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Kings of Dolls  作者: ゆきうさぎ
4章 祭の始まり
10/19

9話

コロシアムは静寂に包まれていた。その中心を見つめる彼らは皆息を飲んでいた。それはこれから始まる出来事への期待と緊張、そしてなにより恐怖のためだった。

 そんな彼らが見つめる先には20人の猛者たちがいた。ノーランド、イーリス、サンクレウス、ウェリントン。四つの学園の最強と言われる生徒たちが一堂に会していた。


 ノーランド学園からは

 ノワール=ノーランド

 レミィ=ローランド

 イリア=コーネルス

 シーナ=ヒューデック

 ミーナ=ヒューデック


 イーリス学園からは

 漆原 紫織

 琴奏 白

 香ノ宮 迷路

 神薙 雪乃

 神薙 いづな


サンクレウス学園からは

 フィーネ=イニーツィオ

 クローディア=エーデルハイト

 アリス=エーデルハイト

 フウリ=ワードレス

 エクセラ


ウェリントン学園からは

 シンシア=アネット

 ロード=ライアント

 ナナ=ジェイド

 ヨーム=アイゼウハウト

 アイネ=レイデリック


 以上20名が相対戦のメンバーである。彼らはお互いが見えるように立ち並び、相手を見ている。それぞれの表情は緊張しているもの、気合十分なもの、楽しそうにしているものなど様々だった。しかし誰もがこれから始まる戦いの重要性を理解していた。

 沈黙の中、ノワール、紫織、フィーネ、シンシアの四人がコロシアムの中央に集まる。そしてそこに箱を持った会場の雰囲気に押されてびくびくしているシャナがやってくる。四人はその箱の中に手を入れ、各々一つずつボールをとった。

「今、対戦相手が出ましたよ!」

 ボールを受け取ったシャナが、マイクを持って叫ぶ。すると、観客席に取り付けられているモニターの映像がトーナメント表に切り替わる。

「第一試合はノーランド学園対サンクレウス学園! そして第二試合はウェリントン学園対イーリス学園だよ!」

 シャナの声とともに、観客席から歓声があがる。前回と違う組み合わせであるため、盛り上がりはさらに増していた。

「試合はこの後すぐに始まるよ! さあ、選手たちはそれぞれ準備に移ってください!」



「白との戦いは決勝戦までお預けかー。でも、そっちのほうが白熱するかもね」

 楽しそうにクローディアがはしゃぐ。今は更衣室で制服から戦闘用の服に装着替えていた。

 クローディアは黒一色で何の装飾もないトレンチコートにこちらも大した特徴のない黒のロングスカートをはいていた。

 一方フィーネは黒を基調とし、白のフリフリのレースの入ったドレスを着ている。

 アリスとエクセラはいつもと同じ制服でエクセラの方はその上に薄青のマントのようなものを着ていた。

「お姉ちゃんはほんとに白さんとの戦いを楽しみにしてるね。そんなに悔しかったの?」

「もちろんよ! 私は負けることが嫌いなの。フィーネにまだ勝てないことすら悔しいんだから」

 ふふ、とフィーネが笑う。それにつられてエクセラも笑い声を漏らしていた。

「でも……まだどちらともが勝つとはわからないのよ。今はノーランドとの戦いのことを考えなさい」

 フィーネが優しい声でしかし厳しい表情をして諌める。

はっきり言って四校の強さはほぼ同格といっていいくらいである。だから油断などしていたら簡単にやられてしまう。それは何度も経験したこと。クローディアはそんなことはもちろんわかっていた。

そんなフィーネにクローディアは軽く笑いながらポンッと手を頭に乗せた。そしてわしゃわしゃと頭を撫でた。

 フィーネは不機嫌そうに頭に乗せられた手をどかそうとするが、けっこうな力で押さえられているのかなかなか離せないでいた。

「わかってるわよ。あの人たちの強さは一筋縄ではいかない。舐めてかかると簡単にやられるくらいさ。でも大丈夫よ。私は負けないから」

 楽しそうに笑うクローディアだが、その声色はフィーネを安心させようとした強い意志のこもったものだった。

「わかってるならいいけど……。あなた今回負けられないのよ? それだけは忘れないでね」

「はいはい。自分で言ったことなんだからわかってるわよ。それに……」

 と、一生懸命クローディアの手を振りほどこうとしているフィーネと同じ高さになるようにしゃがむと、その頬に軽くキスをした。

「私はあなたの『騎士』でしょ? お姫様を満足させるためにもちゃんと勝つわよ」

 恥ずかしそうに照れ隠しをするフィーネをそのままにしてクローディアはそばで準備をしている二人に声をかけた。

「アリスもエクセラも頼むわよ」

 二人はもちろんと言わんばかりに頷いてみせた。

「20年も経てばみんな相当強くなってると思うから。気を抜かないようにね。特にアリス」

「えっ?」

 突然の名指しに驚く。

「新しい武器を使うのはいいけど、まだ実践で使ったことないでしょ? 大丈夫なの?」

 姉の心配にアリスは手に持っている銃をクローディアに突き出した。

「お姉ちゃんのおかげでだいぶ勘はつかめたよ! だから大丈夫! それに一応前使ってたナイフも持ってくつもりだから」

 そう言って、腰につけてあるホルダーからナイフを取り出すと、手の中で器用に回した。そしてそのまま上に投げると、宙を舞ったナイフはそのままストンとまたホルダーの中にきれいに収まった。

「もしもの時はこれを使うよ」

「そうね。いつの間にかあなたのナイフ捌きはかなりのものになってるようだし、それなら安心できるわね」

 

各々の準備が一段落ついたところで、外からシャナのアナウンスの声が響いてきた。

「さあー! まもなく試合が始まります! なお、今回の相対戦の司会&実況は私、シャナがお送りします! そして解説役として各校の学園長に来てもらってます!」

 モニターの画面がシャナのいるところに切り替わる。彼女の横には銀髪の少女、金髪の少年、そして青髪の少年が座っている。

「サンクレウス学園学園長、セレーネダヨー!」

 若干、片言でセレーネは挨拶する。

「イーリス学園学園長、ソールだ。よろしく」

 金髪の少年、ソールが仏頂面で適当に言い放つ。

「ノーランド学園学園長、スターナ。駄目だよソール、スマイルスマイル」

 そう言って、青髪の少年、スターナはにっこりと笑みを浮かべた。

「以上のゲストをお迎えして、いよいよ第一試合、ノーランド学園対vsサンクレウス学園の相対戦がスタート! 選手たちは入口ゲートまで来てください!」

 観客たちの声が更衣室まで響いてくる。彼らはこれから起こる戦いを心待ちにしていた。

その時、まだ控室にて笑顔で談笑をしていた彼女たちを取り巻く雰囲気が変わった。笑顔こそ変わらないがその笑顔から放たれる威圧感が、見ているものを震え上がらせるほどのものに変貌したのだった。

「じゃあ、行きましょうか」

 フィーネは不敵にほほ笑み、控室を出ると、制服ではなく『花』の国の黒の民族衣装を着ているフウリが彼女ら同様に不敵な笑みを浮かべて待っていた。

 そして彼女たちは戦いの場へと続く廊下を進み始めた。観客の声はだんだんと大きくなる。

「さあ、ついに現れました! 東側からは四校の中で最強と謳われている聖央機関皇帝、フィーネ=イニーツィオ率いるサンクレウス学園だー!」

 沸き上がる歓声。それに応えるかのようにフィーネたちは観客席に向けて手を振る。

「前回はイーリス学園との激闘の末、勝利をもぎとり他校よりも一歩リードする形となりました」

 シャナの声に力が入る。

本来創造主である女神から遣わされたにも関わらず、彼女は今のこの状況を子供のようにはしゃいでいた。

「やはり今回注目すべきは『負けたら『退学』!』と宣言しているクローディアさんですよね」

盛り上がる実況をよそに、当の本人はまだのんきに手を振っていた。

 やがて闘技場の真ん中まで来ると、五人は横に並び自分たちが入ってきた側と反対の入口のほうを見た。

「そして対するは最近優賞の少ない崖っぷちのここ、ノワール=ノーランド率いるノーランド学園だ!」

 西側の入口から現れたのはいつもの学ランを着たままのノワール、その後ろからは白を基調とした甲冑を着て、白のロングスカートをはいているレミィ、口元まである大きなコートを着たイリア、二人揃っておそろいの服を着ているミーナとシーナが現れた。

「前回はあと一歩のところでイーリス学園に敗れてしまいましたが、今回はその雪辱を果たせるのでしょうか!? 期待は高まります!」

 自分たちに向けられた歓声に対して、ノワールは、あははと頬をかく。

「惜しくも、ねえ……。なんか腹立つ言い方だなぁ」

「事実だからしょうがないだろ。あんたがイーリスのところの大将に負けさえしなければよかったんだから」

 レミィが厳しい視線を送る。普段ですら周りを寄せ付けないオーラを放っているのに今はさらにそれが強くなっている。

(レミィも緊張してるんだろうな。変に強張ってから)

 誰にも気づかれないようにノワールは小さく笑う。

(ま、仕方ないか。相手が相手だからね……。でも、ま、無難にやりますか)

両校が中央に並び、互いに視線を交わす。

「そっちには事情があるといえ、負けるわけにはいかないんだよな」

 ノワールが一歩歩み寄り左手を差し出す。

「わかってるわよ。それに私たちはどんな理由があれ、絶対に手を抜かないわ。たとえ相手が死んでもね」

「怖いなあ。あんたらはそれを平気でやるから気が抜けないんだよ。ま、それはこっちも同じだけどね」

 死なないとはいえ恐怖はある。だけど彼女たちは容赦をしない。それは身をもって知っているし、自分たちもそのつもりでいつもいる。

「ふふ。とにかく楽しみましょう! 最高の戦い(パーティー)をね!」

 フィーネが左手を差し出し握手を交わす。

「選手たちの顔合わせも終わったことだし……さあ、ついに始るよ!」



「さて第一試合初戦は一対一の勝負です。ルールは特になし。相手が降参もしくは戦闘不能になればその瞬間勝負が決まります! さて今回の代表戦の先陣を切るのは誰なんでしょうか」

 挨拶も済ませ、各校、戦いに巻き込まれない安全な場所に下がった。

「まずは誰が出る?」

 サンクレウス陣営。一番手に誰が出るかもめていた。

 筆頭はクローディアとアリス。姉妹そろって最初に戦わせてほしいと必死だった。

「ここは私でしょ! 私が勝って勢い付けさせないと」

「お姉ちゃんはダメ! 最後までいないといざという時に困るんだからここは私の方がずっといいって!」

「あら? そう言って私の出番を取って戦いたいだけじゃないの?」

「ち、違うよ!」

「ふーん、どうだか……。で、フィーネ。どうするの? そっちでもうオーダー決めちゃったりしてる?」

「特には決めてないけど……でも二人はダメかな?」

 「なんで!?」と二人は同時に抗議した。息ぴったりである。

「二人にはその次に出てもらった方がいいかもって思ったの。だから……エクセラかフウリ、お願いできる?」

 フィーネは二人の方を向く。姉妹のやり取りを見ていた二人は、フィーネの質問に「ん?」と反応した。

「俺はどっちでもいいぞ。フウリ、お前が決めるといい」

「俺は……そうですね、じゃあ俺が最初に行きますよ」

 フウリはしばらく悩み、それから覚悟を決めたように力強く答えた。

「わかった。よろしくね」

 そんなフウリの姿を見て、フィーネは彼の方へ歩み寄ると、彼の肩をポンッと叩いた。

「別に気負う必要なんてないんだからね。いつものようにいけばいいの。それが一番なんだから」

「そうそう。フウリはすぐに難しく考えるから。私みたいに直感で生きればいいのよ」

 順番が決まったことにもう興味がないようでクローディアは暢気にフウリにエールを送った。

「それはそれでどうかと思いますけどね。……でも、ありがとうございます。とにかく全力を尽くしてきますよ」

 フウリは笑顔でそう返すと、その場で軽く柔軟をし始めた。そして武器等がちゃんと用意できているかのチェックをすると、もう一度フィーネたちの方を見た。

「では、行ってきます」

 その表情はいつもの真剣な彼のそれだった。皆はその様子を見て安心する。

「幸先いいスタート頼むわよ」

 クロー―ディアのプレッシャーをかける声援にフウリは思わず口端を吊り上げて笑った。

「わかってますよ」


「さあ初戦のカードが決まりました!」

 シャナの声が再び会場を沸かす。

「サンクレウス学園からは『聖央機関』宰相、フウリ=ワードレスだ!」

 雨のように降り注がれる声援を受けながらフウリはコロシアムの中央へと歩みを進めていく。その心は非常に落ち着いており、周りの声は彼の耳に全く入らないほどであった。

「対するノーランド学園からは、『円卓議会』第三席、イリア=コーネルスだ!」

 フウリの正面からイリアが無言で歩いてくる。自分よりもはるかに大きい、そして顔は長い前髪のせいで隠れていて表情は読めない。しかし背中からわずかに除く柄のようなものが彼の力を見せつけていた。

 二人は5メートルほどまで近づくとそこで止まった。互いに相手を覗うように見ていた。

「久しぶりですね、あなたと戦うのは」

 フウリは笑いながら声をかけた。

「そうだな。前回は俺が勝った。だが油断するつもりはないぞ?」

「もちろんですよ。少しでも余裕を見せたらあっという間に喰いつきますから」

「それはこちらも同じだな」

 前髪の隙間からかすかに彼の顔が見えた。お世辞にも若いとは言えない、20代後半くらいの大人びた顔立ちは穏やかなものではあるが、その中に微塵の隙も許さない威圧感があった。

「さて、互いに準備はできたでしょうか!? 勝負はどちらかが先頭不能になるまで。各校代表としての意地を見せてくださいよ! それでは第一戦………はじめ!」


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