第24話:あとから
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
朝の空気は、少し湿っていた。
透は自転車を漕ぎながら、
昨夕の河川敷を思い出していた。
――前と、同じだった。
意味は、まだ分からない。
なのに、頭から離れなかった。
「おはよー、透」
校門の前で、声をかけられる。
朝霧さやだった。
「おはよう」
短く返す。
「なんか今日、静かじゃない?」
「そう?」
「うん。
いつももうちょい落ち着きない」
透は、苦笑した。
「失礼だな」
「褒めてる」
さやは、あっさり言う。
教室に入ると、
いつも通りのざわめき。
席に着き、
机に肘をつく。
黒板の前では、
担任が連絡事項を話している。
その声を、
半分しか聞いていなかった。
(考えすぎてる、か)
昨日、師匠に言われた言葉。
確かに、
最近ずっとそんな感じだった。
休み時間。
廊下で、クラスメイトが騒いでいる。
誰かが、走り出す。
ぶつかりそうになって、
透は反射的に動いた。
体が、自然に前へ出る。
――止まる。
寸前で。
相手は、別の生徒に引き止められた。
透は、自分の足元を見る。
(今の……)
速くもない。
遅くもない。
ただ、
ちょうどいい。
胸の奥が、ざわっとした。
昼休み。
弁当の包みを開きながら、
さやが言う。
「最近さ」
「ん?」
「無理してない?」
箸が止まる。
「してないけど」
「うそ」
即答だった。
「顔に書いてある」
透は、少し困ったように笑う。
「そんな顔してる?」
「してる」
さやは、視線を外しながら続ける。
「前はさ、
もっと……雑だった」
「雑ってなんだよ」
「勢いで動いてたっていうか」
言葉を選んでいるのが分かる。
「今は、
止まりながら動いてる感じ」
透は、箸を置いた。
――前と、同じだった。
その言葉が、
ふと重なる。
「……それ、悪い?」
「分かんない」
さやは、正直に言った。
「でもさ」
一拍おいて。
「止まれるのって、
案外すごいと思うよ」
透は、返事ができなかった。
放課後。
河川敷には、行かなかった。
師匠に言われた通り。
家に帰って、
夕飯を作る。
包丁を握る手が、
少しだけ安定している。
(同じ、か)
前と、同じ。
でも。
前より、
少しだけ楽だった。
透は、まだ知らない。
それが「力」だということも、
それが「制御の入口」だということも。
ただ。
昨日より、
今日はちゃんと立てている。
それだけは、確かだった。




