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三章

悪夢が二人の日常を呑む。夏希を襲う怪異を朱鷺子は止められない。

 午後になって、下校の時刻になっても夏希は帰ろうとしなかった。また、あの西階段3Fと4Fの間にある踊り場の隅にいた。しゃがみこんでいる。

「夏希……」

朱鷺子が呼んでも聞こえない様子だった。やがて、床に両膝をついてしまった。うな垂れている夏希の頭の直ぐ前にある壁の染みは、この前よりもずいぶん大きくなっていて、バレーボールほどもある。

「もう帰ろうよ……」

夏希は床にぺたりと坐り、壁に頭のてっぺんをつけて、小さく丸まっている。壁の染みと頭の先とが重なっている。薄茶だった染みの色が、次第に赤黒くなっていく。朱鷺子は何か嫌な感じがして、

「やめなよ。夏希……」

言いかけたとき、すでにそれは始まっていた。ゆっくりと夏希の頭の先が壁に呑み込まれていく。

「夏希っ。」

朱鷺子は夏希の両肩に手をかけ、引きずり戻そうとした。しかし、止まらない。ずるずると夏希は、まるで粘膜のようになった壁に、もう耳のあたりまで呑まれている。壁には、夏希を受け入れるように、一抱えほどの大きさの蠢く異形の塊が湧いていた。辺り一面に腐臭が漂い、朱鷺子はむせ返った。

「うっ……こんなのって……」

 そのとき朱鷺子にも声が聞こえた。この声は夏希を呼んでいると朱鷺子には分かった。野太い声いようであり、か細いようであり、掠れていて、魂を引きずるような声だった。


 朱鷺子は必死に抵抗しようとした。しかし、身体に力が入らない。痺れるように両腕が重い。やがて身体を支えきれなくなって、夏希から手を離してしまった。崩れ落ちるように座り込んでしまった朱鷺子の目の前で、蠢く壁は夏希を呑み込んでいく。

 ……柔らかな黒い髪から覗く白いうなじが赤い壁の中へ消え……すこし猫背の華奢な制服のブラウスの肩が蠢きに包まれ……だらりとした半そでから出ている細い腕が呑まれ……いつも見ていた背中が消えて……夏服のスカートの括れた腰がゆっくりと……力の抜けた白い膝の裏を見せてずるずると引きこまれていく……


 やがて、夏希の白いソックスのつま先を完全に呑み込んだ後、壁は今までが嘘のように元に還った。漂っていた腐臭も消えた。身体の自由を取り戻した朱鷺子が壁に触れると、まだ微かに柔らかいような気がした。目の前の床には、忘れ去られたように夏希のスリッパだけが残されていた――

お読み頂いてありがとうございます。実は、この小説は途中です。まだ続くのですが、時間的に間に合いそうにないので、ここで一旦投稿します。続編は、順次なろうで投稿する予定です。

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