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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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第4話 知らなかった言葉たち

通夜は、思っていたより静かだった。


人はたくさんいる。

でも、誰も大きな声を出さない。


黒い服。

低い声。

形式ばった挨拶。


父の遺影は、少し照れたような顔をしていた。

写真の中では、生きているみたいだった。


「お疲れさま」


知らない大人が、何度も頭を下げてくる。


「しっかりした息子さんですね」


そう言われるたびに、どう返せばいいのかわからなくなる。

何を根拠に、そう思ったのか。


母は、隣で黙って立っていた。

背中は、いつもより小さく見えた。


弟と妹は、親戚に囲まれている。

泣いたり、黙ったり、落ち着きがなかった。


――俺が、見るべきなんだろうな。


そう思って、一歩近づく。

自然と体が動いた。


「透くん」


父の職場の人だという男性が、声をかけてきた。


「お父さんには、本当に助けられました」


深く頭を下げられる。


「……ありがとうございます」


それしか言えなかった。


「今回の事故ですが」


声が、少しだけ低くなる。


「例のエネルギー施設でして」


エネルギー。

その言葉に、耳が引っかかる。


「最近話題の、あの……」


「ええ。リネア関連です」


初めて聞く名前だった。


「詳しいことは、また改めて会社から説明があります」


会社。

説明。

事故。


言葉が、頭の中でうまく繋がらない。


「何かありましたら、こちらに」


名刺を差し出される。


受け取った手が、少し震えた。



通夜が終わり、家に戻る。


玄関を開けると、昨日と同じ景色が広がっている。

なのに、空気だけが違った。


「透」


母が、静かに呼ぶ。


居間に座ると、書類が机の上に並んでいた。


「難しい話になるけど……聞いて」


母の声は、落ち着いていた。

無理をしているのが、すぐにわかる。


「お父さんの会社、しばらく補償は出るって」


「しばらく、って?」


「……ずっとじゃない」


言葉が、重く落ちる。


「それから、保険とか、手続きとか……」


知らない単語が、次々に出てくる。


世帯。

収入。

今後。


どれも、今まで考えたことのない言葉だった。


「大丈夫だよ」


気づいたら、そう言っていた。


「俺、なんとかするから」


母が、こちらを見る。


「透」


その目は、止めてほしいようにも、

すがりたいようにも見えた。


「学校もあるし……無理しなくていい」


「無理じゃない」


言い切った。


根拠はない。

でも、言わなきゃいけない気がした。


この家で、一番年上なのは俺だ。

それだけは、事実だった。


夜。

自分の部屋で、名刺を見る。


そこには、企業名が書いてあった。


――リネア開発事業部。


父が、働いていた場所。

父が、帰ってこなかった理由。


まだ何も知らない。

でも、確かにそこに“何か”がある気がした。


布団に入り、目を閉じる。


怖い、とは違う。

不安とも、少し違う。


胸の奥に、静かに灯った感覚。


――守らなきゃ。


何を、どうやってかはわからない。

でも、それだけは、はっきりしていた。

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