12話
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「さ、ミーナいくよ!」
「わかった!」
二人は己の武器を取り出す。シーナは弦のついた小さな楽器、ミーナは横笛だ。
「「第一楽章『誕生』」」
二人は演奏を始める。軽快な弦を弾く音色と寂しさを感じさせる笛の音。二人のセッションがコロシアムを包む。
「さて、最初から飛ばさせてもらうよ! 『自唄然踊』」
シーナの言葉と共に、彼らの周囲の地面が揺れる。そして弾けるように地面が割れ、そこから無数の木の枝が飛び出してきた。それらは縦横無尽にフィールドを駆け巡り、時折別の場所からも新たに生えてくる。
「出だしから来るわねー」
クローディアは迫ってきている木々を見ながら呟く。
「お姉ちゃん、そんなに呑気でいいの?」
アリスはすでに両手にそれぞれ拳銃を持っていた。
「この程度はね。むしろこのくらいで焦ってちゃ、ダメよ? 冷静に対処するの」
そう言っているうちに二人に木の枝が迫る。数本の枝が二人を潰さんとする瞬間、クローディアは片手を振り上げた。それと同時にクローディアの前で二つに裂け、避けるように地面に突き刺さっていった。
「ね、簡単でしょう?」
「……それはお姉ちゃんだからでしょ!」
一方のアリスは木の枝につかまり、それを軸に体を回転させて大きくジャンプして躱していた。
「あなたのその避け方も大概でしょう。さて、向こうの準備も終わったようだし、私たちも動きますか」
気づけば、二人の周囲は木々に覆われ薄暗くなっていた。観客席も見えず、数十メートル先も木で塞がれている。
「アリス、あなたは気兼ねなくやりなさい。もしもの時はちゃんとサポートするわ」
「そんなのでいいの……?」
「あなたは縛られない方がいい動きをするからね。……よし、行くわよ!」
クローディアとアリスはそれぞれその場を離れ、動いていった。
「よし、こんなものかな?」
演奏を止め、二人は目の前の大きな森を見る。
「とりあえず狙いは二人で一人を狙う。まずはアリスだ」
「うん。もし合流されたらすぐに逃げる。で、何とかして分断させる。絶対に無茶はしない」
「特にクローディアには注意すること」
二人は各々のすべきことを確認し合う。
「行こうか、シーナ!」
ミーナはシーナの方を向き、唐突に彼にキスをする。シーナは特に驚くことはなく、大人しく受け入れた。やがてミーナは離れると少し頬を赤めながら笑った。
「これで準備オーケー。やるよ!」
二人もまた森の中へ駆けていった。
「自由に動いていいと言われたけど……どうしよう」
アリスは森の中を駆ける。周りへの警戒を怠らず、さらに決して木に触れないように自分の能力を使って空を蹴って走っていた。
「探してもどこにもいないし……」
もともとかなり広いフィールドであるのに加えて、この森。視界悪くなり、自分の位置もまともに把握できない。
「いくら私が足が速くてもこれじゃあ、ねえ」
悪態を吐きながら走る。しかし状況は一向に変わらない。ただただ木々が広がるだけであった。
「むぅ……もう!」
アリスは苛立ちの声をあげた。
「これじゃ、埒が明かないよ! 見つけられないなら出てきてもらうよ!」
両の手に拳銃を構え、自分の周囲に向けて一斉にうち放つ。弾は木々に当たると次々と圧し折っていく。
「もっと威力をあげて……」
銃に力を込める。すると銃身は薄緑色の光を放ち始めた。
「たやぁぁ!」
また撃ち始める。しかし今度はただの弾丸ではなく、風を纏った弾丸だった。そして木々に当たるとまるで抉り取るかのように突き抜けていく。
アリスは踊るように銃を乱発し、進んでいく。彼女の通った跡はさながら嵐が過ぎ去ったかのように凄惨の状況となっていた。
「早く出てこないと知らないよ!」
挑発するかのように声を上げる。しかし反応はない。
「……まだ足りないのかな……?」
アリスはさらに勢いをあげた。尽きることのない弾は辺り一帯を蹂躙していく。
しかしいつになっても反応がない。気づいていないはずはないのだが……。
「………っ!?」
彼女は微かに感じた変化に身を強張らせる。撃つのをやめ、辺りを見回す。
~~♪ ~♬~~~♫
耳に届く調べ。彼らが近づいているのだ。いつでも撃てる体勢をとり、アリスは止まった。
「目だけじゃなくて耳もいいんだね。普通、聞こえないよ?」
「せっかく奇襲かけようかなと思ってたのに……」
音楽がやみ、隠れる素振りもせず双子が姿を現した。
「しかし派手にやってくれたね……。森林破壊もいいとこだよ」
「ならいっぱい作ればいいと思うんだけど……。シーナさんできるよね?」
「疲れるから嫌だよ。……っと、あんまりもたもたしてクローディアが来ても困るからね。ミーナ!」
二人は楽器を構え、演奏を始める。
「「第二楽章『幕開』」」
心を湧き躍らすような音楽が流れる。聞くだけで元気が出るような、そんな演奏を二人は始める。
しかし一方のアリスは頬に冷や汗が流れるほど、警戒していた。そしてある程度の距離を保ちながら、いつでも動けるように引き金に手をかける。
「それ!」
シーナは声をあげる。すると、周りの木々が枝を伸ばして一斉にアリスを襲い始めた。
「こんなもの……!」
アリスは即座に動いた。軽やかな動きで枝の間を掻い潜り、どうしても避けるのが難しいものは銃で撃ちぬいていく。そしてその速さはとてもじゃないが、目で追えるものではなかった。
「うわー、速いや」
「さすが『神速』。でも、大丈夫だよね?」
「もちろん! さ、続けるよ」
二人の演奏は続く。その間にも木々は執拗にアリスを狙い続けていた。ひたすら躱す一方のアリスが何とかして二人に接近しようとするが、木々が進行の邪魔をしてうまく近づけない。
「邪魔!」
飛びながらアリスは空をキックする。すると、正面の木がまるで刃物によって斬られたかのように、切断されていった。
しかし木は無限に襲い掛かってくる。アリスは捌こうにもその多さに苦戦していた。
「森林破壊がどうこういっても、そっちがけしかけるんだから仕方ないじゃないですか!」
「なら大人しく喰らいなよ!」
アリスは黙ったままで、避けることで答えた。
「これでも足りないか……なら次いくよ!」
二人の演奏は曲調を変えた。先程とは一転、悲哀と落胆を感じさせる、儚い音色に変わった。
そして同時に二人から離れた場所で爆発が発生した。
「「第三楽章『寂日』」」
爆発は無作為に起こる。その爆発の余波で木が崩れ、さらにアリスは動きが制限されてしまう。
「さて、どこまで耐えられるかな!?」
激しさの増す攻撃にアリスは必死に耐え忍ぶ。自慢のスピードもだせず、徐々に被弾していくようになった。
木の猛攻をしのいでも、どこから来るかわからない爆発の余波に引っかかって動きを止められ、別の木の攻撃に当たってしまう。加えて、アリスはもう一つのことも気にかけていた。
しかし、相手の攻撃は激しさを増す一方で一向に攻勢になれないアリスは次第にイライラを募らせていた。
「もう! いい加減吹き飛べ!」
アリスは力を銃に込める。そして迫りくる木々を無視し、いったん瞳を閉じて心を落ち着かせる。
「…………」
その間にも容赦なく木々はアリスに迫ろうとする。
「………はあ!」
一陣の、鋭い旋風がアリスを包みこむ。そしてその風はアリスに迫る木々を薙ぎ払うように切り刻んでいった。さらに別のところで爆発し、それによってアリスの方に倒れてきた木も木端微塵にされる。
「………」
アリスは銃を構え、丁寧に二人の位置を探る。音源を見つけ、そこに向けて銃口を構える。
「……一発粉砕………吹き飛べっ!」
全力をこめて引鉄をひく。薄緑の光を伴った弾丸はまるで砲弾のように大きく、まっすぐと双子のいるところへ飛んでいった。
「わわっ! ミーナ避けて」
二人は演奏の手を止め、回避に専念する。幸いすぐに気付けたので、全く当たることもなく余裕で回避できた。
「ふん、そんなんじゃ……」
「! シーナ!」
ミーナは余裕な表情でいるシーナを突き飛ばす。二人はその場に倒れた。そしてその上を何かが通過していった。
「ミーナ……?」
「すぐ立って! くるよ!」
ミーナはすぐに立ち、シーナを引き起こす。
「っつう!」
ミーナはその場で上体を反らす。彼女の上を薄緑の弾が飛んでいった。
「シーナ近くにいる! 木で防いで!」
「わかった!」
シーナは自分の能力を使って、自分の周りに木の囲いを作った。
『自唄然踊』、あらゆる木を自在に生やし操る能力。成長という過程をすっ飛ばし、瞬間的に木を生み出すことができる、シーナの能力だ。
「ミーナ、こうなったらもう一つの作戦だ。頼んだよ」
ミーナは返事をせず、すぐに行動に移った。
一方のアリスはわずかに生まれた隙をついて、全力で移動しながら弾を撃ち続けている。最初の奇襲でダメージを与えるつもりだったが、ミーナがすぐに気付いたために失敗した。しかしその後も止まぬ攻撃を続けることで主導権を握ろうとしたが、二人はすぐに対策を取り始めた。
(何するつもりか知らないけど、もう止めれないよ!)
一瞬だけ動きを止め、二人の様子を見ていたアリスは、ミーナが一人行動し始めたのを見て、すぐに次の攻撃に移った。
高速で駆け回り、ミーナの背後をとる。そして間髪入れず何発も撃った。
しかしミーナはこちらを見ることなくかわした。さらに何かをこちらに向けて投げてきた。
「……」
アリスはすぐに離れる。投げたのは小石のようで、どこか適当な所に落ちていった。アリスはまた移動し、弾を撃つ。今度は木で自分の身を守っているシーナの方を狙った。ミーナを狙った時よりも大型の弾で木を貫こうとする。
「なっ……!?」
ところが弾は木に当たる前に突如発生した爆発に巻き込まれてしまった。一応、木には当たったが威力をかなり落とされ、まともに傷つけることはなかった。
「……動き、読めてますよ」
ミーナの挑発の声が聞こえる。こちらの動きが悟られていたようだ。
「……策を弄しても無駄ってこと……? そんなのわかってるよ」
だから――! アリスはとにかく手数で攻めた。
まさに銃弾の嵐。しかしシーナの木の囲いとミーナの反射神経と謎の爆発によってことごとく落とされていく。いくつかはミーナに掠りはするもいずれも致命傷にはならなかった。
そんな状況が続くとアリスにも焦りが出てくる。
(なんで当たらないの……。お姉ちゃん……どうしたらいいの)
しかし当のクローディアはいまどこにいるかわからない。そんな中でアリスは何とかして二人を倒さないといけない。
(こうなったら……)
アリスは太ももにつけているホルダーを開ける。そして再び銃を構えると、それを打ちながらミーナに向かって走った。
「きた……」
ミーナは構える。予定とは若干違うがそれでも十分だった。
「シーナ!」
兄の名を呼ぶ。その直後、彼女の前に木が生えてきた。それによってアリスの弾は防がれる。
しかしアリスは止まらない。突然目の前に現れた木に動揺することなく、その木の幹を手で押さえ、それを軸に体を回転させ、ミーナめがけて突っ込む。
しかし、アリスが木に触れた瞬間、彼女は違和感と焦りを感じた。その奥ではミーナが今アリスが触れている木に触っており、不敵な笑みを浮かべていた。
「やっとかかってくれましたね」
その言葉でアリスは二人の意図を察した。そしてすぐにその場を離れようとするも、すでに勢いづいていたためにすぐに動きを変えることができない。
「捕まえましたよ………『不触朔月』」
瞬間、二人が触れている木が光を放つ。そして同時に巨大な音と共に木は爆発した。
「きゃあぁぁぁぁああ!」
爆発をもろに受けてしまい、吹き飛ばされるアリス。さらに相当なダメージを受けているため、即座に動くこともできないでいた。なんとか意識だけは保っていたが、たった一撃で一気に追い込まれてしまった。
「かっ……くっ……!」
なんとか動こうと体に力を込める。しかしそれよりも先に相手の方が速かった。
アリスの背後で枝が伸びてくる。そしてそれはまともに動けないアリスをたやすく捕まえると体を締め上げ、やがて首までも絞めていた。
「がっ……は……苦……い…」
アリスは首を絞める枝に手を伸ばし、引きはがそうとするもびくともしない。逆に締め上げる力は強くなり、呼吸もまともにできなくなった。
「もう詰みだよ。君じゃそれから抜け出すことはできない。終わりだ」
いつのまにかシーナがアリスのすぐそばに立っていた。ミーナもいる。いくらか服が焦げ、体に傷があるが、かすり傷程度であり、おそらく爆発に少ししか巻き込まれなかったようだ。
苦しみながらもアリスは必死にもがく。二人の存在に気づくと、木から手を離し、二人に銃を向けようとする。
「………シーナ」
「ああ」
シーナは木に命じた。
それと同時にアリスを締め付ける力は一気に強くなり、そしてボキリッと何かが折れる音がした。
アリスの腕は二人に向けられることなく、力なく垂れさがる。そして枝がアリスから離れていくと、彼女の体はそのまま地面に落ちていった。ドサッという音がし、そこには目から涙を、口から血を流し、あらぬ方向に首の曲がったアリスが横たわっていた。そしてアリスが動く気配は一切なかった。
「これで一人。あとは……」
「また罠を張らないと……」
二人は地面に横たわるアリスの死体を一瞥するとすぐに次の行動へと動き始めた。
だが、双子たちが再び森の中に入ろうとしたその時、二人は身の毛よだつ殺気を感じた。そして声を出す間もなくその場を離れた。
二人が離れた直後、その場所に何かが降ってきた。
「………やっと見つけたわ……。ごきげんよう」
大きな鎌を携え、クローディアがそこに立っていた。しかしいつもの笑顔、真剣な表情はそこにはなく、ただただ冷酷で無表情な面持ちだった。
「そんな……なんでここが……?」
「シーナが足止めしてたはずなのに……」
二人は驚きを隠しきれないでいた。それもそのはず、二人はアリスを先に仕留めるために、クローディアに対して大量の罠と足止めを用意していた。しかもたとえそれを掻い潜ったとしても、そう簡単には見つけられるはずはなにのだが……。
「あなたたちに種明かしをする義理なんてないわ。それに………」
そう言って、クローディアは下の方を見る。そしてアリスを見つけると、すぐにそこへ向かい、横たわる彼女の傍でしゃがんだ。
「……馬鹿ね……。逃げて合流すればよかったのに。無理して一人で戦う必要はなかったのに」
決して怒っているわけではなかったが、彼女のアリスにかける言葉は冷たかった、そうして彼女の頬を軽く撫でながら、クローディアは立ち上がった。そして双子を見上げる。
「さて、私も負けるわけにはいかないのよね。だから、本気で行かせてもらうわよ!」
鎌を持ち、クローディアは一気に駆けだした。
「これでおしまい、ね」
クローディアは動かないシーナを引きずって、別の場所で倒れているミーナの所へ投げた。そうして二人は仲良く倒れ、死んでいた。体中に切り傷があり、腕がなくなっていたりもしていた。
そしてシーナが死んだことで彼の能力は解除され、木々はだんだんとその姿が薄くなっていき、やがて消えた。
「おおっと! 私たちが全く見えない間に決着がついたようです。サンクレウス学園側はアリス選手が戦闘不能、そしてノーランド学園側はシーナ選手、ミーナ選手両者ともに戦闘不能。残ったのはクローディア選手のみ。よって2対1で勝者はサンクレウス学園だー!」
木々が消えたと同時にフィールドの状況を把握したシャナは決着の声をあげた。そして観客も大いに沸いた。その声は一向に鳴りやまない。
そんな中、クローディアは体の傷を無視し、まっすぐアリスのもとへ向かう。そして彼女をお姫様抱っこの要領で抱き上げると、そのままフィーネたちの待つサンクレウス学園側の観覧席の方へ向かっていった。
「お疲れ様」
ある程度近づいたところでフィーネが労いの言葉をかけてきた。
「……ありがとう。私はアリスを連れていくから、後は頼んだわよ」
少し不機嫌そうにクローディアは言うと、そのまま医務室のある、コロシアム内へと言ってしまった。
「……余程アリスが心配なのね」
「あいつもなんだかんだ言って身内、特にアリスには甘いからな」
フィーネとエクセラは去っていったクローディアの背中を見ながら笑っていた。
「でもまあ、なんとか並んだわね。次が勝敗の分かれ道になるわ。準備は大丈夫?」
「ああ。あとは整備が終わるのを待つだけだ。任せてくれ」
エクセラは片づけと整備を始めているフィールドを眺めながら、自信ありげに笑ったのだった。