宰相一家は「ど天然」〜呪いで毒舌黒柴フェンリルになった次男、なぜか第二王女と旅に出る〜
『追放された第二王女、辺境王領の監査官になる
〜毒舌黒柴フェンリルと暴く王国の陰謀〜』
本作は、そのスピンオフ――
ヴェルの“はじまりの物語”です。
気に入っていただけた方は、ぜひ本編もどうぞ。
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オレは宰相家の次男...
のはずなのだが、今はなぜかフェンリルになっている。
しかも常態(フェンリル化してないとき)は小さな東方の国の「シバ」という犬種なんだそうだ。
シバは、茶(赤)・黒・白の毛並みがあるそうだが、
ちなみにオレは黒シバだ。
この姿で第二王女レオノーラと旅をするようになって知ったことではあるのだが。
実はこの姿になった時、
オレは前世を思い出したのだ。
それはもうはっきりと。
この姿は、前世のオレの愛犬「クロ」と瓜二つだ。
なので柴犬好きのオレとしては全く違和感がない。
いや、違和感を持つべきなのだろうが。
この世界にも「シバ」と言われる犬種があるのには少し驚いた。
さらに、一気に前世のことも思い出し、
これまで18年間この世界で生きてきた記憶と融合されるときには、
頭が割れそうだった。
果たしてなぜこの姿に?
と、普通は思うのだろうが、
意外にも冷静な自分がいたのも確かだ。
やはりオレもルーンベルク家の一員だからなのかもしれない。
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オレがこの姿になった日...
オレの両親は、なんというかある意味ぶっ飛んでいると改めて思った。
ある朝、朝食に来ない息子を使用人に呼びに行かせたら、
姿がない、と知らせを受けて
慌てて部屋までやってきたのだ。
一応この姿で使用人に見つかるのはまずいと本能的に思ったので、
家具の影に隠れていたのだが、
両親に伝えないわけにはいくまいと、
家具の影から
ひょっこり首を傾げて顔を出してみたら
母親が壊れた。
「んまぁぁぁぁ!なんて可愛らしいのかしら!」
抱き上げてモフモフしてくる。
「え、この赤い瞳、もしかしてアーヴェルなのかしら?」
じっとこちらを見る父親。
「....そうだな。なるほど、アーヴェルだな。」
両脇に手を入れられてヒョイと抱き上げられたままの姿勢で。
しかもだらーんと伸びた状態で、オレは答えた。
「はい、父上、母上。オレです。」
「こら、オレじゃないでしょ。私でしょ。」
「そこじゃない」とは思ったが、条件反射で
「はい、母上」と言ってしまった。
自室のソファに両親と向かい合わせでオレがちょこんと椅子に座る。
「なぜこうなったかわかるか?」
「さぁ...昨日頭が痛すぎて、倒れて気づいたら、この姿でした。」
「まぁ。その姿でも話せるのは助かるな。」
「そうですわね。」
って危機感なさすぎじゃないか?
「記憶はあるのか?」
「はい、今までの記憶となぜか前世の記憶も思い出したようです。」
「前世とな?」
「はい、こことは違う世界でした。」
「お前は”落ちてきた人”なのか?」
「それは、どう定義するかだと思うのですが、
今までこの世界で生きてきた、ルシアン・アーヴェル・ルーンベルクの
記憶も全てありますし、
違う世界で生きていた記憶もある、ということです。」
「「ほう」」
「二人とも、ほう、じゃないですよ...
まぁ確かに、大慌てされるよりはいいですけど、
一応、オレ...じゃなかった、私もショックは受けているんですから。」
「そうねぇ、でも可愛らしいわ。」
「そうだな。」
宰相である父は、
仕事の時は厳つい顔と切れ者という評判で
皆に恐れられている。
宰相としての評価は抜群らしい。
家では普通の(普通なのか?)父親である。
どっちにしてもギャップがすごい。
母親は、先ほどの状況で分かったと思うが、
「ど天然」だ。
もう一度言う、
「ど天然」だ。
しかもモフモフに目がない。
「おい、アーヴェル、おまえ、元に戻れるのか?」
「はぁ、もう一つ、お伝えしなくてはなりません。」
といって姿を変えた。
「おお、フェンリルか。しかも黒いのか」
「まぁ!」
モフモフ好きの母の目がさらに輝く。
なぜフェンリルなのか、とか
なぜ黒いのか、
と、もっと深刻で悲壮感漂う感じになるのが普通なのだろう。
でも、うちは、ルーンベルク家だからな。
仕方がない。
驚く方向が違うだろう、とは思うが、
すんなり受け入れてもらえるのはありがたい。
「基本、自分がいままで持っていた属性の魔法は使えます。
例の力についても問題はありません。ただ...」
「「ただ?」」
「人の姿に戻れないのです。」
「「.....」」
「ふむ、お前は、いっとき療養ということで領地に戻ったことにする。
そしてヘンリック翁のところへ送る」
「ええ?師匠のところですか?(...できれば勘弁してほしい)」
「何か不満か?ヘンリック翁が一番この状況の解決の手がかりを掴むのに最適だと思うが」
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そして今師匠の目の前に。
ちんまりと座った小型の黒い犬。
というシチュエーション。
父は多忙のため、兄のエドワードがついてきた。
兄も外面的には、バリバリ頭が切れる次期宰相として名高い。
でも家では、両親と同じく我が家基準としての普通の兄だ。
「ヘンリックさま、弟のこと、どうぞよろしくお願いします。
アーヴェル、がんばれよ!
でも今の姿、俺は好きだぞ。
もし戻れなくてもお前は俺の大事な弟だ。」
とオレの頭をモフモフしてから
馬車に乗って帰って行った。
あのモフモフ好きは母の影響だろう。
ちなみにオレもモフモフ好きだが、
よもや自分自身がモフモフになるとは思わなかった。
家族愛は強いほう、だと思う。
でも何かちょっと違う、と思うのはオレだけなのだろうか。
「して、アーヴェルよ。
お前、なぜ呪いになんぞかかっておるのじゃ。
修行が足らんわ!」
「呪い?ですか?」
「ああ、そうじゃ。呪いだ。これはすぐには解けぬ。
呪いの元凶となる思いがこの世界のものではないからな」
「ということは前世の影響...?」
「お前のことだから気づかずに恨みでもかったのじゃろう。
だが今問題なのはそこではない。
まずは、その姿で例の力を使えるか、
力を使えるなら最大限にそれを発揮できるようになるまで、
鍛錬じゃ!」
「嗚呼、あの地獄の修行が終わったと思ったのに...」
師匠のもとでみっちり一月、修行に明け暮れるのであった。
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ルーンベルク家、それはこの国の宰相家。
外から見たら厳格で、国を支える存在。
誰よりも近寄りがたい存在。
この家は、男子が必ず一人、続けて女子が生まれることが多い家系だ。
ただ、何代かごとに二人目の男子が生まれることがある。
そして必ず黒髪に赤い瞳なのだ。
それはこの家、そしてこの国に伝わる厄災の兆しとされている。
そしてその厄災を防ぐための使命を持って生まれると言われている。
それを知るものは、王家、ノクスヴァルト公爵家、あとは我が家、ルーンベルク家のみだ。
ルーンベルク家当主が代々伝承を引き継ぎ、
次男が生まれた時には、その使命を果たすべく教え導く者も現れるとされる。
今の代の師匠となるのはヘンリック翁。
一体何歳なのかは不明だが、厄災に関しては国で最も詳しい人物らしい。
いわゆる「賢者」というものらしい。
(本人は大賢者だと言っていた。)
オレは何の疑問もなく、
師匠のところで幼い頃から修行を積み、
先日、免許皆伝となったばかりのイマココ、
黒柴フェンリル化事件なのであった。
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そして王宮での第二王女の辺境への追放の場面にちらりと顔を出してみたのだ。
「.....正論だな」
一言だけ告げた。
レオノーラは驚いていたな。
そうだ、師匠にも言っていないことが一つある。
オレはこの物語を知っている。
前世で読んだ小説の世界だと気づいた。
そしてオレはその中の登場人物の一人だ。
課されている使命も同じ。
ただし、オリジナルのストーリーでは、オレはフェンリルになっていない。
ストーリーは改編されている?
それともよく似た世界なのか?
でもオレは確信している。
この何らかの干渉と改編が、きっと鍵なのだと。
これで、宿命を変えて、
運命を切り開くことができる。
この自分に降りかかった呪いこそが、きっと祝福に変わるはずだと。
さて、今日も今日とて辺境で旅をする。
敏腕監察官(自称)・第二王女レオノーラとの珍道中。
レオノーラ、誰かに似てると思うんだよな。
ど天然な感じが。
誰だろう?
レオノーラ、頼んだぞ。全ての鍵を握るのはお前なのだから。
そういうアーヴェルもかなり無自覚な「ど天然」なのだった。
お読みいただきありがとうございました!
本作は、連載中の『追放された第二王女、辺境王領の監査官になる
〜毒舌黒柴フェンリルと暴く王国の陰謀〜』のスピンオフ、ヴェルの物語です。
この先の旅の続きは本編で描かれていますので、
気になる方はぜひこちらも読んでいただけると嬉しいです。
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