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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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第43話:七日間

 呼ばれた時点で、予感はあった。


 良い話ではない。


 それだけは、もうわかるようになっている。


 部屋は、いつもの場所ではなかった。


 訓練室でも、生活スペースでもない。


 余計なものが何も置かれていない、空白に近い部屋。


 中央に椅子が二つ。


 向かい合う形で置かれている。


 透は、言われるままに座った。


 正面には、師匠。


 いつもと同じ顔。


 だが、その“同じ”が、逆に異質だった。


 何も変わっていないように見える時ほど、何かが決まっている。


 そういう場所だと、理解している。


 しばらく、沈黙が続いた。


 時計の音はしない。


 時間の感覚だけが、やけに遅くなる。


 やがて、師匠が口を開いた。


「——結論から言う」


 前置きはなかった。


「お前に、猶予が与えられた」


 言葉の意味を、すぐには理解できなかった。


 猶予。


 何に対しての。


 何を基準にした。


 そのどれもが、説明されない。


 だが。


 続く一言で、すべてが繋がる。


「七日間だ」


 短い。


 数字だけが、はっきりと落ちる。


 七日。


 一週間。


 それは日常の単位であって、判断の単位ではないはずなのに。


 この場所では、意味が変わる。


「……何の」


 口から出たのは、それだけだった。


 聞かなくても、わかっている。


 それでも、言葉にしないと、形にならない。


 師匠は、視線を外さない。


「——お前が、残るかどうかの」


 残る。


 その言葉が、妙に引っかかる。


 “生きる”でも、“助かる”でもない。


 ただ、残る。


 それはつまり——


「……残らなかったら?」


 自分でも驚くほど、声は平坦だった。


 感情が、ついてきていない。


 師匠は、少しだけ間を置いた。


 答えは、すぐに出る。


「処理される」


 それだけだった。


 余計な説明はない。


 言い換えもない。


 曖昧さもない。


 ただ一つの事実として、そこに置かれる。


 透は、何も言わなかった。


 言葉が出てこないわけじゃない。


 出す必要がないと、判断しただけだ。


 ——処理。


 それが何を意味するのかは、もう知っている。


 相馬のことがある。


 あれが“軽い方”だということも、なんとなく理解している。


 だから。


 その先がどうなるかも、想像できてしまう。


 沈黙が落ちる。


 重くはない。


 ただ、動かないだけだ。


「基準は一つだ」


 師匠が続ける。


「止められるかどうか」


 透の指が、わずかに動く。


 止める。


 それは、これまで何度も言われてきた言葉。


 だが、今は意味が違う。


 できなければ終わる。


 ただ、それだけの条件になっている。


「……出さない、じゃないのか」


 確認するように呟く。


 師匠は、首を横に振る。


「違う」


 即答だった。


「出る前提でいい」


 一瞬、意味がわからなくなる。


 出る前提。


 それはつまり——


「出てもいい。問題は、その後だ」


 静かな声だった。


「止められるか」


 それだけが、問われている。


 透は、視線を落とす。


 手のひら。


 昨日と同じ。


 何もない。


 だが、何もないことに意味はない。


 次の瞬間、どうなるかはわからない。


「……七日で」


 言葉が、途切れる。


 自分でも、何を言おうとしているのかわからない。


 無理だ、と言うのか。


 短すぎる、と言うのか。


 意味がない、と言うのか。


 どれも違う気がした。


 師匠は、それを待たなかった。


「時間は与えられた」


 淡々とした声。


「使うかどうかは、お前が決めろ」


 選択。


 その言葉が、ようやく現れる。


 だが、それは優しいものではない。


 選ばなければならないという意味でしかない。


 逃げることはできない。


 放棄することも、許されていない。


 透は、ゆっくりと息を吐いた。


 頭の中は、妙に静かだった。


 恐怖も、焦りも、まだはっきりとは形にならない。


 ただ一つ、確かなものだけがある。


 ——七日後に、終わる可能性がある。


 それだけだ。


 立ち上がる。


 師匠は、止めない。


 何も言わない。


 もう、伝えることは終わっている。


 ドアに手をかける。


 その瞬間、ふと足が止まった。


「……あいつは」


 振り返らないまま、言う。


「相馬は、何日だった」


 ほんのわずかな沈黙。


 やがて、答えが返る。


「三日だ」


 短い。


 それだけで、十分だった。


 透は、ドアを開ける。


 外の空気は、変わらない。


 何も知らない世界が、そのまま続いている。


 七日間。


 長いのか、短いのか。


 まだ判断できない。


 ただ一つだけ、確かなことがある。


 ——これは、訓練じゃない。


 もう“選別”は始まっている。


 透は、何も言わずに歩き出した。

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

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