第13話 すれ違う光
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
昼下がりの駅前は、騒がしかった。
休日ということもあって、
人の流れが途切れない。
透は、エコバッグを肩に掛けて歩いていた。
中身は、特売の食材。
今日は、弟たちが好きなカレーだ。
「……肉、足りるかな」
独り言を呟きながら、
スマホで電卓を叩く。
――大丈夫。
少し、胸を撫で下ろす。
そのときだった。
前方から、背の高い男が歩いてくる。
スーツ姿。
場違いなほど、整った佇まい。
目が合った。
ほんの一瞬。
だが、なぜか透は目を逸らせなかった。
――変だ。
理由はわからない。
ただ、
“この人は、普通じゃない”
そう感じた。
すれ違いざま。
男の足が、わずかに止まる。
透の肩が、ぶつかりそうになる。
「あ……」
透が声を出すより早く、
「悪い」
低い声。
男――**徹**だった。
「いえ……」
透は、慌てて頭を下げる。
徹は、一瞬だけ透を見た。
その視線は、値踏みするようでもあり、
同時に、懐かしむようでもあった。
「学生か」
不意に、そう言われる。
「……はい。高校です」
「そうか」
それだけ。
徹は、それ以上何も言わず、
人混みの中へ戻っていく。
数歩、歩いてから。
徹は、ふと立ち止まった。
振り返らない。
だが、確信があった。
――今のは。
「……まだ、か」
小さく呟く。
その声は、
誰にも届かない。
*
透は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
心臓が、妙に早い。
「……なんだ、今の」
知らない人。
ただの大人。
それなのに。
胸の奥が、ざわつく。
――見られた。
そんな気がした。
首を振る。
「気のせいだろ」
そう言い聞かせて、歩き出す。
家に帰れば、
弟たちが待っている。
守るべき日常が、ある。
透は、気づいていなかった。
今すれ違った男が、
“自分の未来の選択肢そのもの”だということに。
駅前の雑踏は、
何事もなかったように流れていく。
光と光は、
まだ、交わらない。




