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Kings of Dolls  作者: ゆきうさぎ
8章 第一試合最終戦 フィーネvsノワール
18/19

17話

フィーネは背負っていた棒のようなものをおろす。それをそれぞれ片手に持ち、軽く振るう。すると、バサッという大きな音と共にそれは大きく形を変えた。

 巨大な鉄扇。それがフィーネの武器であった。

 フィーネは構え、ノワールの動きを窺う。

 それに応えるかのようにノワールは動く。助走もなしに一気にトップスピードに乗って一直線にフィーネに向かう。戦斧を振り上げ、一撃を振りかざす。

「………」

 刃先がフィーネに触れるか否かわずかな瞬間、フィーネは見極めるかのようにノワールの動きを注視し、最小限の動きで一撃を躱した。

 しかし攻撃はこれで終わらなかった。フィーネが躱すと同時にノワールは柄を持ち替え、今度は横に薙いだ。しかし今度も上へ跳ぶことで攻撃を避けた。

「まだまだ!」

 またもノワールは攻撃の途中で次の攻撃に切り替える。身の丈ほどある巨大な戦斧をノワールの華奢な体つきからは考えられないくらいの力と速さで操る。彼が斧を振るたびに空気がわずかに揺れている。

「………」

 一方のフィーネも当たれば大けがは免れない一撃を軽々と躱していく。空中に跳んでも、その場で空を蹴って横へ移動する。お互いに人間離れした動きで見ているほとんどのものが目で追うことができなかった。

「……埒が明かないな」

 何十回もフィーネを狙ってもなかなか当たらない。さすがにこれ以上は無意味だと思ったノワールは攻撃の手を止め、距離を取るべく後ろに下がった。

「すばしっこいお姫様だこと」

 攻撃の雨も止んだため、フィーネもその場に止まり、ノワールの方をじっと見ている。

「何もしてこないところを見ると、なんか企んでるんだろうな……」

 フィーネは純粋な武力もさることながら智将としても優れていることをノワールは知っている。力で捻じ伏せ、策を弄して敵を倒す。これがフィーネのスタイルだった。

「なら考える隙を与えないようにしないとな」

 ノワールはその場で斧を振りかざし、地面に向かって振り下ろす。大地が割れ、土の塊が跳ね上がる。そしてそのまま斧を横に大きく振ると、斧に当たった土の塊は壊れることなく、フィーネの方へ飛んでいった。

しかし、目にもとまらぬスピードで迫ってくる土塊をフィーネは手に持った鉄扇を大きく横に振るうだけで全て弾き飛ばした。

「っ!!」

 その一瞬をノワールは逃さなかった。攻撃を防ぐために扇を使うことで生まれた一瞬の隙。ノワールは土塊がフィーネによって壊される前から動き出していた。もちろんフィーネもすぐに反応する。だが遅かった。

「はああぁぁあ!」

 横薙ぎの一閃。破壊の一撃がフィーネに襲い掛かる。

「くううう! ……きゃあ!」

 躱すことができないと判断したフィーネは鉄扇で斧を受け止める。けたましい金属音が響く。しかし、力の差は歴然としており、均衡はすぐに崩れ、フィーネはそのまま吹き飛ばされた。

 小さな悲鳴を上げて空を舞うも、フィーネは空中で態勢を整え、うまく受け身をとって着地する。

「いったあ……馬鹿力め」

 鉄扇でかろうじて受け止め、直撃はしていないはずだった。しかしノワールの力の強さを物語るかのようにフィーネの口からは血がこぼれていた。それを袖で拭うと、フィーネはノワールを睨む。それからふうー、と息をついた。鉄扇を左右に突き出し、振り上げる。

「今度はこっちの番よ」

 その場で鉄扇をゆっくりと動かしていく。さながら舞うように動いているのだが、徐々にそのスピードは加速している。

「避けてよね♪」

 フィーネは縦に横にと鉄扇を激しく振るう。そのたびに空気が振動し、時折、地面が抉られるように舞い上がっていく。

 フィーネが鉄扇を開いたとき、ノワールはすぐに回避に移った。嵐のように荒れ狂うフィールド内を走る。無軌道に飛んでくる障害物を壊しながら、止まらないようにひたすら走り続けた。理由は簡単だ。

 フィーネが振るった鉄扇の先からまるで刃のようなものが飛んでいるからだ。それは地面や壁に当たると爆発を起こしていく。フィーネを中心に円を描くように爆発が次々と起こる。

「あー、どうにかしないとな……」

 近づこうにも彼女の舞は決まった型などではなく、まったくのでたらめであった。そのため隙が見当たらない。しかもいつこっちに飛んでくるかすらもわからないからなかなか簡単にはいかないのだった。

「どうも南の人たちは遠距離攻撃好きだよな……」

 何とか打開策を考えながら呟く。フィーネとの距離はだいたい150メートル程。接近自体は苦ではない。もちろん爆発に巻き込まれないという保証はないが。

「俺の能力を使うにしてもな……。この状況じゃ、大した意味もないだろう。ふむ……」

 ノワールが考えている間もフィーネの攻撃は続く。鉄扇から放たれる刃は無限にあるかのように止むことが決してない。ひたすら破壊を続けている。

「……やるしかないか」

 ノワールは何か覚悟を決めると、逃げるのやめ、フィーネの正面に立つ。フィーネの方もノワールの行動の変化に気づいたようで、360度自由に舞いながらも彼を注意深く見ていた。

 そしてノワールが姿を消した。途端にあちこちで刃が爆発を起こし始めた。フィーネの仕業だと見ていた者たちはそう感じただろう。しかし、フィーネはこの異変の正体にすぐに気付いた。

「力任せに来たわね」

 フィーネは消えたノワールの姿をすぐに把握した。フィーネの周りを、円を描くように走っていたのだ。そして彼の進行方向に刃があるたびに斧で破壊していたのだった。そうやって徐々にフィーネとの距離を詰めていく。ノワールの意図に気づいたフィーネはすぐに対抗する。舞のスピードをあげ、放つ刃の数を増やし始めた。それと同時に起こる爆発の回数も増えていく。

 そして二人の距離がノワールの攻撃範囲に入った時、

「やぁぁぁああ!」

 速さと力を兼ねそろえた一撃がフィーネに迫る。

「はっ!」

 しかし、この一撃も鉄扇によって阻まれた。今度は力で押し負けないようにうまく体の重心を調整し、最小限の力で防いでいた。

 すると今度は斧を防いでいないもう一つの鉄扇がノワールを襲う。巨大な鉄扇はしっかりとノワールの首を狙っている。ノワールは斧を軸にジャンプし、フィーネの背後に回って躱した。そして手前に引き寄せるように斧を自分の方向へ振る。フィーネは斧を鉄扇で受け流しながら上体をそらす。斧は彼女の上を通り過ぎていった。

 ノワールは少し下がって距離をとる。そしてすぐに再びフィーネに接近した。最初と同じようにいろんな方向から斧を振りかざしていく。対するフィーネは躱したり、鉄扇で受け止めたりしながら、時々反撃をしていた。もちろんノワールの方もそれを難なく避けていく。

 若干、ノワールの方が優勢に見えるが、二人はほぼ膠着状態だった。大した一撃を与えることもできず、二人はひたすら撃ち合いを続けていた。



「拮抗状態。先に変化を加えるのはどっちかしらね」

 二人の戦いを眺めながらクローディアは呟く。今までのすべての流れを見ていた彼女は、少しの胸の高鳴りを抑えつつ、次の戦局の変わりを見ていた。

「お前も交ざりたいのか?」

 声をかけられる。振り返ると、紫織を始め、イーリス学園の人たちがいた。

 雪乃、いづなはクローディアに目もくれず試合を眺めている。迷路は眠そうにしており、立ったまま船をこいでいた。

「どうしてそんなことを聞くのかしら?」

「お前の顔を見ればすぐわかる」

「あらそう」

 適当に返事をして、クローディアは視線を戻す。

「そういう態度が言ってるようなもんだって……」

 やれやれ、と紫織はクローディアのすぐ後ろの椅子に腰かけた。

「じゃあ聞くけど」

 振り返らずに尋ねる。

「あなたはあれを見て何とも思わないの?」

「俺は何にも思わないな。勝てばいい。それ以外はどうでもいいんだよ」

「ならあなたと話すことは何もないわ。どっか行って頂戴」

 一方的に突き放す。

「あなたと話してもきっとあなたは理解できない。私とあなたでは根本が違うのよ。だから私はあなたを理解できないし、あなたは私を理解できない。

歩み寄ることはできても、共存はできないわ」

 淡々と語るクローディアに紫織は苦笑する。その様子を見ていた白は何か考えがあるような表情を見せ、クローディアの方まで近づくと、「隣、失礼します」と言って隣に座った。

「……あなたから来てくれるなんて、どうしたの?」

 以前のようなハイテンションで白に絡まずちらりと彼を横目に見る。

「僕はクローディアさんの言いたいこと、わかります。たぶんだけど、僕とクローディアさんは『同じ』で、紫織さんは『違う』から……」

 緊張しているのかたどたどしく言う。その様子をクローディアはたまらなく愛おしいと思ってしまった。

「そうだろうな。正反対なように見えてお前ら二人はそっくりだし。お前の言う通り、俺とお前たちは根本的に違ってるし、分かり合えない溝がある。お前が必死になってこの試合を見て、交ざりたいと思う気持ちが俺には一切湧かない。興味がないからな」

「………で、私はもうあなたに構わなくていいのかしら?」

「ああ、好きにしてくれ。白も預かってていいぞ」

「言われなくても」

 クローディアは白の肩を抱くと、自分の方に引き寄せる。

「わわっ!」

 不意を喰らって体勢を崩し、白はクローディアの肩に頭を預けるような状態になった。

「ク、クローディアさん?」

「このままでも別に見えるでしょ? 私もちょっと疲れたからこうさせて」

「………」

 ちらりと視線を上げる。確かにクローディアの顔にわずかな疲労が見られた。とはいえ、これをする意味があるのだろうか………。

「じゃ、ごゆっくりな」

 紫織は立ち上がり、三人を連れてどこかへ行ってしまった。

「………」

 こうして触れ合うことで彼女の体温、香り、そして小さな体の動きを直に感じてしまう。

 白は恥ずかしさと緊張で顔が赤くなる。しかし、当のクローディアは一切気にする様子はなく、いまだ均衡が続く試合に見入っていた。

「………」

 そんな彼女を見て、白も恥ずかしさを抑えて試合に集中することにした。

 

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