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32話 公爵、後始末を終えて

皇城の一室にて。

新年を迎えた事を祝って、賑々しく煌びやかなパーティーが城で行われている一方で、その場は非常に殺伐とした空気に包まれていた。

本来は談話室として使われているその部屋は、今現在は作戦室代わりに使用されている。

その中でも取り分け張り詰めているのは指揮を取っている男、ランデウスから放たれる威圧感ゆえであった。

ヴァレス帝国の四大貴族の一角を担っているだけあって、目に見えて狼狽えたり焦燥してるといった、感情の発露は見えない。

しかし、普段腹の底を見せないアルカイックスマイルは鳴りを潜ませ、黙々と資料に目を通す様は彼を知っている者からすれば、どれほど余裕が無いのかが窺い知れる。

それも無理のない話だろう。

溺愛してやまない娘であるアシュペリアの消息が掴めない状態であるのだからだ。

こうなってしまったことに悔やんでも悔やみきれないが、まさか城内での誘拐が起きるなんて夢にも思わなかった。


(こうなることは分かっていた…しかし、どうやって皇城からアシュペリアを連れ出したんだッ。いや、今考えるべき事はそこじゃない…)


ワールドギフトを授かった娘に過剰とも言える安全性の確保に苦心していたが、どうしても皇城となると割ける人員が減ってしまう。

それでも、こんな事が起こるまでは地位的に皇城の警備の厳重さを知る1人として、妥協とまでは行かなくても楽観的になっていた感は否めない。

一応、ワールドギフト持ちとしてシルヴァやミカエラには事情を説明して便宜を図ってもらっていたおかげで、早期対応をする事が可能になったのが不幸中の幸いか。

今はランデウスが持つ手勢に加えて、皇帝の所有する諜報機関『夜烏』を動員してアシュペリア捜索に当たらせている最中だ。


「閣下、アシュペリアお嬢様を補足したと報告を受けました!」


「詳細は!?」


少々乱暴に扉を開けたグラントン家の使用人は、飛び込む様に入るなり作法をすっ飛ばして聞いたばかりの報告をする。

ようやく入った吉報にランデウスも咎めるよりも先に話を急かす。


「発見した部隊は夜烏だそうです。帝都北東の森林地帯にて、千里眼での捜索によりアシュペリアお嬢様を発見したとのこと。安否は無事だと報告を受けています。ただいま保護に向かっている最中だと」


「他の部隊に指示は?」


「既に出しております」


「なら良い。それで、犯人は?」


「それが…既に見当たらないとのことです」


「見当たらない?どういうことだ」


アシュペリアに付けていた護衛が全員倒されていた事から、誰もが十中八九誘拐だと断定できた。

それなのに犯人が見当たらないとはどういうことなのだろうかと、ランデウスは形の良い眉を寄せる。

報告に来た使用人も同じ事を思っているだけに、困惑気味な顔で聞いた事をそのまま述べた。

何はともあれ、アシュペリアを捜索隊が発見してから暫く。

今度は魔具により情報のやり取りを行なっていた責任者自ら、ランデウスの元へやってきた。


「失礼致します。ランデウス様、アシュペリアお嬢様を無事に救出できたと報告が入りました」


「本当か!?」


「保護したのは夜烏の部隊だそうで、只今無理のない範囲でこちらへ向かっているとのことです」


無事にアシュペリアを保護したと言う報告が急造の捜索本部に知らされた。

やり切ったと歓喜するよりも、全員が無事に乗り越えられたことの安堵が強いせいか、目に見えて脱力する者ばかりだ。

それはランデウスも例外では無かった。

深々とソファーに体重を預ける様は、まさに彼の心境を正しく映し出していた。

数時間後、意識を失っていた娘の無事を確かめられたことに涙がこぼれそうになるのを抑えてながら、今後のことも考えて整然と指示を出す。

今のアシュペリアの体調を調べるために皇城にある医療機関から人員を呼び付けたり、無闇に動かすリスクを考えて城の一室を借り受けてそこに泊まらせることにした。

さらに、これだけで終わらせないのはランデウスである。

皇帝と交渉し、最上級の部屋と護衛まで用意させ、アシュペリアの周りを国で最も安全とも言える頑強さを実現してみせた。

そうして日を跨ぎ、新年会の翌日の夜にようやく一息付けたランデウスは、随分と人のいなくなった急造の救出作戦本部にて今回の一件についての話を聞いていた。


「なるほど、王国がね…」


自身の右腕とも呼べる使用人、マクアからの報告を聞き終え、ランデウスは口の中で言葉を転がす。

アシュペリア周りの陣頭指揮や皇族などの他方面への根回しにかかり切りだったランデウスは、一先ず今回の誘拐事件の調査をマクアに一任していた。

アシュペリアは勿論のこと、領地や帝都にある別邸にも人員を多く割いてる中、短時間で大まかな概要を調査し終えてるなど驚異的な成果だ。

しかし、ランデウスはそれを褒める事がないし、マクアも当然と言った態度で主人の茶を用意する。


「前々からきな臭くはあったけれど、ここまであからさまな行動に移してくるとはな。先代は暗愚で救いようの無いのも困らされたが、野蛮で貪欲な王はそれ以上だ」


ランデウスの切れ長な目が虚空に向けてスッと細められる。

そこには明確な怒りが滲み出ており、その先にいるのは件の主犯と思われる男だ。

この場に部外者が居ないが故に出た態度であるが、直ぐに自分を律すると目元の険を取る。


「しかし、アシュペリアを助けてくれた人が居たのは不幸中の幸いだったね。やはり、あの子は女神に愛されてる」


「まことにその通りにございますね。ただ、その寵児を危険に晒してしまった我らの罪は非常に…」


「言うな。既に伝えたが、今回の落ち度は私にもある」


「旦那様、身内に寛容であるのは美徳ですが、道理と言うものがございます」


「言われなくとも罰はあるさ。減給は覚悟してもらうことになる」


「それでは罰にならないと思いますが」


「勘違いしないでくれ。減給した上で馬車馬のように働いてもらう予定だから、覚悟しておく様に。丁度新しい事項も出来たことだしね」


「御意に。かような不始末を起こしておいて、そのままにしておくなど、グラントン公爵家家来一同はとても容認出来ることではございません」


薄く笑うランデウスの言葉に、当たり前のことだとマクアは同じく決意を宿しながら答える。

その場に居ることが許されてる数少ないグラントン家の忠臣達は、その通りだと言わんばかりに一斉に頭を下げた。

場の空気がいささか固くしてしまったことに居心地の悪さを覚えたランデウスは、声を柔らかくして話題を不自然にならない程度に切り替える。


「そう言えば、アシュペリアを助けてくれた人物は見つかったか?是非礼をしたいんだ」


「申し訳ございません、そちらは少々難しく。夜烏に問い合わせはしたのですが、機密だと回答をはぐらかされまして」


てっきり誰か特定が済んでいると思い尋ねてみれば、申し訳なさそうにするマクアのまさかの回答に驚かされる。


「機密?それは不思議だな。今回の件なら大抵の事は協力してくれるのに」


「私もそう思い別で調査をしてみたのですが、国家所属で無いことくらいしか掴めませんでした」


「国に所属もしないで王国の精鋭部隊を蹴散らせる人物か。ヴァレスディア家でスカウトでもするつもりかな?私としては我が家で雇いたい所だが…」


「特定の方を急がせましょうか?」


今回の不祥事の件もあるので、大抵の要求を呑んでくれる皇家が情報を出し渋ったということは、それなりの理由があるのだろう。

それこそ、まだ存在を知れていない高ランクギフト持ちとか。

気を回したマクアが提案をするが、ランデウスは「いや」と否定を入れる。


「不確かな情報のために優秀な人材を割く余裕は無い。それに、今は皇族との仲を悪くはしたくないからね。折角貸を作ったんだ。有効に活用していこう」


貸を作ったなどと嘯いたランデウスだったが、ミカエラはともかくとしてシルヴァの方はそんなのが無くとも協力してくれただろうと、確信はしている。

マクアはランデウスのことを寛容だと表現したが、シルヴァと比べれば全くそんな事は無いと断言出来る。

幼馴染として皇帝の人となりは誰よりも知っているのだから。


「それにしても、そんな都合よく物語みたいな話に助けられるだなんて、やっぱりアシュリーは愛されてるね。今度教会に祈りを捧げに行くべきかな?」


「良い考えだと同意致しますが、多忙を極める身ですので無理はお控えください。難しいのでしたら我々が代理で礼拝させていただきます」


「出来る限り自分で行きたいけど、その時は頼むよ。あぁ、そうだ。寄付金もわすれずにね?」


「心得ております」


少し政治色の強い話題になってしまっている事に堅苦しさを覚えたランデウスは、肩の力を抜いて雑談に切り替える。

ようやくの休憩の時間くらい仕事の事から離れたい。

それからは仕事の話を持ち出すこともなく、忠臣であり年上の友人と喋り続けて英気を養うのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


閑話なんてこれくらいの文量で良いと思ってる。

なお、現実は…


面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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