第19話 三浦君
「決めた」
遠藤君がフォークを握り締めて悲壮な顔をした。
「何を?」
「来年の抱負」
「まだクリスマスイブだぞ。早くないか?」
「善は急げ、だ」
「来年のことを言うと鬼が笑う、とも言うぞ」
「・・・」
何故か遠藤君には全く容赦のない三浦君。
かわいそう・・・
「何言ってるの、雛子。三浦はあんたにも容赦ないでしょ」
「そっか。でも、奈々にも容赦ないと思うよ?溝口君にも」
奈々がため息をついた。
「あ~あ。どうして三浦なんかとランチしなきゃいけないのよ」
そう言いながら、奈々はもう3皿目だ。
私と遠藤君は2皿目。
三浦君は、さっき私と一緒に取りに行ったカレーとコーヒーをゆっくり食べてる。
「あれ、何の話だっけ?」
「・・・三浦・・・・俺の来年の抱負だって」
「そうだっけ。まあどうでもいいや」
「普通はそこで、『どんな抱負?』って聞くんだぞ」
「どうせ『来年のクリスマスイブには藍原とここに来る!』とか言うんだろ」
「・・・なんでわかったんだよ」
当ってるんだ。
「無理だと思うけどせいぜい頑張れよ」
「・・・なんで無理なんだよ」
三浦君が「三浦君」モードになり真剣な眼差しで遠藤君を見つめた。
「まず一つ目に、これから1年の間に藍原が大恋愛をして、しかも失恋する可能性はかなり低い」
「・・・」
「よっぽどいい男が現れないと無理だし、藍原が振られるってのはありえないと思う」
「・・・」
「二つ目に、仮に一つ目が実現したとしても、藍原は『やっぱり遠藤には私はもったいなさ過ぎる!』って
気づいて、遠藤は振られると思う」
「・・・」
そして急にまた裏・三浦に戻った。
「とまあ、そーゆー訳だ。無理な抱負は初めっから抱くな。もっと簡単なのにしろよ」
「簡単?」
「例えば・・・『藍原に振られても泣かない』とか」
「三浦、おま、」
「お、電話だ。悪いなー。ちょっと外行くわ」
「・・・」
三浦君は言いたいことだけ言うと、携帯片手にさっさと店の外へ行ってしまった。
「―――――」
「飯島・・・何笑ってるんだよ」
「ご、ごめ・・・だって・・・ふふ」
なんて面白いコンビなんだろう!
奈々ちゃんもそう思ったらしく、
「裏・三浦にも使い道があるのね」なんて言ってる。
「なんだ、その裏・三浦って」
「学校で猫かぶってるのが『三浦』、素なのが『裏・三浦』」
「えー?なら、俺の前じゃ、100%裏・三浦だぞ」
「みたいね。喜んでいいんじゃない?三浦が本性見せるのなんて、
よっぽど信用できる人間と、よっぽど嫌いな人間だけよ。私は後者ね」
「俺は?」
「あ。後者かも」
「・・・」
私も後者なのかなあ。
信用されてるとは思えないし。
「ま、どっちでもいいや。裏・三浦といると面白いし」
「あれだけいじめられても!?」
「飯島だっていじめられてるだろ?」
「うっ。うん・・・」
「でも三浦のあれは、一種の愛情表現なんだよ。気にするな」
「そ、そうなの?」
「そうそう。それにあいつ、意識的に『三浦』と『裏・三浦』を使い分けてる訳じゃないと思うぞ」
え?
「誰だって、大して親しくない奴には本当の自分を見せたりしないだろ?
適当に愛想よくして、当たり障りのない会話して。三浦はちょっとそれが極端なだけだ」
「・・・」
「てゆーか、三浦の場合は、見た目とか成績とかで、
周りが勝手に『三浦はいい奴に違いない』って先入観持つことが多いから、
三浦も期待を裏切るのが悪くて無意識に『三浦』を演じちゃうんだろうな」
私と奈々は顔を見合わせた。
そうか・・・そうかもしれない。
そして、もしかしたら三浦君はそれをなんとなくプレッシャーに感じていたりするのかもしれない。
「・・・私も三浦君に一目惚れして、勝手に『素敵な人に決まってる』って思い込んでた・・・」
「な?でも、実はあーゆー奴なんだよ。見損なった?」
見損なう?
うーん。そんなことは、ない。
確かに、八つ当たりされたり「ムカつく」って言われて、凄く落ち込んだ。
三浦君のせいで、友達もいなくなってしまった。
でも、それでもまだ三浦君を嫌いになれない。
一目惚れって厄介だ。
「雛子。それってもう一目惚れじゃないんじゃない?」
「え?」
「最初は三浦の見た目を好きになったかもしれないけど、
雛子は今はもう、三浦と言う人間が好きなのよ。裏・三浦も含めて」
「・・・三浦君と言う人間・・・」
「そう」
奈々は、眉をひそめた。
「雛子。あんたって、物凄く男の趣味、悪いね」