第15話 間に、入っただけ
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
放課後の校舎裏は、人が少ない。
グラウンドの声も、もう遠い。
透は、フェンス沿いの通路を急いでいた。
今日は家で夕飯を作る番だ。
少しでも早く帰らないといけない。
そのときだった。
「……やめろって言ってるだろ」
低い声。
角を曲がった先で、三人の男子が一人を囲んでいた。
壁際に追い詰められているのは、同級生だった。
名前はすぐに出てこない。
クラスも違う。
ただ――
肩が小さく震えているのが見えた。
「金、貸せって言ってんじゃねえんだよ」
「ちょっとでいいんだよ、あるんだろ?」
逃げ道はない。
フェンスとコンクリートの間。
透は立ち止まった。
見なかったこともできた。
関わらなければ、何も起きない。
それでも――
足が、前に出ていた。
「……何やってんの?」
声が、思ったより大きく響いた。
三人が一斉に振り返る。
「あ?」
「誰だよ」
透は、喉がひりつくのを感じながらも、言葉を続けた。
「もう帰れよ。先生来るぞ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、誰かが舌打ちをした。
「調子乗んなよ」
一人が、透に向かって歩き出す。
拳が握られるのが見えた。
――まずい。
そう思った瞬間だった。
殴られる。
そう“分かって”いた。
けれど。
衝撃は来なかった。
代わりに、強く押されて、背中がフェンスにぶつかる。
「……っ」
息が詰まる。
腕が、じんと痺れた。
殴られたはずの位置が、違う。
透は、気づく。
自分が――
間に立っていたことに。
いつの間にか。
考えるより先に。
「……邪魔すんなよ」
そう言い捨てて、三人は舌打ちを残し、去っていった。
足音が遠ざかる。
その場には、透と、助けられた少年だけが残った。
「……大丈夫?」
透が聞くと、少年は小さくうなずいた。
「……ありがとう」
それだけ言って、走り去っていく。
透は、その背中を見送りながら、ゆっくり息を吐いた。
心臓が、うるさい。
腕を見る。
赤くなっているだけで、骨は無事そうだった。
――殴られてたら、こんなもんじゃなかった。
なのに。
「……なんで」
自分でも、分からない。
強くなった感覚はない。
速くなったわけでもない。
ただ、
**“そこにいた”**だけだ。
間に入った。
それだけ。
夕焼けが、フェンス越しに滲んでいた。
透は、リュックを背負い直す。
「……帰ろ」
誰に言うでもなく、そう呟いて、歩き出した。
まだこのときの透は知らない。
それが――
ただの勇気ではないことを。
そしてその行動が、
誰かの目に、確かに映っていたことを。




