第26話:宣告
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
河川敷に着いたとき、
師匠はもう来ていた。
「遅れました」
「いや」
短い返事。
それだけで、
空気がいつもと違うと分かった。
透は、立ち位置を探すように足を止める。
風が冷たい。
昼間より、
ずっと静かだった。
「最近、ここ来てないな」
「……はい」
責められている感じはない。
なのに、
背中が少しだけ強張る。
「言った通りだ。
来なくていい」
「じゃあ――」
「でもな」
師匠は、透の方を見た。
目を逸らさない。
「それで止まるなら、話は終わってた」
透は、何も言えなかった。
「止まってない」
淡々とした声。
「積み上がってる。
自分でも、分かってるだろ」
胸の奥が、
小さく鳴った。
「……正直、よく分かりません」
「分からないのが、一番危ない」
師匠は、そう言い切った。
間。
川の流れる音だけが続く。
「お前な」
師匠は、少しだけ視線を外す。
「もう、隠せないところまで来てる」
「隠すって……?」
「力だ」
はっきりと言った。
逃げ場がなくなる言い方。
「特別なことは、何もしてないつもりです」
「だからだ」
即答だった。
「してないのに、できてる。
それが問題だ」
透は、拳を握る。
「俺、別に……
何かになりたいわけじゃ」
「知ってる」
師匠は、遮る。
「守りたいだけだろ」
透の喉が詰まる。
師匠は続ける。
「前にも、同じ顔を見た」
――前と、同じだった。
あの言葉が、
頭の中で重なる。
「自分を後回しにして、
踏み出すやつの目だ」
「……それ、悪いことですか」
しばらく、沈黙。
師匠は、ゆっくり息を吐いた。
「悪くはない」
でも、と続ける。
「放っとくと、必ず壊れる」
透は、視線を落とす。
「だから、今日で終わりだ」
「……何がですか」
「何も知らないふり」
師匠は、透の足元を見る。
「次からは、
止まれた理由を教える」
「それって――」
「逃げ道はなくなる」
師匠は、はっきり言った。
「それでも来るか?」
透は、少しだけ考えた。
家のこと。
母の背中。
妹と弟の声。
考えるまでもなかった。
「来ます」
短く、でも迷いなく。
師匠は、頷いた。
「じゃあ、覚悟しろ」
それだけ。
名前も、
仕組みも、
まだ教えない。
ただ。
これまでと同じでは、
もういられない。
透は、川の向こうを見た。
風が、
少しだけ強くなる。
隠せない。
その言葉の重さが、
今になって胸に落ちてきた。




