
「わたしはお前とは付き合えない」
「当たり前だろ」
「えふぇっ?」
埴輪みたいな顔して立ち尽くす有佐。おれは、何か勘違いしている様子の有佐に向けて肩をすくめてから言った。
「お前に美穂子のころで相談したいことがあったんだ。だから、お前に手紙をだしたんだ」
「ほわわっ?」
おれは人選を間違えたのではとすでに後悔しはじめていた。
埴輪からアウストラロピテクスくらいには進化した有佐は慌てた様子で言った。
「ちょっ、お前、わたしを一本松の下に呼んどいて、美穂子のことについて相談したいだと? はあ?」
「わかりやすい、いい目印だろう」
「いや、おまっ」と有佐は言って、眉間を何度かもんだ。「もうわかった。お前らはわかった。あーはいはい」
何もわかってないだろ、と思ったが黙っておいた。まだ相談さえしていないのに、何を言ってるのだこいつは。
亜里沙は腕を組んだ。美穂子と違って貧しい乳だから盛り上がりがない。まるで無機物を見ているような気分だった。
「それで、相談ってなんだ」
「いや、いい加減美穂子に告白して思いを伝えようかと」
ついに亜里沙は白目を向いた。仮にも女がしていい顔じゃない。
「むしろ今まで付き合ってなかったの?」
「そうなるな」
「え、それで、時々デートしてるの? 夜には時々、く、くく、口でやったりしてるとか言ってたのに?」
「幼馴染だからな。だから、キスと本番はしてないぞ。もしお互いの好きな相手が違ったら駄目だからな」
ちなみに、もし美穂子とえっちなことをするならおれは絶対に自宅がいい。なにせ美穂子は家庭的だから、一番そういう場所が似合うのである。
有佐は飲まず食わずで世界一周したような顔をした。
「頭痛がする。あー、つらっ」
「それはこっちのセリフだぞ。お前のせいで話が進まん」
「あー、うん、そーね」
やっと納得したようなので、話を進めることにした。
「で、告白するわけだが、いいシチュエーションでしたいわけよ。そしたら、美穂子が好きそうな良い場所とか教えてほしいなと」
「でも、そういう話はしたことないな。好きな食べ物が柑橘系だとは知ってるが」
「はぁ、柑橘系が好きだが、グレープフルーツは苦手だぞ。それくらい知っとけよ」
おれのなかで有佐は美穂子の親友から知り合いにランクダウンした。
「……こらえろわたし、がんばれわたし」呪文を唱えた有佐は目が笑っていない笑顔をした。「なら、夜景のおしゃれスポットにでも行けば」
「県内のそういうスポットは美穂子と全部回ったわけだし、新鮮味がない」
「二人でお気に入りの場所とかないのか」
「美穂子はどこでもいいらしい。おれもそう思う」
「今なら人殺せるな、わたし」と荒んだ表情の有佐は鬱陶しそうに、「じゃあ場所に加えてモノをつけたらどうだ。花束とか」
それを聞いて、おれはピンきた。すべてが繋がった感覚。今のおれは名探偵たかちゃんである。場所とモノか。なるほどな。
おれは有佐に礼をいい、すぐさま走り出した。
「美穂子、大事な話がある」
おれと美穂子はいつものベッドで正座して向き合っていた。
並々ならぬおれの雰囲気を察したようで、美穂子は真剣そうな表情である。
喉がヒリヒリしてうまく喋れるか不安になった。これが告白のプレッシャーか。恋愛とはなんと奥が深いのだろう。
おれは隠していた封筒を取り出し、その中に畳まれていた紙を広げた。これこそがサプライズである。
美穂子は困惑した様子で、
「これって、婚姻届……」
「そうだ、お互いの両親の印鑑もある」
おれが選んだモノというのは婚姻届であった。おれは18歳になったので取得することができ、これを出すことによって、美穂子にサプライズを与えたのである。さらに、おれの部屋で告白をすることで、『えー、たかちゃんがしたい場所ならどこでもいいよ』――つまりは、したい場所=おれが美穂子とえっちしたい場所=おれの部屋という高度な暗号をも達成することができた。
おれは、畳み掛けるように、
「美穂子、おれと付き合ってくれ!」
と言った。




