16話
「さあさあついにこの時がやってきました! ここまでの成績は3対2。サンクレウス学園が一歩リードしています。でもまだわからない。一発逆転も大いにある。最後まで見逃すな! まずはサンクレウス学園から、皇帝フィーネ=イニーツィオだ!」
大きな歓声があがる。それに応えるようにフィーネも手を振り返す。彼女は背中に二つの大きな棒のようなものを担いでいた。
今までの彼女とは全く違う。溢れんばかりの殺気と力。皇帝の名にふさわしい威圧感を漂わせていた。
「そして対するノーランド学園からは、国王ノワール=ノーランド!」
身の丈ほどある戦斧を抱えたノワールが歩いてくる。向けられる歓声に軽く会釈をしながら、しかしその視線は前にいるフィーネを見据えていた。
「両者相見まえました。今までの戦いもさることながらこれから行わるのはトップ同士の戦い。一体どうなるか全く見当が付きません。というかコロシアムが壊れるんじゃないか心配です」
「さすがにそれは大丈夫だろうけどね」
シャナの大げさな実況にスターナが突っ込む。
「いやいや雰囲気が大事なんですよ。……さて、一応ルールの補足を。もし引き分けで勝負を終えた際は、各校の勝者でサドンデスを行ってもらいます。そこで最後まで残っていた側の勝利となります」
「この場合、ノワールが残るとサンクレウス側は相当不利だろうね」
「まあ、さすがにクローディアとエクセラじゃ、無理だろうな」
「というわけです。つまりどちら側も絶対に負けられないのです!」
「だそうよ。みんな負けたくないとは思うのだけど、あなたはどう?」
「そうだな、今は勝ちたい気分だから、負けるのは嫌だ。約束してるしな」
「レミィとかしら?」
「……だけじゃない。みんなとだ。別に口では言っていないが、わかってくれてるだろう。ここまで頑張ってきてくれたんだから」
「………雰囲気、変わったわね」
フィーネの言葉にノワールは答えない。後ろを向き、距離を取っていく。
「これは初めから全開でいかないと不味いわね」
ノワールの雰囲気、それはフィーネが思わず冷や汗を流すほどの迫力だった。
一方のノワールも自身に圧しかかるプレッシャー、そして自らが決めた覚悟、その二つを背負っていることを感じ、苦笑する。
「『らしい』ことをしようっていうのに『らしく』ないな……」
フィーネは強い。紫織やシンシアとは違う強さを持っている。かつての自分はその強さを理由に負けても気にしなかった。偶に勝つこともあるが、それもどうでもよかった。
だが、今は違う。勝つ。勝たねばならない。
彼女の殺気は対面するのも恐ろしいものだった。だが、不思議と今は落ち着ていられる。
「さて、やるか」
張りつめた緊張。それはこれから戦う二人だけでなく、この場にいるすべての人が感じていた。
そんな耐え難い状況の中、シャナの声が響いた。
「そ、それでは第一試合最終戦! ………始め!」
キリがいいので短いですが一旦ここで区切ります