第11話 同じ言葉
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
朝の空気は、冷たかった。
川沿いの土手。
まだ人の少ない時間帯で、
風の音だけが耳に入る。
「もう一度だ」
師匠は、短く言った。
透は、うなずいて前に出る。
深呼吸。
集中。
身体の奥に、あの“感覚”を探す。
――来い。
一瞬。
空気が歪んだ。
次の瞬間、
透の足元が崩れる。
「っ……!」
転びそうになる身体を、無理やり支える。
だが、制御が遅れた。
力が、外に漏れる。
「止めろ」
師匠の声。
同時に、透の背後に回り込む気配。
肩を掴まれ、強く引かれた。
次の瞬間、
力は霧散した。
「……今のは?」
透が息を整えながら聞く。
師匠は、答えない。
しばらく、沈黙。
「もう一度だ」
透は、歯を食いしばった。
繰り返す。
失敗。
また失敗。
腕が重くなり、
視界が揺れる。
「……っ」
膝が落ちそうになる。
それでも、立ち上がる。
「なあ」
透が言った。
「これ、意味あるのか?」
師匠は、初めて透を見た。
「ある」
即答だった。
「でもさ」
透は、息を切らしながら続ける。
「俺、家族を守りたいだけなんだ」
「――それが危ない」
師匠の声は、低かった。
透は、顔を上げる。
「え?」
「力はな」
師匠は、地面に落ちた小石を拾う。
それを、川に放った。
水面に波紋が広がる。
「選ばれた証じゃない」
透の胸が、わずかに跳ねた。
「……」
「ただの“事故”だ」
透は、言葉を失った。
――事故。
どこかで、聞いた言葉。
でも、思い出せない。
「事故で手に入れた力を」
師匠は、続ける。
「正義だと勘違いした瞬間、
人は必ず踏み越える」
「……じゃあ」
透は、声を絞り出す。
「どうすればいいんだよ」
師匠は、透を見た。
まっすぐに。
「壊れる一歩手前を、覚えろ」
「……」
「そこが、お前の線だ」
風が吹く。
川面が揺れる。
「明日も、同じことをする」
師匠は言った。
「限界がわかるまでだ」
透は、うなずいた。
理由は、まだわからない。
でも。
この人は、
“間違ったこと”は言っていない。
そんな気がした。
――なのに。
胸の奥が、ざわついていた。
なぜか。
それは。
同じ言葉を、
どこか別の場所でも聞いている気がしたから。




