第17話 観測対象A
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
室内は暗い。
照明を落としたまま、壁一面のモニターだけが光っている。
通学路。
校舎裏。
フェンス沿いの通路。
そこに映る少年を、徹は黙って見ていた。
「……やっとだな」
隣に立つ部下が、わずかに姿勢を正す。
「表に出た、という理解でよろしいですか」
「ああ」
徹は視線を外さない。
「遅いくらいだ。
もっと早く歪みが出ると思ってた」
部下が端末を操作する。
「昨日の校内トラブルですが――
少年は止めに入っただけです。
殴り合いにはなっていません」
「“なっていない”のに?」
「はい。
加害側は顔面を狙ったと証言しています。
ですが接触は肩。
力が抜けたような挙動だったと」
徹は、小さく息を吐いた。
「結果だけ変わった、か」
「偶然の可能性も――」
「ない」
即答だった。
「偶然で説明できるなら、
あいつは最初から観測対象になってない」
モニターの中で、少年――結城透が歩いている。
背筋を伸ばし、前だけを見て。
「家庭は?」
「長男。
兄弟複数。
父は死亡扱い。
母子家庭で、経済状況は厳しい」
「“守る側”になる条件が、全部揃ってるな」
皮肉でも軽口でもない。
ただの事実確認だった。
部下が一瞬、言葉を探す。
「……回収、しますか?」
「するな」
間髪入れず、徹は言った。
「囲うな。
触るな。
試すな」
「ですが、能力の兆候が――」
「だからだ」
徹は、ようやく画面から目を離した。
「壊すには早すぎる。
選ばせるには、まだ何も見せていない」
部下は黙って頷く。
「観測レベルは?」
「一段階引き上げる」
「監視に気づかれる可能性が――」
「気づかせるな。
あいつは“守ること”に集中していればいい」
再び、モニターに視線を戻す。
透が、夕焼けの中を歩いていく。
「……少年でいられるうちは、な」
その声は低く、静かだった。
徹は知っている。
こういう人間が、どこへ行き着くのかを。
かつての自分と、同じだからだ。
「結城透」
名前を一度だけ口にする。
「世界を知るには、
まだ早い」
モニターが切り替わる。
次の映像へ。
徹は、もう振り返らなかった。




