7話 モルゲンの働き
元々2話構成だったのを1話にまとめたので、少し歪な箇所があるかもしれません。
突貫工事を許して…
俺に従者が出来た。
それはそれは絵に描いたようなモテる感じの執事だ。
間違えた。
出来る感じの執事だ。
けっして前世の俺よりも見てくれが良いって僻みじゃないぞ?
ま、実際のところは俺の従者ってよりはお目付役か。
またはシルヴァからの監視か。
子供に付ける大人の従者だから大なり小なり安全のための見張りという側面があるんだろうが、それにしてもモルゲンの場合は毛色が違って完全に怪しい奴に探りを入れるのが目的みたいに感じる。
理由はある。
だって、身のこなしが執事って感じじゃねーぞ。
これでも前世じゃ国軍相手に喧嘩を売ったことのある盗賊団を率いてたからな。
俺が蛮族なんて言われてた殆どの理由がその国軍から事あるごとに物資を頂戴してたのが原因だ。
今思い出すと実に美味い商売だったなぁ…話がそれた。
傭兵団を率いるくらいには腕っ節に自信があった俺の見たてだとモルゲンは中々に強い。
魔術の方の腕は分からないが、身のこなし、体術、暗器の扱いは相当で、あとは多分にはなるが手を見れば剣も齧ってる痕跡がある。
自己紹介の時に剣も魔術も使えるって言ってたし、まさにオールラウンダーってヤツだな。
良い人材が居やがる。
え?それだけなら単に親バカのシルヴァが心配症なだけだって?
いやいや、他にもモルゲンが俺の監視をするために付けられたって予想出来る理由がある。
まぁ、ここからは勘が大半だが。
一つがクロードに付けられた従者だ。
当たり前のことだが俺に従者を付けるんだからクロードの方にもお世話係の従者が付く。
で、その従者なんだがモルゲンと比べるとだいぶ若い。
それこそ親と子くらいには離れてる。
モルゲンの年齢は今年で48歳に対してクロードに与えられた従者が23歳…いや、5だったか?
これだけでだいぶ怪しい。
そもそもがまだ3歳の俺に初老の男を付けるなんておかしい。
護衛にしろメイドにしろ執事にしろ、専属って付く人材はよっぽどの事が無い限り他と変わる事が無いらしい。
これは聞き齧った話もあるし、あとは家族に仕えてる従者を見ればわかる。
それなのにまだまた先の長い俺にもう少しで肉体の限界が近い老人を当てるなんて何かあるって言ってるようなもんだ。
だからシルヴァが俺を探ってる…いや、正確に言えば兄貴だな。
皇太子の方の兄貴はたまにだが、俺を警戒とまでは言わないが探るくらいの視線を向けることがある。
接してる感じ嫌われては無いと思うが、子供の癖におっさん臭い部分が目立つんだろう。
もしかしたら俺が転生者だと薄々気がついてるのかもな。
それならそれで構わない。
別に聞かれないから言わないだけで隠してる訳でもないし。
仮に転生者だと知られて気味悪がられ城から追い出されるならそれはそれで良い。
元戦孤児の根無草。
この身一つあれば充分生きていける。
「であるからして、帝国における貴族とは…」
そんな感じで俺の皇子ライフを脅かしているようで脅かしていないモルゲンだが、今のところ特に言うことは無い。
それは行動にしても仕事にしてもだ。
本職じゃねぇから確かなことは言えないが諜報員としても優秀なのか、不審な行動は無くて全く俺に気取らせない。
逆に娯楽としてこの関係を楽しもうとしていた身としては何かして欲しいくらいだ。
仕事振りの方はと言うと、基本は見た目通り執事の仕事をしているのだが文句の付けようが無い。
所作は言わずもがなだが、スケジュールは完全に把握していて気の使い方にも文句が無い。
「が求められるのです。これらは非常に難解なのでまた別の時間を設けさせて頂きます」
そして今、俺はモルゲンから貴族について学んでる訳だがこれも中々。
内容自体はこれっぽちも興味が湧かないが、教え方が良いのかすごく分かりやすい。
こうしてモルゲンが俺の教師代わりになって一週間と少し経つが、コレと言ったミスも無くそつがない。
貴族についてだけで無く、今までやっていた礼儀作法に魔術、算術に語学も同じで、礼儀作法以外は中々に面白かったりする。
これが執事と言うやつか…!
「今日の授業はこの辺りまでとさせていただきます」
くだらない事を考えていたら勉強は終わった。
一応話は聞いていたしメモも取ってあるから問題無いが、退屈からの開放感とかは特に無い。
どうせ直ぐに次の勉強だしな。
「あまり身が入っておられないようで。お気に召しませんか?」
俺が凝ってもいない体をほぐすために伸びをしたところに、モルゲンが内心を見透かした様に聞いてくる。
まぁ、俺としても隠してたわけじゃねぇし顔に出てたのかもしれないが。
「気に召す召さないの問題じゃないだろ。子供が貴族階級の話をされて楽しいと思うか?」
「それもそうですね」
子供は大人しく机に着いているだけでも充分優秀なもんだ。
好奇心旺盛で遊び盛りな年頃なのに、貴族の階級制度について学んで楽しいなんて不憫な趣向の持ち主なんて居るわけがねぇ。
それはモルゲンも同じ考えらしく、否定することもなく頷く。
「ふむ、次はテーブルマナーの授業でしたが…ではこう致しましょう」
俺のやる気の無さについて、モルゲンは悩んだ素振りを一瞬だけ見せる。
どう致しても興味が無いからどうしようも…
「シルヴァ陛下からのご許可も下りているので護身術の授業に変更致しましょう」
「なに!?」
あの心配性のシルヴァが護身術を学ぶ事を許可したのか!?
あまりにも驚き過ぎてつい机から身を乗り出してしまう。
前に護身術を習うこと自体は聞かされてたが、それはまだまだ先の話だと思っていた。
第二皇子は体が弱かったせいで例外になるが、皇太子のヴィンセントの話じゃ5歳からだって聞いた。
「そこまでお喜びになられるとは。体を動かすのが好きだと伺ってはいましたがここまでとは。私も骨を折った甲斐があります」
俺のらしく無い態度が面白いのか、モルゲンは生暖かい目で微笑む。
小馬鹿にされている感じがして少し腹が立つが今は許しやる。
長かった…
ほぼ産まれて直ぐに記憶を取り戻してからというもの、元々自由に生きてきた身からすれば窮屈で窮屈で仕方がなかった日常。
歩ける様になっても相手にされず、言葉を話せたと思えば聞き入れてもうこともできなかった。
3歳でようやく抱っこから解放されての庭の散歩にはなったが、何をするにも制限がかかる。
最近じゃそんな生活に馴染んできてはいるが、だからと言って運動をしなくても良いと思っている訳じゃない。
「でかしたぞ!やろう、今すぐやろう!」
久々どころか今世初めての運動だ。
子供の体に精神が引っ張られる時があるのは自覚してるが、仮に子供の体じゃなくてもテンションが上がる。
俺は急かす様にモルゲンに言う。
何処ぞの過保護達が来たら困るからな。
急遽護身術の授業に変えてもらい、俺達は早速訓練所に足を運んだ。
「ここが訓練所ねぇ」
訓練用の服に着替えて訓練所に入ると、無駄に広大な訓練所を見渡す。
宮殿の敷地内なのによく建てるもんだ。
作りも城にあるだけあってか、人の目を避ける為か高い壁に囲まれている。
さらにその側にはご丁寧に木製の武具を始め、本物の武器までがよりどりみどりだ。
金がかかっているのか分かったもんじゃ無いな。
感心すれば良いのか呆れればいいのかよく分からん。
「他に人が居ないが?」
「ここは皇族の皆様が鍛錬や運動をするための場でございます」
「あぁ、そう言えば訓練所の一つとか言ってたな」
「はい、騎士や近衛の訓練所はまた別となっておりますので、他の皇族の方や来賓の方が使用していなければ人はおりません」
何とも贅沢な話だと思っていると「仮にここが使用されていればまた別の訓練所がございます」とモルゲンは最後に補足をする。
え、これがまだ他にもあるのかよ。
しかも使ってないとかどんだけ無駄遣いなんだよ。
前世平民をしていた俺には理解できない考えだな。
「お話はこれくらいにして。早速稽古に移りましょう」
お、そうだったそうだった。
折角の貴重な運動時間を無駄にするところだった。
最初は準備運動からする。
身体をほぐすのをモルゲンに指導してもらいながら外周を軽く走って身体を温める。
「これくらいでいいだろう」
「そうですな。では最初に型について…」
「いや、模擬戦をやろう」
走り終えるとモルゲンは授業に入ろうとするが、我慢の限界が近い俺は言葉を被せる。
表情こそピクリとも動いていないが、この後に盛大な前置きを話し始める気配がする。
「ユリウス殿下」
「モルゲンの言いたいことは分かる。だが、俺がどの程度動けるのかを見るにはこれが一番だろう。なにより、俺がやりたい」
だから俺は先回りするように言葉を封じる。
強引な話の持って行き方だが曲がりなりにも皇族の意見だ。
モルゲンは少し目を瞑って考える素振りを見せると、小さなため息をついてから口を開く。
「息抜きにと提案したのは私でございますね…かしこまりました」
よし!
モルゲンは折れる様に頷く。
俺は自分の意見が通ったことに内心ガッツポーズをとるのだった。
「では、こちらから武器をお一つ選びください」
モルゲンに促された先には子供用の大きさに調整された木製の武器が並んでいる。
剣は当たり前で槍に斧に槌、鞭、ナイフ…ハルバードなんて子供に使えんのか?
てか、鎖鎌とか皇族が使うもんとして大丈夫じゃないだろ。
思いっきり暗器じゃねぇか。
「お悩みのようでしたら剣など如何ですか?」
俺が武器のラインナップに微妙な思いを抱いていると、悩んでいると勘違いしたモルゲンが助言をくれる。
剣か。
前世じゃナイフを好んで使ってはいたものの、戦場に転がってる武器は粗方使えるし一番オーソドックスなこれでいいか。
木製の剣を手に取るとモルゲンと二人で中央に陣取る。
「準備はよろしいですか?」
「いつでもいいぞ」
「さようですか。ユリウス殿下がどれほどお動きになられるのかを知りたいので先に打ち込んでもらってもよろしいですか?」
ふむ。
なら遠慮なくやらせてもらおう。
俺とモルゲンの距離はそれほど離れてない。
大人で3歩、子供で6歩って所か。
俺なら1歩で詰めるなんて訳ないな。
ダン。
「…ッ!?」
モルゲンは目を見開く。
子供に一瞬で距離を詰められないと思ったか?
取り敢えず挨拶代わりに片手で横薙ぎの一撃を振るが、モルゲンは驚きながらも一歩下がって攻撃を避ける。
やっぱり非戦闘職の動きじゃないな。
適当とは言え、そこら辺にいる一般人くらいなら認識するのも難しいくらいの速さの筈なんだが。
まぁ、これに当たってもらっちゃ期待外れもいいところだ。
「よっ!ほっ!やぁ!」
即座に突きを繰り出して払いに派生、さらに回転切りの順で放つ。
しかし、今度は驚いた様子もなく剣を使って捌かれる。
最初に驚いたのも戦う術を知らないはずのガキが予想外の動きをしたって言う、奇襲まがいだったから通じただけだ。
今回は剣で防がせたから及第点だな
ところで、その間抜けな掛け声はなんだって?
可愛いだろ?気にするな。
うーん、脚が長ければこのまま勢いで蹴りに繋げるのもアリなんだが、ガキの脚は短いから当たる気しねぇ。
「やっぱ防がれるか」
「私も多少腕に覚え…!?」
なんか言ってくれてるとこ悪いが、攻撃は緩めねぇよ?
回転切りを受け止められたから剣を引き戻して突き!と見せかけて振り下ろし。
「なんの!」
前世でも結構引っかかる奴が多かったフェイント攻撃の一つだったんだが、モルゲンは慌てる事なく横にズレるだけで避けやがる。
さらに、ここで俺の鼻っ柱を折っておきたいのか、まぁまぁな速さで俺の脇にカウンターを入れてくれる。
まぁ、振り下ろした剣の位置を少し調整すれば問題なく防げるな。
「ほう、これを防ぎますか」
「感心するほどか?これくらいでわざわざ褒めなくていいぞ。面倒だろ」
今度は落ち着きを払ったスカした感じな驚き方をするモルゲンだが、気に食わないから俺も皮肉を返す。
まぁ子供がこんなことやってたら驚くわな。
むしろ、コイツ驚かな過ぎじゃね?
温室育ちとか皇族のことバカにしてたが、モルゲンの反応的にこれくらい子供でもできて不思議じゃないとか結構皇族の敷居高くねぇか?
これくらいじゃ驚かないってか。
やっぱ血統とか才能とか取り込みまくってるだけあって平均の基礎スペックが高いのかね。
なら、もう一度そのスカした目を剥かせてやるさ。
早速、速度と力のギアを一段上げて一撃をくれてやるよ。
「まだ速くなりますか…」
モルゲンは興味深いといいたげに軽々と躱しやがる。
対応が困難なほどの速度差はねぇから仕方ないけれど、こうも簡単に対応されるのは癪に思いながら一先ずはこれでいいと適当に攻撃を続ける。
一撃、二撃、三撃、四撃と剣を振るが当たる気配は全くと言っていいほど無い。
モルゲンはある程度攻撃を見ると、回避をしながらも教師としてのアドバイスをしてきた。
「速くはなりましたが攻撃が単調になってしまっていますね。それにただ速くしただけでは一撃の重さが損なわれてしまいます」
そんなことは知っている。
それでもこんな適当な攻撃をするのには意味がある。
速度重視の剣術の弱点をデモンストレーションしようと、「このように…」とモルゲンが攻撃を受け止めようとする。
(かかった!)
俺が上げたのは何も速度だけじゃ無くて力も同時に、だ。
フェイントとかの駆け引きをやめて攻撃一辺倒に変更したのは全て攻撃を受け止めさせるため。
「ぐぅ…!?」
俺の攻撃を受け止めたモルゲンは、想像よりも遥かに重い一撃に呻き声をあげながら、自分の剣が押し込まれていることに驚愕の顔をした。
最初の小手調べで俺の身体能力を測ったつもりだろうが、手加減をしていたのは何もモルゲンだけじゃない。
無理やり力を入れて堪えようとするがもうおせぇよ。
「よっっっこら…せぇ!!」
「ぬぅぅ…!」
思いっきり剣を振り抜けば、俺から見れば巨人にも感じられるモルゲンは簡単に宙に吹き飛ばされる。
いや、この感じは自分で吹き飛んだな。
空中に投げ出されたモルゲンだったが、身体を捻って体勢を立て直すと綺麗に地面へ着地する。
「これは一本とられましたな。いやはや、お見それいたしました」
何事もなかったかのように直立するモルゲンだったが、自分の予想を超えられたからか流石に表情が少し硬いものになっている。
一泡吹かすことには成功したが、地面を転がさせるつもりで吹き飛ばしたから満足までは行かないな。
70点ってところか。
「よく言う。しっかり受けきってるじゃないか」
「いえいえ、綺麗にユリウス殿下の術中に嵌まってしまいました。大仰に教師役を買って出たのがお恥ずかしい限りです」
騙くらかされたことに畏まるモルゲンだが、決めきれなかった時点で俺の失敗みたいなもんだ。
最初こそ俺の攻撃を受け切ろうとしていたが、無理だと判断した途端に体の力を抜いて自分から飛んで往なしきりやがった。
やろうと思えばまだまだ力を入れることは出来たが、剣の耐久力がどのくらいかなんて分かりはしないし、下手に剣を強化魔術を使い、魔素で覆って強化すれば逆にモルゲンの剣ごと骨をおっていたかもしれない。
しかし、それを言ったらアイツだって本気を出していないだろう。
負け惜しみは趣味じゃねぇからな。
次はキッチリ張っ倒すとするさ。
「これでは見限られてしまってもしかたありませんな。ここからは醜態を挽回していきたいと思います。次は私から攻めさせて頂きます」
モルゲンは表情を引き締めると油断なく剣を構える。
ようやくやる気になったか。
「いいね。楽しくなってきた」
「攻めの剣術は非常に素晴らしいものでしたが守りの剣術はいかがですかな?それでは参ります」
わざわざ宣言なんてしなくていいものを。
まだ子供扱いが抜けないのかと少しガッカリとした気持ちになりそうだったが、踏み込みを見てそんなことはないとすぐに分かった。
ぬるりと地面を滑るように距離を詰めたモルゲンは上段からの一撃を披露する。
移動だけじゃなくて剣の振り方も綺麗なもんだ。
予備動作の少ない一連の動きはそれだけで対応が難しくなるが、俺は問題なく剣を寝かせてその一撃を防ぐ。
これくらいは当然と防がれることを前提としていたらしいモルゲンは、言葉通りに連撃を放ってくる。
型通りであろう最初の一撃以外も一つ一つの動作に無駄が無くて鋭い。
やっぱり思った通りかなり強い。
けど、こっちも予想した通り騎士って感じじゃなくて、殺し屋とか暗部とかそっち系が本職だな。
距離を詰める時に使った足運びとか、騎士でも使う奴が居ないとは言い切れないが珍しいのは間違いがないと思う。
あれは威力重視ではなく命中とか後の展開を重視した動きだ。
時代とか国とかで廃れ流行りがあるから確かなことは言えないが、大抵は騎士が好んで使う型は速度が威力重視になる事が大半なのはそう変わらないだろう。
暗殺者と騎士の動きを混ぜたみたいな動きは中々面白く、正面から戦う奴らほど初見での対応はかなり難しくなるハズだ。
俺は問題ないが。
モルゲンよりも強いとか最初に推測をして見抜いていたとかそんな理由じゃなく、単純に似たような動きを俺も出来るから予想がつきやすいだけだ。
ストリートチルドレンをしていた経験が暗殺術紛いの動きを可能にしていたのは、こうして思い出すと笑える話だ。
師匠にどこで暗殺術を学んだんだ?と興味本位で聞かれた時、初めて俺の動きが暗殺術だって知った。
「何となく使えると思った動きを使ってるだけ」って答えたら大爆笑されたっけなぁ。
懐かしー…おっと。
「集中が乱れているようにお見受けしますが?」
「すまんすまん」
考え事をしていたらモルゲンの突き攻撃が服を掠める。
昔を懐かしんでる場合じゃねぇな。
忠告と共に攻撃の密度が増えたところを見るに、やるからには集中して取り組めってことか。
それじゃ、そろそろ真面目にやりますかね。
とは言え、俺とモルゲンの実力差を考えるにだからと言って簡単に倒せるものでもない。
前世の肉体基準で話をするなら上から目線でモノを言えるくらいには簡単に倒せるんだが、今の体は貧弱とか言う以前に成長しきっていない子供の体だ。
最初の方に押せているように見えたのは、単に意識の隙をついたのと強化の練度で押しただけで、実際に筋力や脚力が勝てた訳じゃない。
仮に小細工なしのよーいドンで力比べや速さ勝負をすれば、最終的には確実に負ける。
魔素で強化した所でモルゲンの身体能力には恐らく届かず、今できる範囲の技ではあるが技術の方はやや優勢って感じ。
いや、勘が鈍ってることを考えるとそれほど優勢でもねぇな。
証拠に二度のチャンスで仕留め損なってるし、考え事をしてたとは言えただの様子見攻撃が掠るっていう凡ミスもしてる。
だから、他所から見た内容ほど俺は有利じゃない。
何でもアリならいくらでもやり用はあるんだが、土で目潰ししたり隅に置いてある武器を投げたりっていうのは、間違いなく趣旨に反するのは俺にも分かる。
そもそも、これは殺し合いじゃねぇんだし対等な条件で戦いたいっていうのもあるから、最初からナシではあるんだが。
「なら、最初からやることを変える必要は無い」
「どうかしましたかな?」
「なに、方向性を纏めただけだ」
考えを纏めて小声で口ずさめば、モルゲンは攻撃を緩めることなく不思議そうに聞き返してくる。
それにハッキリと言葉を返したところで、ボチボチ反撃にうつることにするか。
良さげな攻撃を待つこと少し、手始めに防御の仕方を変えてやる。
今までは剣を固定して受ける形で攻撃を防いでいたが、今回は強めに払ってやる。
初めての行動に対応が出来なかったモルゲンの剣は思惑通りに弾かれる。
だが、そこは強者ゆえの自力の高さで大した隙を晒さず、すぐさま剣を元の位置に戻す。
反撃開始だ。
攻撃が止んだのを見計らってこちらからも攻撃を仕掛けてやる。
当たり前のように防がれて、また攻守入れ替えでモルゲンからの攻撃が飛んでくるが、これまた防いで攻守を戻してやる。
そうして俺とモルゲンは攻めて守ってを繰り返すような斬り合いを暫く続ける。
そろそろ頃合いか。
「とりゃ」
両者共に今の流れに慣れてきたのを見計らって、いかにも渾身の一撃みたいな力強い切り払いを仕掛ける。
それに対してモルゲンは防御を選択した。
しかし、最初みたいに受けて立つ事はしない。
一度見た攻撃を似たようなシュチュエーションで放たれたのだから、もうその攻撃は通用しないと言わんばかりに受け流すような態勢で待ち構える。
さてさて、攻撃の受け流しの時に大切になってくるのは適度な脱力だ。
俺はそれを逆手に取ってやる。
力任せな一撃に見えて実はそれほど力を入れていない一撃は、モルゲンの剣に当たった瞬間、不意な場所に動かないよう鍔迫り合いに持ち込んでやる。
「ッ…!?」
果たして、受け流しをするつもりで力を入れきれていないモルゲンが、力勝負の鍔迫り合いに持ち込まれたらどうなるか。
「今度こそしっかり一本貰うぞ」
「ぅぐ…!!」
答えは簡単に押し込まれる、だ。
モルゲンはようやく腰を地面に落とすと、まさか負けるとは思わなかったのか驚愕の表情で俺を見上げていた。
身体強化込みとはいえ、まさか子供に力勝負で負けるとは思わないからなぁ。
種を明かせばこれも力の強弱を使った技の一つだ。
武術の『崩し』ってやつだな。
「子供だからって少し甘く見過ぎなんじゃないか?」
「おみそれいたしました…しかし、それほどユリウス殿下の力量を低く見積もったりはなかったのですが」
モルゲンは俺の挑発を軽く受け流すと、スタリと膝を曲げずに立ち上がる。
こんな子生意気なガキに負けて言い訳の一つでも言っていいものを、生真面目に煽てるなよ。
少し恥ずかしいだろうが。
実際、モルゲンには油断があったから勝ち星を上げられたようなもんだ。
前の体じゃもっと動けたんだが、やっぱ鍛えてないと鈍るしぎこちねぇんだよな。
別に暴力が必要な身分じゃないから鍛えなくてもいいんだな、何かあった時とか考えると多少は動けるようにしておきたい。
それに、こんなトロくて動かしずらいってのは気持ち悪いしな。
蛮族さんはゴリゴリ脳筋に見えてセコイ脳筋なので、戦いに置いてはかなり多芸です。
努力家でもあるので魔術は一般的なものなら一通り使え、武器もよほどマイナーでなければ基本何でも使えます。
だから、モルゲンを似た様なタイプだと謎の親近感を持っていたりします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




