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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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第5話 取り返しのつかない失敗

翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


天井を見つめたまま、しばらく動けない。

頭の中には、昨日の名刺が浮かんでいた。


――リネア開発事業部。


父が働いていた場所。

父が、帰ってこなかった理由。


布団を抜け出し、台所へ向かう。

母はもう起きていた。


「おはよう」


「……おはよう」


声は、ちゃんと出た。

自分でも少し驚く。


「朝ごはん、簡単でいいよな」


「ありがとう」


母はそう言ったけど、目は赤かった。


弟と妹が起きてくる前に、

俺は学校へ行く準備をした。



授業中、ノートは取っていた。

でも、内容はほとんど頭に入っていない。


考えていたのは、金のことだった。


――この家は、これからどうなる?


母は「大丈夫」と言っていた。

でも、“しばらく”という言葉が引っかかっている。


放課後、俺はまっすぐ家に帰らなかった。


ポケットの中に、名刺がある。

何度も触って、確かめる。


――話を聞くだけなら。


そう、自分に言い聞かせた。



企業の受付は、妙にきれいだった。


磨かれた床。

静かな空調音。

制服を着た受付の女性。


「ご用件は?」


「あの……昨日、通夜で」


名刺を差し出す。


「父が、お世話になっていて」


一瞬だけ、空気が変わった気がした。


「少々、お待ちください」


待合室の椅子に座る。

心臓の音が、やけに大きい。


しばらくして、スーツ姿の男性が現れた。


「結城さんですね」


「はい」


「こちらへどうぞ」


通された部屋は、会議室だった。


「まずは、お悔やみ申し上げます」


形式的な言葉。

でも、表情は硬い。


「何か、ご不明点が?」


「……今後の、補償とか」


言ってから、少し後悔した。

直接すぎたかもしれない。


「それについては、すでにご説明している通りです」


「でも、“しばらく”って」


声が、少し強くなる。


「俺、長男なんです」


その言葉を出した瞬間、

相手の眉がわずかに動いた。


「学生さんですよね」


「はい。でも――」


「お気持ちはわかります」


言葉は丁寧だった。

でも、距離は縮まらない。


「ただ、これ以上のことは、今はお答えできません」


会話は、それで終わった。



建物を出た瞬間、

一気に現実が押し寄せてきた。


何も変わっていない。

何も、守れていない。


――俺、何やってるんだ。


拳を握る。


そのときだった。


足元の違和感に、気づいた。


地面の影が、わずかに揺れている。

いや、違う。


影じゃない。


空気が、歪んでいる。


「……?」


視界の端で、何かが光った。


次の瞬間。


耳鳴り。

足元が崩れる感覚。


「うわっ――!」


体が前に投げ出される。


激しい音と、熱。

視界が白く染まった。



気づいたとき、地面に倒れていた。


周囲が騒がしい。

誰かが叫んでいる。


「大丈夫ですか!?」


「救急車!」


体は、動いた。

でも、頭が追いつかない。


視線を上げると、

建物の一部が、黒く焦げていた。


「……俺?」


何が起きたのか、わからない。


ただ一つ、はっきりしていることがあった。


――俺が、来なければ。


根拠はない。

でも、胸の奥が、そう叫んでいた。


取り返しのつかないことを、した。


理由は、善意だった。

きっかけは、家族だった。


それでも。


この日を境に、

俺は「知らないふり」ができなくなった。

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