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光を背負う少年は、世界を守れない  作者: ゆうなるな


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第37話:止める訓練、地獄編

本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。

最初に言われたのは、

「出すな」でも

「もっと出せ」でもなかった。


「――止めろ」


それだけだった。



訓練場は、昨日と同じ場所だ。


低い天井。

冷たい床。

逃げ場のない空間。


違うのは、透の中だった。


(出したら、止めなきゃいけない)


それが分かっているから、

体が先に、怖がっている。


「立て」


師匠の声。


透は、中央に立つ。


「今日は、守るものはない」


透は、はっとする。


「誰もいない。

 壊れて困るものもない」


師匠は、淡々と続ける。


「だから今日は、

 “止められなかった”では済まない」


透は、唾を飲み込んだ。



「出せ」


短い命令。


透は、目を閉じる。


胸の奥にある“何か”を、

意識的に探る。


(……あった)


いつも通りだ。

確かに、そこにある。


ゆっくり、押し出す。


空気が、震えた。


「……っ」


出た。


昨日より、はっきりと。


床に、細かな亀裂が走る。


「止めろ」


師匠の声が、重なる。


(止める……!)


透は、必死に力を引き戻そうとする。


――でも。


止まらない。


出力が、増す。


「っ……!」


歯を食いしばる。


力は、

“守る”という命令を失って、

行き場を探して暴れる。


「止めろ、透」


師匠の声が、少しだけ強くなる。


「止めるってのは、

 “消す”ことじゃない」


透の視界が、揺れた。


「流れを切れ。

 出した力を、

 自分の中に戻すな」


(戻す……?)


そんなこと、考えたこともない。


今までは、

出るか、出ないかだけだった。


「……無理です!」


透の声が、震える。


次の瞬間。


衝撃が走った。



師匠の拳が、

透の腹に叩き込まれる。


「――っ!!」


息が、止まる。


床に、膝をつく。


「今だ」


師匠の声。


「止めろ」


透は、咄嗟に、

力を“外”へ逃がそうとした。


――違う。


「違う!」


師匠の声が、空気を裂く。


「逃がすな!」


(じゃあ、どうすれば――)


透の頭が、真っ白になる。


力は、

まだ、出ている。


止められない。


このままじゃ――



その瞬間。


昨日の光景が、

フラッシュバックする。


倒れた相馬。

泣いていた人。

恐怖の視線。


(――嫌だ)


守れなかった。


止められなかった。


同じことは、

二度と。


透は、歯を食いしばった。


(出したまま……)


初めて、

逆の発想が浮かぶ。


消すんじゃない。

押し戻すんでもない。


――握る。


透は、

出ている力を、

“その場に留める”イメージをした。


広げない。

暴れさせない。


ただ、

そこに置く。


「……っ!」


体が、悲鳴を上げる。


全身が、重い。


まるで、

見えない重りを、

全身で抱え込んでいるみたいだ。


床の亀裂が、

それ以上、広がらなくなる。


空気の震えが、

少しずつ、収まっていく。


「……」


師匠が、何も言わない。


数秒。


十秒。


透の膝が、震え始める。


限界が、近い。


「……師匠」


声が、掠れる。


「これ……」


師匠は、静かに言った。


「それが、“止める”だ」



次の瞬間。


透は、倒れた。


力が、霧散する。


床に仰向けになり、

荒い息を繰り返す。


全身が、痛い。

でも――


壊れていない。


師匠が、上から見下ろす。


「今のは、

 止められたとは言わない」


透は、息を整えながら、

それでも、頷いた。


「……はい」


分かっている。


でも。


「……でも」


声が、震える。


「昨日よりは……」


師匠は、少しだけ、口角を上げた。


「地獄の入口には立ったな」


透は、苦笑した。


「……まだ、入口ですか」


「ああ」


師匠は、背を向ける。


「ここからは、

 毎回、今日よりきつい」


透は、天井を見つめた。


怖い。

正直、逃げたい。


それでも。


(止められるなら)


守れるかもしれない。


誰かを。


自分を。


透は、ゆっくりと体を起こした。


「……もう一回、お願いします」


師匠は、振り返らずに言った。


「それでいい」


地獄は、

始まったばかりだった。

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