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29話 英雄と持て囃された元蛮族の戦い方

昔、仲間に「お前の腹筋は鉄を超えて金剛石で出来ている」なんて言われた事がある。

仇討ちに飛び出した兵士の短剣を、手隙の問題で受けた末に折った出来事を見られた時の話だ。

強化した前世の俺の肉体は、それこそ下手な武器くらい弾くくらい頑丈だった。

それに比べれば臓器に届かないくらいの傷とは言え、バッサリ切られたユリウスの体は比べ物にならないくらい脆い。

治癒魔術で治したことを驚かれるのは気分が良いと同時に、耐久性の低さに気を回さなきゃならねぇ煩わしさも出る。


「久々の全力で気が緩んでたか。人ン家なんだ、気を引き締めないとな」


俺の分析のために一旦様子見をする2人。

逃亡中にしては悠長に見える行動でも、ギフトなんて言う不確定要素の塊みたいなモンがあれば、殺し合いで慎重になるのは手練れになるほど顕著になる。

手を止めはしなくても俺も大抵はそうする。

大方どんなギフトかを見定めようとしてんだろうが、残念ながらただの『頑強』持ちなだけ。

この瞬間が昔から好きだ。

ありもしないギフトを探した上で勝手に勘違いしてくれると何かと楽だからな。

今は楽以外にもガキみてぇな特技を高く買ってもらえた高揚感もあるから余計に。

気分ついでに今度はこっちから仕掛けるか。


「『ウィンド・カノン』」


そう思って動こうとした瞬間、先程と同じ風の砲弾が剣先から飛び出す。

まぁ、様子見って言っても遠距離持ちの上に人数有利取ってんだから何もしない訳ないよな。

それは相方も同じで見えてないと思ってることを良いことに、ちゃっかり死角に移動してやがる。

避けるために飛んだ俺にナイフを突き立てられる。

速さも上がってる暗殺者の動きは余裕で俺を捉える事ができた。

まぁ、今の俺には普通に見えてるようなモンだから、普通にこれも躱してやる。

近距離のこっちは反撃し放題だ。

ただ、こういう時に手足が短いとどうしても深く踏み込まないと攻撃出来ないのが辛い。

そのせいでカウンターの拳は太腿を掠めるだけで終わっちまう。

足を奪いたかったせいで肩を落とす俺とは違って、相手は回避されるどころか反撃をもらったことに今日1番の動揺を現す。


「嘘…」


騎士の方も同じで虫のようなボソっとした呟きを耳が拾う。

それでも風の刃を飛ばしてきてるトコは抜け目が無い。

続け様に回避行動を取って、魔術師潰しのスタンスを変える気の無い俺は騎士に向かって走り出す。

風の精霊と契約してるのなら空を飛ばれる可能性もあるし、アシュペリアを見つけられたら逃走の選択肢が出ちまう。


「『エア・プレッシャー』」


俺に当てると言うよりは進路を塞ぐように降り注ぐ風の塊。

それを嫌って横から行けば遠距離攻撃の餌食にするつもりなんだろうが…


「しゃらくせぇ!」


構う事なく地面に叩きつけられる風の瀑布突っ込む。

うおぅ!?

肌を引きちぎるような下への圧力が一気に全身へのしかかりやがる。

思ったより重いな?

少しよろけたせいで少し速度が落ちはしても、最短一直線で騎士の元に辿り着く。

この距離なら遠距離攻撃は無い。

さあ、ここからは俺の得意無い間合いだ。

そう意気込もうとした所で体がフワリと浮かび、踏ん張ろうとする努力も虚しくそのまま後方に押し流される。

風の壁か?

これが精霊騎士の長所の一つだ。

自分の身一つだけでなく精霊が援護をしてくれて、さらに得意な魔術を補強、補助までしてくれる。

多彩な技を使えたり、このように魔術が間に合わなくても精霊の方が使ったりもする。

しかも、あの騎士と契約してる精霊は中々賢いな。

俺が流れる先には暗殺者が待ち構えてやがる。

空中で体の向きを変えて周囲の揺らぎに合わせてロングソードを振るえば、闇の中に火花が舞い散った。


「っく…」


体勢を崩しながらも暗殺者は変に張り合うこともなく俺の剣を受け流すと、もう片方に握られたナイフで即座に攻め立てる。

俺もロングソードを使って応戦するが、うーむ。

前世じゃ結構使っていて自信がある武器種なんだが、体格のせいでどうしても扱いずらいな…そうだ。

ナイフと剣がかち合う瞬間、その箇所に纏わせた魔素を引く。

すると耐久性が素材そのままになったロングは中程で切り落とされる。

狙い通りに切られて宙を舞う刃を素手で掴み投げつける。

まさか武器が壊れるとは思っていなかった暗殺者は一手対処に遅れたせいで刃が突き刺さった。

体に刺さると刃も消えるのか。

怪奇現象に感心しながらも、せっかくの追撃の手は緩めない。

そのために負傷で距離を取った暗殺者に詰め寄ろうとしたが、すかさず騎士から風の邪魔が入る。


「良いとこなんだ、邪魔すんじゃねぇ」


遠距離攻撃がそっちだけの専売特許だと思うなよ。

足元にある石ころを拾い上げで、体の捻りを付けてブン投る。

武器に魔素を纏わせるのと同じ要領でそこら辺の物を投げれば、それは立派な遠距離攻撃に早替わりだ。

下手な盾をブチ破る俺の殺人速球は寸分違わずに騎士へ向い…途中で進路を変えて後方の木を穿った。


「やっぱ精霊が厄介だな」


連続で飛んでくる風の大砲を回避しながらしみじみ思う。

暗殺者とも距離が取れたし丁度いい。

2人の視線が切れた瞬間を見計らって再び気配を断つ。


「『エア・サーチ』」


直ぐに見失ったことを自覚した精霊騎士は同じ轍を踏むべくも無く、風の魔術を広く展開して俺の姿を探す。


「っ!?」


ただ、それで俺を見つけるよりも、俺が精霊騎士に近づく方が早い。

さっきと同じくらいにまで距離を詰めると、再び体を押し流そうと風が吹き付ける…が、分かってればどうってことはない。

魔素は身体を覆う以外にも、応用としてその周囲の形を自由に変えることもできる。

俺が普段大型の獲物を狩る時に使ってる、小振りな武器で頭を切り落とすために作る大剣と同じ要領だ。

このように足の裏の魔素をスパイク状に変形すればこのとおり踏ん張ることも可能だ。

まだ体が持っていかれそうになるが、体は浮くことはない。

そのことを精霊騎士も理解したのか咄嗟に切り替えて剣で突きを放ってくる。

咄嗟に出したにしては綺麗で無駄の無い一撃。

コイツ普段は刺突剣でも使ってるのかと思いつつ、俺は中程で折れたロングソードで往なす。

体格差を活かして、と言うかさらに間合いを詰めないと剣が届かねぇから一歩踏み込む。

器用にも腕を畳んで次撃を打ち込んで来るが、こんなにちっこい敵と戦った経験がないせいでどこかぎこちない。

そんな攻撃が俺に当たる訳もなく、また受け流して切りつけようと剣を振りかぶる。

獲った!とは思わない。

予想通り精霊が押し飛ばそうとするのに加えて風で斬りつけてきた。

身体を袈裟斬りにするように血が吹き出し、肩の筋が切れたせいで腕の力が緩まるが、即座に治癒魔術を施して力を入れ直す。

そのわずかな隙に距離を取ろうと精霊騎士は下がろうとするが、戦技の『オーラ・スラッシュ』で斬撃を飛ばすなり魔素で剣身を伸ばせば関係ない。

俺は構う事なく剣を振…こうとして飛んで来た暗器がそれを邪魔する。

剣に弾かれた見えない暗器が地面に転がる。


「咄嗟に風の守りを消したのか。大した連携だ」


今までは精霊騎士の周りを風が吹きつけていたせいで俺の接近を防ぐと同時に、仲間の暗殺者が使う投擲も部分的に阻害もしていた。

それを風の守りが意味が無いと悟ると躊躇いなく守りを解消して仲間の投擲を通させた。

コイツらの間柄なんて知ったこっちゃねぇが、どちらにも相当な技量が求められる駆け引きだ。

それに、2人とも視野が異常に広いからこその連携とも言える。


「ふッ!」


一度体勢を立て直した精霊騎士はそのまま引かずに、寧ろ風を推進力に突貫してきた。

さらに背後には暗殺者が忍び寄ってるおまけ付きだ。

足の削りが足りて無いのは分かってだが、想像以上に大した事は無かったか?

こう言う時に姿が完璧に視認出来ないのは厄介だな。

精霊騎士の突進を正面から迎え打ち、力任せに振り払った後に今度は暗殺者の相手をする。

どうやら遠距離からチクチク削るのはやめらしい。

俺としては願ってもない状況だ。

2人まとめて受けて立つ。

どちらかを相手取れば片方が隙を作るように死角から攻撃を放つ。


「『エンチャント・ウィンド』!」


「付与魔術まで使えるのか。多彩だな?」


メインで剣を交わすのは精霊騎士の方で風魔術を使った攻撃は多彩だ。

突きが風を纏って飛んできたり、剣を振るえば延長線上が切れるのは当たり前。

風を活用した突進や回避は鋭くも速い上にその時の体勢からは読めない。

風の精霊も守りから攻めにリソースを変えたみたいで、頭上からは風の刃が俺をぶった斬るために降り注ぐのだから、まさに器用さと手数が売りの精霊騎士と言った立ち回りだ。


「ほら、そこ見えてンぞ?」


対して暗殺者の方もまさにと言った動きで、隙を見つけては忍び寄って急所を狙い、失敗したら潔く引く。

精霊騎士が反撃されそうになると必ず阻止をしたりと補佐を務めつつも、肝心な時には止め役として前に出ると言った役割を全うしてる。

そんな2人を俺が捌きながら隙を作っては仕留めようとしては失敗するのを繰り返してる訳なんだが、連携のレベルが上がり続けていくせいで、俺も捌くのが忙しくて徐々に反撃の機会が減ってきた。

俺の身体能力ゴリ押しのパワーを相手の技術と連携が上回って来てる感じだな。

このまま続ければその内やられそうな雰囲気も出て来たが、このままなんてことはあり得ない。


俺の身体も少し暖ったまってきたことだしな。


これ以上身体強化を上げるのは体の負荷が治癒魔術を超えるせいで出来ないが、動きの方は調整が終わってようやく上げる事ができる。

元々、強化をした身体能力に物を言わせたパワータイプじゃなくて、小細工で翻弄するテクニカルタイプなんだ。

俺の本領、見せてやるよ。

精霊騎士の薙ぎ払いを回避しながら距離を詰めて自分の間合いに入る。

間隔的には久しぶりになりつつある反撃。

攻撃の瞬間は最も守りが手薄になる瞬間でもある。

だからこそ、暗殺者は毎回嬉々として攻撃を仕掛けて来やがるし、その上で油断を抱かないからその動きが囮だと判断すると寄ってこない用心深さも兼ね備えている厄介な奴だ。

そんな奴を罠にかけるなら今まで以上に引きつけなくちゃならない。

まるで見落としたかのように、俺は反応しない。

近づく暗殺者のナイフが人3人分の距離に近づき、2人、1人と近づいても見過ごす。

そうしてナイフが首に突き立てられる距離になっても無視を決め込み、そのまま刃が振り抜かれ…


「!?」


首を切り裂く事もなく砕け散る。

まるでナイフよりも硬い物にぶつかったかのように。

俺がした事なんて大した事じゃない。

ただ、強化と身体を守るための魔素の密度を首に集めただけだ。

他の箇所の守りが薄くなるデメリットこそあるが、来る場所が分かっていればどうってことはないただのギャンブルだ。

強化された俺の五感は例え対象が霊的な物であっても、360度感知できる物を捉えることができるから、あまり賭けになってないが。

たかが姿と音を消したくらいじゃ逃すなんてことな無い。

首に物が当たった瞬間、条件反射の速度で振り返りつつ裏拳を諜報員に叩き込む。

攻撃の瞬間はもっとも守りが薄い時。

それを忠実に実践していたのはお前だからこそ、この手の効果はわざわざ考えるまでも無いだろ?

咄嗟に腕を滑り込ませて防御の構えを取るが、俺はその上から思いっきり殴りつける。

肉が潰れ、骨が砕かれ、腕がひしゃげる感触が拳を伝い、おまけに魔素を放出して叩き込んでやれば見えない暗殺者が木を薙ぎ倒しながら吹き飛んで行く。


「アサシン!!」


暗殺者の偽名、まさかのまんま『アサシン』だったのか。

そんなことより、精霊騎士は人様の心配してる場合じゃねぇぞ?

2人で保たせていた戦いが1人になったらどうなるかなんて誰にでもわかる。

急いで距離を取ろうとする精霊騎士よりも早く近づき、ずっと邪魔され続けていた剣を存分に振るう。

風の精霊がまた風の刃を飛ばして防ごうとするが、今まで当たっても大したダメージにならなかったそれで防げる訳も無い。

それでも足掻いた甲斐はあったみたいだ。

筋肉が傷ついて少し出来た時間で、精霊騎士は迎撃するだけの余裕を作り出して俺の剣を逸らす。

それなら…


「ぐぅ…!?」


胴体を切ったつもりの攻撃が失敗したのなら、かわりにロングソードを握ってる腕をもらうだけだ。

なに、逸らされる事がわかった瞬間に剣から手を離し、代わりに精霊騎士の腕を握って捩じ切ってやっただけだ。

確実に動けなくするつもりだったのに、戦利品は捥だ腕一本か。

まぁ、殺すのが目的じゃなくて戦闘不能にするのが目的だからこれでも問題無いか。

顔が隠れてるせいで見えはしなくても、分かりやすく呻いている姿を見ればどんな状況かは手に取るように分かる。

潮時だな。


「こんなもんか。お嬢さん、誰の為か知らねーが身体を傷モンにしたくなきゃ、今度からは否定の言葉を勉強しとくんだな」


最後に、服装で隠していても五感から読み取って女なのを確信してる俺はおっさんくさい忠告を残す。

多分だが、師匠が女なのと懐いていた義理の妹や娘が居たせいで、どうにも女と戦うのは躊躇いを入れたくなる。

まぁ、実際は腕捥いじまってるしそれで躊躇なんて入れた事は無いんだが、気分的にはどうしてもな。

アシュペリアのこともあるし、さっさとその場を去る。

アイツの元に向かえば幸いなことにまだ意識を取り戻していなかった。

これならわがわざボロ布を顔に巻き付けて隠す必要は無かったかもしれないけど、まだ送り届けだけじゃ無いしそこは用心ってトコだな。


「ん?」


アシュペリアの入った袋を抱えて城に戻ろうとすると、戦ってた奴らとは違う新しい気配が近づいてくる。

距離はまだまだあってすぐに鉢合わせになることは無さそうだが、その中に皇城の中に潜んでいた奴が居るな。

さて、どうするか。

迎えが来たんならソイツらに引き渡せば終わりなんだが、今脱走中だしこの姿を見られたら普通に俺が誘拐犯に間違われそうだ。

そう考えた結果、アシュペリアを袋から出して少し開けた場所の木の幹に横たわらせる。

それが終わったら大きな拍手を一つして誘き寄せて、新しく森に入って来たのがグラントンの部下だったのを見送ってから俺も城に帰ることにした。

久々の命のやり取りに体の興奮が中々冷めない。

別に俺は元々戦闘狂でもないし、昔は当たり前過ぎて何を感じるなんてことは無かったんだが、やっぱりユリウスの体に精神が引っ張られる。

そう考えるとユリウスが戦い好き疑惑が出てくる訳なんだが、それは皇族以前に人として大丈夫なのかと俺としては割と心配になってくる。

そんな感じでユリウスの気質と家族への言い訳を考えながら家に帰った。


結局パワーやないかい。

ちなみに、ユリウスも戦闘狂ではありません。

ユリウスが興奮していたのは確かですが、戦いと言うよりもお姫様を救い出す王子様のシュチュエーションに対してです。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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