プロローグ
「つまらない」
透き通ったようで芯のある声。聞いているだけで心地よくなる魅力的な声色。
そんな美しい声であったが、告げられた言葉は冷たく、そして残酷だった。
そして全てはその一言から始まった。いや、正確に言うならば、終わり、そして新たに始まったというべきかもしれない。
いつものように地上を照らす陽の光よりもさらに眩しい光が世界を包む。誰も逃げることはできない。あらゆる自然が、生き物が光に呑み込まれていった。
「こんなにもつまらないのなら、いっそ私が作り変えてしまいましょう」
声の持ち主は笑っていた。まるでおもちゃで遊ぶ子供のように。口角をつりあげ、妖しく笑う。しかし、その姿もまた美しく見える。
世界を包んだ光は次第に消えていく。
大きな湖の上に立つ白いレースのドレスを着た少女はそっと目を閉じ、考える。
どうしたら自分の思うようにいき、いい意味で期待を裏切ってくれるのかを。
しばらく考えたのち、彼女はある考えを思いついた。
両手を胸の前に手のひらを向かい合わせにするようにあげる。するとその間から光の球が現れた。そしてそれは勢いよく空へ飛んでいくと、先程のように眩い光を放った。
「………さて、つまらないもの共よ、私を楽しませてくれるかしら?」
光が消えていく様子を見送ると、彼女はまた幼い笑みを浮かべた。
「………はぁ、はぁ……」
少年は息を絶え絶えにして立ち上がる。体の至る所に傷を負い、失血死でもしてしまうくらいの大量の血を流している。
しかしその瞳にはまだ動ける、戦えるという力強さが残っていた。
「……まだ立つのね……。君には本当に驚かされるよ」
そんな少年と対峙するように立つ1人の少女。彼女もまた体じゅうから血を流している。
「……あんなにもひ弱にしか見えなかった君が、今そんな目をして戦い続ける……。ねぇ、どうして?」
少女は問うた。己のうちにあった疑問を。
「どうして君はそこまでして戦うの?ボロボロになってまで君を戦わせるのは一体何?」
「……あなたこそ……、どうしてそこまで強くあろうとするのですか?」
少年の言葉に一瞬だけ目つきを変えた。しかしすぐに元に戻ると小さく溜息をした。
「質問に質問で返すのね……。まぁいいわ、答えてあげる」
そう言って少女は言葉を止め、ゴホッと咳をしたかと思うと、その口からは血が溢れていた。
「私がどうして強くあろうとするか?それは簡単な話よ。私が私であるために強くい続けなければいけないから。ただそれだけのこと」
「自分であるための証明………?」
「これ以上は何も言わないわ。さ、あなたの方は?」
少年は少しの間黙っていたが、ようやく口を開いた。
「僕は負けられない……。友を……仲間を……大切な人たちを守るために!」
力強く答える少年に対し、少女の方は冷たい表情で少年を見ていた。
「誰かのために戦う、ね……。大層な理由だけど、私からしたら反吐がでることだわ」
「ッ!?」
少年の目が瞠る。
「ハッ!」
その一瞬の隙を突き、少女は己の得物で勢いよく少年を吹き飛ばした。
瓦礫の上に受身を取れずに落ちる。衝撃と共に口から血が溢れた。
「誰かのため……。それが一番己を弱くするのよ。相手への一瞬の配慮が自らを殺すことになるわ。助けあいは身を滅ぼすのよ」
何も言い返すことなく少年は地面に横たわっている。手に握る刀を強く握りしめ、悔しそうに唇を噛む。
対する少女も傷の痛みに顔を歪ませながら、肩で激しく息をし、少しずつ少年に近づいていく。
「……カハッ!?」
突然、口から多量の血を吐き出す。得物を地面に立て、それを支えにしてなんとか体勢を維持する。
「………誰かを守るということは少なからず相手に己の弱みを曝け出すこと。あなたがいくら強くても、弱みを抱えたままじゃ、満足には戦えない。そうでしょ?」
少年は答えない。代わりになんとか刀を杖代わりにして立ち上がる。そして刀を両手に持ち、再び構える。
「…………」
少女も彼の覚悟を理解したのか、得物をー禍々しい形の刃を持つ大鎌を構えた。
静寂が二人を囲む。永遠に続くかのような緊迫とした時間が流れる。
風に揺られた砂屑が瓦礫を転がり、コツン、と小さな音を立てた。
「ハァァァ!」
「セヤァ!!」
同時に二人は駆ける。
そして勝負は一瞬でついた。
互いに交差し、数メートルを進んで止まる。
「ハァハァ……くっ!」
少年の肩口から血が吹き出し、痛みに膝をついた。
「………まだ……まだだ……!」
意識を失うまいと気を強く保つ。後ろを振り返り、相手の様子を窺った。
「…………」
少女は動かず、ただ空を見つめていた。
「認めたくないものに負ける……こんなにも悔しいなんて」
それからちらりと少年の方を見やる。
「琴奏、白……。君の強さは本物だ。うん、惚れたよ。君の全てに。だから次は必ず負けない。必ず君を私のものにするんだ」
そう言うと同時に彼女の肩から腰にかけて斜めに線を引くように血が噴き出した。そしてそのまま地面に倒れこむ。
少年は重い足取りで少女に近づく。少女はうつぶせに倒れたまま動くことはなかった。しかし少し覗けるその横顔は美しい、としか言いようもなく、少年は思わず目をそらしてしまう。
本当に自分は勝てたのか、圧倒的な実力差のあった敵に自分は打ち勝つことができたのか、自分を信じきれない気持ちがまだ彼の中に残っていた。
………いや、ここでそう思っていたら彼女に失礼だ。自分は確かに勝ったのだ。
そして彼はついに決心をし、刀を天に突き上げ、勝利の声を上げた。
はじめまして。瀬織津閖姫です。
昔ブログに、現在はpixivの方に上げている小説をこちらでも投稿してみようと思い、こうして投稿しました。現在更新しているところまでは毎日更新していこうと思います。
また別作品もpixivの方で投稿してますのでよかったらどうぞ……。
pixiv【http://www.pixiv.net/member.php?id=13756805】
最後になりますが、まだまだ駆け出しっこなのでいろいろとアドバイスや感想等いただけると幸いです。