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僕の神様

作者: 在星 透ヶ琉
掲載日:2026/01/29

 僕は、彼女の祈りをいつも聞いていた。外に出ることを許されていない僕は、部屋の内から彼女を見ることしかできない。

 彼女は毎日、水や食料を運んできてくれる。だが、そんなのは心底どうでもよかった。ただ、君に触れていたい。君と会話してみたい。見つめているだけじゃ足りないんだ。それが僕の全てだった。

 ある朝、泣きじゃくる君がやってきた。いつものように食べ物を運んできてくれた。

 白い衣が乱れ、肩が小刻みに震えている。彼女は何も言わず、ただ床に膝をついた。額が冷たい板に触れる音が、やけに大きく響く。

「ごめんなさい……」

 絞り出すような声だった。誰に向けた言葉なのか、分からないはずがないのに、彼女は僕を見ようとしなかった。

 彼女の祈りは、いつも真っ直ぐだ。喜びも、恐れも、嘘がない。だからこそ、胸の奥が軋む。声を返せないこの身が、ひどく歯がゆい。

 彼女は震える手で器を置き、鈴を鳴らした。澄んだ音が空気を裂き、部屋に満ちる。僕はその音に縛られている。触れられず、歩けず、ただ在るだけの存在として。

「お願いします、神様……あの子を助けて!」

 その願いはいつものように真っ直ぐだった。だが、いつもと違う。絶望、切望……。そんな声だった。

 僕は神様にはなれない。僕は君の神様にはなれない。

 僕は君のことが好きだった。君はほかの人が好きだった。たったの二言で片付く、単純明快な事実。

 不甲斐ない僕を許して下さい。

 巫女は、神様と結婚する。それは今はもう昔の話。だが、そんなまやかしを信じていたかった。

 僕は助けられない。君の好きな人を。これは嫉妬じゃない。多分。

 神様なんて、所詮そんなものなのだ。

 どうか、どうか、貴女の為に。泣かないで、祈らないで。

「僕を許してください」

 人間みたいに、神に祈ってみた。

「……え?」

 振り返った彼女の瞳は濡れて、朝日に照らされていた。

 君は僕の神様なんだ。

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