第12話 語られなかった過去
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
朝の訓練が終わったあと、
二人は川沿いのベンチに座っていた。
透は、息を整えながら空を見上げる。
雲が、ゆっくり流れている。
「なあ」
透が切り出した。
「師匠ってさ」
師匠は、答えない。
「前に言ってたろ」
透は、少し迷ってから続ける。
「力は“事故”だって」
師匠の視線が、川面に落ちる。
「……ああ」
短い返事。
「それってさ」
透は、言葉を選ぶ。
「師匠も、そうだったのか?」
風が吹いた。
草が揺れ、
川の水がきらめく。
しばらく、沈黙。
透は、もう聞くのをやめようとした。
そのとき。
「一度」
師匠が、ぽつりと言った。
透は、息を止める。
「守れなかった」
それだけだった。
それ以上、言葉は続かない。
「……」
透は、何も言えなかった。
聞いていいのか、
聞いてはいけないのか。
わからなかった。
「だから」
師匠は、立ち上がる。
背を向けたまま、言う。
「同じことは、させない」
それだけ言って、歩き出す。
透は、ベンチに残されたまま、
その背中を見ていた。
――守れなかった。
その言葉が、胸に残る。
家族の顔が、浮かぶ。
父の背中。
母の声。
弟たちの笑顔。
「……」
拳を、握る。
守りたい。
それでも。
“守れなかった”人の言葉は、
あまりにも重かった。
風が、また吹いた。
川は、何も語らない。




