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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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39/40

39話:止める訓練、失敗

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

今日は、

いつもより静かだった。


訓練場に入ってから、

師匠はほとんど喋らない。


透も、何も聞かなかった。


聞けば、

逃げ道を探してしまいそうだったから。


「……始める」


師匠の短い一言。


透は、中央に立つ。


足の裏に、

冷たい床の感触。


(止める)


それだけを、

頭の中で繰り返す。



「出せ」


透は、息を吸った。


胸の奥にある“それ”は、

もう隠れていない。


触れれば、すぐ応える。


(出す)


空気が、震えた。


昨日よりも、

はっきりとした感覚。


床に、亀裂が走る。


「止めろ」


(今だ)


透は、

力を“その場に留める”イメージを作る。


広げない。

暴れさせない。


――できる。


一瞬、

そう思えた。


「……っ!」


だが、次の瞬間。


力が、

別の方向へ引っ張られた。


(――何だ?)


自分の意思とは関係なく、

出力が跳ね上がる。


空気が、歪む。


「集中しろ」


師匠の声。


(してる……!)


しているのに、

止まらない。


むしろ、

言うことを聞かなくなっていく。


(戻せ……!)


違う。


(押さえろ……!)


違う。


頭の中が、

一気に混乱する。



「……っ!」


鈍い衝撃。


壁が、砕けた。


コンクリート片が、

床に散らばる。


透は、

自分の手を見た。


震えている。


止められなかった。


完全に。


「――終わりだ」


師匠の声が、

空気を切る。


次の瞬間、

師匠の手刀が振るわれる。


透の意識が、

一気に引き戻される。


力が、

強制的に遮断された。



透は、床に倒れ込んだ。


息が、苦しい。


肺が、うまく動かない。


「……ごめんなさい」


反射的に、

その言葉が出た。


師匠は、答えない。


透は、

拳を床に打ち付けた。


「……できると思ったんです」


声が、震える。


「昨日より……

 ちゃんと、触れた気がして……」


師匠は、

しばらく透を見下ろしていた。


「それが、失敗だ」


淡々とした声。


「手応えを、信用したな」


透は、顔を伏せる。


「力はな、

 慣れた瞬間に一番裏切る」


その言葉が、

胸に刺さる。


「止めるってのは、

 “うまくやる”ことじゃない」


師匠は、続ける。


「失敗する前提で、

 壊さずに耐えることだ」


透は、歯を食いしばった。


「……俺は」


声が、掠れる。


「俺は、

 向いてないんでしょうか」


一瞬。


師匠の表情が、

ほんの少しだけ変わった。


「向いてないなら」


低い声。


「とっくに、

 ここには立っていない」


透は、顔を上げる。


「だが」


師匠は、言葉を切る。


「今日の失敗は、

 “次は止められない”側の失敗だ」


その意味が、

透には分かった。


相馬の顔が、

脳裏をよぎる。


止められなかった人。


戻れなかった人。


「……次は」


透は、

震える声で言った。


「次は、

 ちゃんと止めます」


師匠は、首を振った。


「違う」


透の心臓が、跳ねる。


「次は、

 “止められなかった場合”を想定する」


「……え?」


「お前一人で止められない時、

 どうするかを考えろ」


透は、息を呑んだ。


それは――

自分の限界を、

認めるということだ。


「それができなければ」


師匠は、はっきりと言った。


「お前は、

 いつか“処理される側”になる」


言葉が、

重く落ちる。


透は、

何も言えなかった。


床に散らばった

砕けた壁の破片が、


失敗を、

はっきりと物語っていた。

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