第9話 観測される存在
本作は毎週水曜・土曜の21時に更新予定です。
その報告は、夜に上がってきた。
「――川沿いで、再び反応を確認」
静かな会議室。
照明は落とされ、
中央のモニターだけが淡く光っている。
「規模は?」
低い声で尋ねたのは、**徹**だった。
スーツの男が答える。
「小規模です。
ですが、制御されていません」
「制御されていない?」
徹は、わずかに口角を上げた。
「つまり――」
「“野生”です」
沈黙が落ちる。
「例の事故との関連は?」
「可能性は高いかと」
モニターに、数値と波形が映し出される。
一般人には、意味のない線。
だが、徹には違った。
「……綺麗じゃない」
ぽつりと言う。
「雑音が多すぎる」
「訓練を受けていない個体だと思われます」
「年齢は?」
「推定、十代」
その瞬間、徹の指が止まった。
「十代……」
椅子に深く腰掛ける。
「それは、まずいな」
部下が息を呑む。
「放置しますか?」
「いや」
徹は首を振った。
「“放っておけば壊れる”タイプだ」
「……回収を?」
「急がなくていい」
徹は、モニターから目を離さない。
「自分で気づくかどうか、見たい」
「何に、ですか」
「――力は、選ばれた証じゃない」
静かに言う。
「選ばれなかった人間を、
簡単に踏み潰すものだってことに」
*
同じ頃。
透は、ベッドに仰向けになっていた。
天井を見つめても、眠れない。
川に落ちた、あの子の顔が浮かぶ。
泣き声。
水音。
――俺が、やった。
胸の奥が、重い。
「……守れなかったかもしれない」
小さく呟く。
その時。
スマホが震えた。
知らない番号。
一瞬、迷ってから出る。
「……はい」
『今日は、よく耐えた』
聞き覚えのない声。
低く、落ち着いている。
「……誰ですか」
『君を、観測している者だ』
背筋が冷たくなる。
「……何の話ですか」
『安心しろ』
声は、どこか愉快そうだった。
『まだ、敵ではない』
「……じゃあ何なんだよ」
『忠告だ』
一拍。
『君は、思っているより目立っている』
通話が切れた。
画面には、通話終了の文字。
透は、しばらく動けなかった。
――見られている。
それだけが、はっきりとわかった。
夜は、まだ深い。




