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Kings of Dolls  作者: ゆきうさぎ
5章 第一試合一戦目 フウリvsイリア
12/19

11話

貯めていたのその2です。

質問やアドバイスなどありましたらコメントにください!

試合が終わり、会場はまだ興奮が残っていた。がやがやと人の声が絶えない。

 サンクレウス学園の面々は特に騒ぎ立てることなく、静かにフィールドを見ていた。

「負けたみたいね」

 そんな中、クローディアは特に気にした様子もなく言い放ち、椅子に腰かけた。

「………フウリ君」

 アリスは倒れたまま動かないフウリをずっと見守っている。フィーネも同じだ。

「……………」

「何をそんな辛気臭い顔してるのよ。別に死んだわけじゃないのよ? いちいちそんな顔してたら身が持たないわよ」

 フィーネはクローディアの方に振り向く。その表情は今にも泣き出しそうな悲痛なものだった。

「まだ慣れてないの? ほんとにいつもそうよね、私たちの誰かが負けるとあなた、そうやって泣きそうな顔をする。どうせ私たちは死ぬわけじゃないんだからさ、一回一回悲しんでるとキリがないわよ?」

 クローディアの声色には幾分かの呆れが感じ取れる。

「………わかってるわよ。でもさ……」

 涙ぐんだ顔でクローディアを睨む。いつもの彼女の凄みは感じられない。

「でもさ、私たちが死なないのは特別だからなのよ? 普通は死んだら終わり。今に慣れてしまったら、ダメになってしまう。そう思うの」

「……別に間違ってはいないんだけどね……。あなたはそれが顕著なのよ。まったくこれじゃ王様よりお姫様みたいね」

 ふと、フィールドの方を見ると、整備の係の者が荒れたフィールドを直していた。まだ次の試合まで時間がかかるようだ。

 フィーネもクローディアもお互いの言い分はよくわかってる。フィーネの方も今は心配でいるが、無事を確認さえできれば、それは幾分か収まる。

 だが、これ以上クローディアにいろいろと言われるのも疲れる。ということで、適当に逸らすことにした。

「でも、お姫様なのはあなたの方じゃないの、クロウ?」

「私はあなたの前では騎士でなくって?」

「なら、その騎士はお姫様に口答えするのね?」

「よき騎士は上の者に忠言するのよ」

「「……………」」

 二人は一つため息をつき、苦笑いを浮かべた。

「私とフィーネの考え方の差だから仕方ないのかもしれないけど、それでも言わずにはいられないのよね。私は敗者に必要以上に宥めたり、声をかけたりしない。あなたは敗者を、いえ仲間をとにかく気に掛ける。だからこうしてお互い納得できないのよね。いつまで経っても」

「そうよね、あなたは身内にも厳しいからね。でもその分、私はみんなに優しくする。別にどちらかに合わせる必要はないのよ。……それじゃ、私はフウリの様子を見に行くから。二人はどうする?」

「私は行かない。二人で行ってくるといいわ」

「えっと……私も行かないです。行っても何もできませんし……」

「そう、アリスにしては珍しいわね。じゃあ私は行ってくるわ。二人は次の準備でもしておきなさい」

「りょーかい」

 フィーネは「あとはよろしく!」と言ってこの場をあとにした。

「アリス、本当によかったの?」

「う、うん……。さっきも言ったけど、私じゃ何もできないし、いるだけだと変に気を使わせちゃう。それなら行かない方がいいかなって」

「あなたにしてはよく考えてるのね。……にしてもフィーネも変なオーダーするよね」

「まさか次が私とお姉ちゃんでタッグ組むなんてね。陛下さんどうしてだろう……?」

「さあ? 間違いなく次に出てくるのはあの双子。残ったレミィはエクセラと当たるだろうね。でもエクセラと彼女はそんなに相性いいわけでもないのよね」

 ま、でも関係ないか。とクローディアは内心で呟く。

 とりあえず私たちが次勝たないとそもそも話にならないのよね。正直、どちらかがやられるだけでも十分危ない。

「アリス、余計な詮索はもうしなくていいわよ。次の試合のことだけしっかり考えていなさい」

「わ、わかった!」

 どんなに気にかかっていても言われたらちゃんと自制するあたり、つくづくアリスと自分は似てないなとクローディアは思った。一応血のつながった姉妹ではあるのだが。

「そういえばお姉ちゃん。対策とか戦法とか考えてるの?」

「ん? まさか。私はいつだってノープランよ。次だってそのつもりでいるのだけど。アリスは何か考えでもあるの?」

「私もないよ。でもあったとしてもお姉ちゃん、絶対いうこと聞かないよね?」

「わかってるじゃない」

「はぁ………」

 でも、とクローディアは続ける。

「あなたが何か企てていても私にはそれがわかるわ。それはたぶんあなたも同じ。なんだかんだで私たちは根本のところで発想が同じなのよ」

「……なんでだろう。すごい複雑」

「まあ、褒め言葉として受け取っておきなさい。……そうねとりあえず次の試合に向けて一言だけ言っておきましょうか」

 アリスの表情は一瞬で張りつめたそれに変わる。

 いい心構えだ、とクローディアは笑みを浮かべ、アリスに次の試合での作戦を伝えた。




「まずは一勝ってところか。最後の方はだいぶ冷や冷やしたが、さすがイリアだったな」

 ノワールは長いため息をもらして安堵の表情を浮かべる。

「最後は確かにもうだめかもと思ったけど、まあ地力の差だったな」

「レミィはどう見る? さっきの試合」

「いや、今言っただろ? 地力の差だって……」

「あーそういうことじゃない。試合内容ではなく、試合そのものだ。客観的にどう思った?」

 ノワールのその言葉に合点がいったようで、レミィは「ああ」と頷いた。

「向こうの彼はだいぶ戦闘スタイルが変わっていたな。あそこまで積極的に攻めるタイプではなかったはずだ。それに能力もだいぶ成長している。で、イリアさんの方も前より動きに余裕ができていて隙が減っていたように見えた。そうだな、全体的にレベルが上がったし、以前とはかなり様変わりしたように思えるな」

「そっかー」

 ノワールは観客席の縁に肘をついて頬杖をつく。

「どうしたんだ? そんなに悩むなんてあんたらしくないな」

「俺だって悩む時は悩むさ」

「……私じゃ、相談に乗れないのか?」

 レミィは固い口調を少しだけ柔らかくした声で、尋ねる。ノワールはそんな変化に微塵も気づいた様子もなくレミィの方を振り返り、笑った。

「大丈夫。たぶんこの悩みは今日で解決すらだろうからさ。それにわざわざレミィに手間かけさせるのも申し訳ないし、な?」

 ノワールの言葉にレミィはあきらめにも似た表情になる。わかっていてもどうにもできないもどかしさに襲われる。

(このバカは……)

 問い詰めたところで適当に流されるだけだ。だからレミィはそれ以上は何も言わなかった。

「そういえば、あの双子はまだ戻ってこないのか?」

「イリアさんの見舞いが終わったらすぐに戻るとは言ってたが……」

「まあまだ次の試合まで時間があるから急がなくてもいいけどな。あんまり遅いのも困るから……どれ、少し様子でも見に行くか」

 ノワールは立ち上がり、大きく伸びをした。

「ちょっとノワール!?」

「誰もいないのは問題だからお留守番よろしくな」

 レミィの制止を無視してノワールは勝手にいってしまった。

「ったくもう……。どうしてこうも人の言うことを聞かないのかな……」

 悪態を吐きながらもレミィは椅子に座った。

「しかし……」

 レミィは先程のノワールのことを思い出す。彼にしては珍しく真剣な様子だった。あまりしてこない質問もしてきた。

「一体どうしたんだろう。あいつらしくないし……」

 考えてもノワールの考えていることはわからない。どうしようもないレミィはとりあえず皆の帰りを大人しく待つことにした。




「………い」

 誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。

「……い、…ろ」

「……うるさいな……」

 せっかく気持ちよく寝てるのに邪魔をするとは何事だ。レミィは不機嫌に唸った。

「レミィ、起きろー」

「!?」

 ハッと目を開ける。

「えっ……、きゃっ!」

 そして思わず悲鳴を上げてしまった。

「きゃっ、ってなんだよ。人の顔見て悲鳴上げるなんて失礼だな」

目の前にはノワールの顔があった。彼は不愉快そうな表情でレミィの顔を覗き込んでおり、彼女が起きたのを確認すると「やっと起きたか」と言って離れた。

「お前がこんなところで居眠りするとは珍しいな。疲れでも溜まってるのか?」

 心配そうに、しかしどこか小馬鹿にした様子のノワールはにっかりと笑っている。

「私、寝てたの?」

「ああ、そりゃあもうぐっすりと。お前らしくないくらい無防備だったぞ?」

「そ。そうだったの………」

 レミィは自分の顔が熱くなるのを感じた。

(嘘っ! 私寝てたの!? もしかして寝顔見られてた……? 変な顔してなかったかしら。ああ、恥ずかしい……)

 思わず顔を覆いたくなったが、我慢して平静を保とうとする。

「ノワールの言う通り、レミィさんにしては珍しいね」

「具合、悪いのですか?」

 シーナとミーナもいつの間にか戻ってきており、レミィのことを心配していた。

「ああ、大丈夫。ちょっと疲れてただけみたいだ。心配することじゃない」

少し会話していくうちに目が覚めたようでいつもの男っぽい口調に戻っていた。

「ま、レミィが大丈夫って言うならそうなんだろう。けど、疲れてるなら言ってくれてよかったんだぞ? 控室で寝ててもよかったんだし」

「さすがにそれは申し訳ない。それに今寝ていた間にだいぶスッキリしたみたいだ。……それよりイリアさんはどうだった?」

「大丈夫。今は寝てるけど、さっき話してきた時は元気そうだったよ」

「がんばれって言われました……」

双子は嬉しそうに話している。制服ではない、お揃いの戦闘用の服装をしている二人はもう戦う準備ができているようだ。

「さて、そろそろ始まるようだ。頼んだよ、シーナ、ミーナ」

「「任せてください!」」

 声をそろえて二人は意気込む。





「さて、第二戦間もなく始まります。第二戦は2対2のタッグ戦となっています。ここでは一人でも戦闘不能になると1敗扱いになり、全滅すれば2敗、逆に一人でも倒せば1勝となります。一度に多くを得、多くを失う」

 シャナの声が再びコロシアムに響く。待ちくたびれていた生徒たちは歓喜と興奮の声をあげる。

「っと、ノーランド学園の方から選手が出てきました! シーナ選手とミーナ選手、ノーランド名物の双子です!」

 わぁっと歓声が大きくなる。それに応えるかのようにシーナは観客席に向かって手を振り返す。ミーナも少し控えめにお辞儀を返していた。

「ははっ! もう何回も出てるんだから緊張するなよ。それに僕がいるんだ、安心しな」

「う、うん……そうだ、……ね……?」

 ミーナは自信なさげに返事をしたが、自分の視界に移ったものに血の気が引くのを感じた。

「? ミーナどうした?」

「シーナ、どうしよう……」

 シーナはミーナの視線の先を見る。そして、「うわぁ……」と重い表情になった。

「人の顔を見て、そんな顔するなんて失礼ね。これはきつい灸を据えてあげないとダメかしら?」

 二人の視線の先には満面の笑みを浮かべたクローディアがいた。隣にはいくらか緊張した様子のアリスがいる。

「おおっと! これは驚きだ! サンクレウス学園からはクローディア選手とアリス選手。こちらも姉妹での登場だー!」

 シャナ自身も驚いたようで、しかし珍しい組み合わせに期待に膨らみ、大声を上げた。

 歓声も「おおおお!」と驚きと期待に満ちた歓声だった。

「……てっきりあんたはレミィさんとやるものかと思ってたんだけど……違ったみたいだね」

「私だって理由は知らないわ。フィーネのオーダーだもの。私はそれに従ったまでよ。ま、別に理由を知ろうとは思わないけどね」

「僕は知りたかったな。しかしどうしたものかね……」

「シーナ、どうする?」

「どうするも何も。やることは一つだ。たとえ相手があのクローディアでもね。勝つだけだよ」

 シーナは笑う。しかし彼自身、心の中では焦っていた。まさかここでクローディアが出てくるとは夢にも思わなかった。

(てっきりエクセラさんとアリスが出てくると思ったんだけどなー。これは少し作戦を修正しないと……)

「余計なことを考えるのはやめときなさいよ。無駄な考えは動きを鈍らせるだけなのだから。とにかく私たちを倒すことだけを考えなさい」

 はっ、とクローディアを見る。シーナは自分の焦りを見透かされたと思わず唇を噛んだ。

「ふふっ、うちにも似たような子がいるからね。……さて、そろそろ始まるみたいだし気合をいれていきましょう。せっかくの闘い、楽しまなきゃ損よ?」

「お姉ちゃん……。あ、お手柔らかにお願いします!」

 アリスは双子にぺこりとお辞儀して、さっさと先に行った姉を追いかけた。

「………面白いじゃないか」

「シーナ?」

 シーナは二人の背を見ながら笑った。

「ミーナ、作戦は変えないよ。僕らのコンビネーションで見せてあげようよ。姉妹なんかより双子の方がずっと一緒だと強いんだって」

「……うん!」


「さて、第一試合第二戦、クローディア=エーデルハイト、アリス=エーデルハイト対シーナ=ヒューデック、ミーナ=ヒューデック。姉妹対双子はどちらに軍配があがるのか? それでは………始め!」


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