第10話 正しさの所在
本作は毎週水曜・土曜の21時に、2話ずつ更新予定です。
その男は、徹を信じていた。
理由は単純だ。
――あの人は、逃げない。
「今日の判断、少し甘かったんじゃないですか」
会議室を出たあと、
廊下を並んで歩きながら、男は言った。
徹は立ち止まらない。
「何がだ」
「例の“野生”です」
男は、手にしたタブレットを見下ろす。
「十代。
制御もされていない。
事故が起きれば、また――」
「“また誰かが死ぬ”か?」
徹が言葉を継いだ。
男は、黙った。
「それは事実だな」
徹は歩みを止め、窓の外を見る。
夜景。
電力で照らされた、街。
「だがな」
振り返る。
「回収すれば、救えると思うか?」
男は即答できなかった。
回収とは、保護ではない。
管理。
隔離。
そして、選別。
「……少なくとも、被害は抑えられます」
「短期的にはな」
徹は、窓に映る自分の顔を見る。
「だが、長期的には違う」
「……どういう意味ですか」
「力を持つ人間が、
“選ばれた存在”だと錯覚する」
男は、息を呑んだ。
「それが一番、危険だ」
徹は、静かに言う。
「力は、才能でも祝福でもない。
ただの“事故”だ」
「事故……」
「だからこそ」
徹は、男を見た。
「自分で転んで、
自分で立ち上がれなかった人間に、
力を持たせるわけにはいかない」
男は、拳を握る。
「……でも」
「わかってる」
徹は、視線を戻した。
「見捨てているように見えるだろう」
男は、うなずいた。
「正直に言うなら」
「だろうな」
徹は、わずかに笑った。
「だが、俺たちは世界を回している」
街の灯りを指差す。
「電気も、熱も、生活も」
「止めれば、もっと多くが死ぬ」
男は、何も言えなかった。
それは、否定できない事実だった。
「だから俺は、
“正しい選択”しかしない」
徹は言う。
「感情じゃなく、結果でだ」
男は、深く頭を下げた。
「……あなたのそういうところを、
自分は信じています」
徹は、何も言わなかった。
ただ、背を向けて歩き出す。
その背中を見ながら、男は思う。
――この人は、嘘つきだ。
――でも。
――世界のために、
嘘を選んでいる人だ。
それが、
自分がここにいる理由だった。




