表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

一章

夏希の夢により、すでに呼び寄せている。日常に潜む悪夢の種。朱鷺子は夢を見る――

 その日の朝は、雨が降っていた。夏希と朱鷺子は連れだって学校へ行く。通学路にブロック塀がある。たっぷりと水を含んでいた。

「夏希。あれから変な夢を見た?」

「見てないけど……」

夏希は、湿ったブロック塀を指で撫でた。男子生徒が数人、二人を追い抜いていく。その背中を見ることもなく見ながら、

「声が聞こえるねん……」

夏希は呟くように言った。

「どんな声なの。」

「山びこみたいに遠い声やねんけど……どんなに騒がしくっても聞こえるねん。」

「何て言ってるの。」

「わからへんけど……なんか誰かを呼んでるみたいな……」


 下校時刻になっても、雨は止まなかった。校庭はぬかるんで、僅かな高低を泥水が流れている。灰色の空は、そのままで暮れようとしていた。朱鷺子は、じっと身じろぎもせず、昇降口で夏希を待っていた。テスト前であったから、もう大半の生徒は帰ってしまったのに、夏希は帰ろうとしない。

 夏希は、西階段3Fと4Fの間にある踊り場の隅に向かって立っていた。もうずいぶんとそうしていた。よく見ると、そこには染みのような汚れのようなものがある。夏希はそれを見ている。朱鷺子がいくら誘ってもそこから離れがたいようだった……


――その夜、朱鷺子は夢を見た。

 しとしと雨が降っている。朱鷺子の両側には、ブロック塀が何処までも続いている。先は見えず、後ろは振り向けない。ブロック塀の列は、たっぷりと水を含んでいる。その上を無数のカタツムリが這っている。殻の縞模様も様々に、列をなして朱鷺子の向いている方へと進んでいる。見ていると、カタツムリが溶け出した。ブロック塀の中へ染み込んでいく。

 急に暗転して、暗闇の中にいる。遠く揺れる青い灯が見える。誘われるように近づいていく――


 目が覚めるといつもの朝だった。晴れていた。朱鷺子は夏希に夢の話をした。

「その道の先に、何があったんやろうね。」

「何だろうね。」

女子生徒が数人、二人を追い抜いていく。そのスカートの短さに目をやるともなく、飛行機の飛ぶ音がした。

「何か、そんな青い灯の夢、私も見たような気ぃするわ。」

「何だろうね。」


 その日の午後に、朱鷺子は保健室で寝ていた。授業中に目の前が暗転して、そのまま運ばれた。貧血だろうと言われた。

お読み頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ