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当たらない恋占い

 私は占い屋をやっている。ただし、評判はあまり芳しくない。特に恋占いは当たらないと言われている。理由は分かっている。ついつい色々と言い過ぎてしまうのだ。

 占いというのは本当を言えば未来を当てたりアドバイスをしたりする商売ではないと私は思っている。半分以上は話術などで客を楽しませる娯楽商売だ。占いはバーナム効果やコールド・リーディングを巧みに利用して、客を良い気分にさせる事が肝。ほとんどの客は多分それを分かっているから、よっぽど間違った事を言わない限りは大体は納得してくれる。しかし、私は恋占いに関してはそれが苦手なのだ。恋愛話だと話しているうちに色々と想像してしまって、ついつい言わなくて良い事まで言ってしまう。

 その客の時もそうだった。

 「街で偶然に見かけた女性なんですが……」

 とその客の彼は言った。服装は少し若い雰囲気があったが、恐らくは社会人でサラリーマンか何かだろうと、話し振りから私はそう判断した。落ち着いている。

 彼はある女性に恋をしていて、その女性に渡すプレゼントは何が良いか、それを占ってほしくて私を訪ねたらしい。

 なんでも、ただ見た事があるだけで、本当の名前すら知らない女性で、どんなプレゼントが良いか分からない。それで占いを頼る事にしたのだそうだ。

 「くまのぬいぐるみなんか、どうかしら?」

 と私は言った。話を聞いた限りでは、綺麗というよりは可愛いという外見の女性で、母性を感じさせる。ならば、そういったものが好きかもしれない。そう私は想像をしたのだ。それがいけないとは分かっている。もっと話をぼかさないと。しかし、どうにも恋愛話だと興奮して想像力が働き過ぎ、そうなってしまうのだ。

 「少し大きめの、その女性が驚くくらいのインパクトのあるやつ」

 そう言ってしまったのは、大きなくまのぬいぐるみを見たその女性が、驚いた表情になる姿を想像してしまったからだった。私の中でその女性は、いつの間にか姿形を得て人格まで形成されている。肩にかからない程度の長さの髪。可愛い色の口紅。服はオフショルダーで、胸元から首までの華奢なラインがとても魅力的に見えている。

 その華奢な身体で、彼女は戸惑いながらも嬉しそうにその大きなくまのぬいぐるみを抱きしめる。柔らかいそれは深く沈む。そこに雪が降っていれば、なお絵になるだろうが、それは流石に高望みが過ぎるかもしれない。

 そこで私は我に返った。

 目の前では、客の男性が大きく頷きながら、「そうですか。大きなくまのぬいぐるみ……」とそう返している。どうやら納得しているよう。しかし、そこで私は冷静になった。

 “貰った瞬間は驚くし喜ぶかもしれないけど、冷静に考えれば、そんな大きなぬいぐるみを貰っても、置き場所に困るだけかも”

 しかし、もちろん、今更そんな事は言えない。

 ……まぁ、その女性が大きなくまのぬいぐるみを喜んでくれる事を祈ろう。

 

 しかし、次の日だった。

 その男性客が再び、私を訪ねてきたのだ。しかも、大きなくまのぬいぐるみを抱えて。男性客は言う。

 「あの…… プレゼントです」

 私は思った。

 本当に私の恋占いは当たらない。

 ……まぁ、もっとも、悪い気はしなかったけれど。

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