夏空
冷房がよく効いたカフェの一角に、僕は座っている。
窓際のカウンター席。
目の前には空き地が広がっている。砂っぼこりをまとい、それが奥深くまで染み込んだように寂れた薄茶色をしたタイヤが転がっている。そこら中に生えた鮮やかな緑は、雑草というよりはもはや森だ。こんな空き地は今ではもう珍しいであろう。
ふと、目を上げる。
息を呑む。
淡い夏空が、一面に広がっていた。
もう昔の話なのに、脳裏に焼き付いて離れない一瞬。本当になんでもないはずなのに、いまでも何故か、忘れられない一時。
そんな風景が、僕にはある。
近所のいつもの駄菓子屋さん。おばちゃんになけなしの小遣いをわたし、一本のラムネを買う。
「あんたら、ゴミはちゃんと持って買えるんやで!!」
「うん!!!」
振り向きざまに返事をしながら、僕らは空き地へと駆けた。
顔を伝う汗。上がる息。いつの間にか湿ったシャツ。日焼けの跡。今では忌むべきなにもかもが、あの頃は、どこか誇らしげだった。”これこそ、僕らの夏なんだ”なんて言いたげな顔で、汗を拭った。
もはや庭だったあの空き地で、僕らはいつもラムネを飲んだ。
積まれたタイヤに腰掛けて、「明日はなにする?」「明後日はなにする?」なんて未来に心躍らせていた。焦燥とよぶには無垢すぎる、あの時間への意識は、たぶん「夏休みが終わる前に」という魔法の言葉の仕業だったのだろう。
そんな話をしながら、僕は、飲み終わったラムネを、空に透かすのがすきだった。
汗をかいたラムネの瓶を、淡い空へと掲げてみる。透き通った水色から、光が漏れ出てくる。海の中に潜って見た、日の光みたいにゆらゆらと美しかった。
その瓶の中、コロコロ転がるビー玉は、まるで太陽みたいに、一際大きな光を纏って輝いていた。
空に透かしたあのラムネ瓶の、遠浅の海のように透き通った水色を、真っ白いキャンバスに落としたら、きっとこんな色になる。
アイスコーヒーを飲みながら、僕は、夏空を見上げて、そう思った。




