28話 元・魔術師狩りの戦い方
陣形を崩すセオリーは正直に言うと適当だ。
厳密に言うなら手っ取り早く倒せるのを選んではいるがな。
蛮族の長をやってた経験があっても、軍略を学んだことの無い俺は精々が素人よりはマシな程度の作戦立案しかできない。
だから、こんなんでもしょうがない。
ただ、適当な俺でも最低限理論として最初に攻めなくてはならない場所くらいはある。
それが魔術師だ。
近接主体の俺からすれば遠距離攻撃はどんな物でも厄介だ。
それ以外の補助、回復、妨害などなど、数が無数にある魔術を初見で見抜くのは専門家でも難しい。
だから奇襲で真っ先に潰すべきは1番強い奴じゃなくて、1番魔術に長けてる魔術師を狙うのが最低限のセオリーだ。
まぁ、国家所属の職業軍人はエリートになると大抵近接も魔術もどちらもこなせる奴らが多い。
厳しい基準があるだけあって、ウチの騎士も殆どが多少なりとも魔術を戦闘中に使える練度だ。
それ普通の魔術師としてもやっていけるだろ内心ツッコミを入れちまうくらいには大国の騎士なレベルが高い。
そのせいで、軍人特有の画一化されてる装備のせいでパッと見誰が魔術師なのか判断が付かないことがある。
今回も例に漏れず明らかに「隠密行動中です」な装いの奴らが7人。
だが、魔術師狩りを家業にしていた俺の選別眼は見落とさないぜ?
「キャスター!!」
お、バレたか。
速度に全振りしたせいで少し気配遮断が雑にはなったが、しっかり捕捉されたのは今世では初めてだ。
ただ…
「ぐぁ…!?」
「残念、遅過ぎだぜ?」
俺の接近を察知して声を上げた時には、魔術師の腹には拝借したショートソードが生えた後だ。
見た感じ魔術師はコイツだけだな。
まぁ、隠密行動だとどうしても機動力や隠密性に難が出がちな魔術師はそう何人も連れて来れないか。
アシュペリアは…っと。
「敵し…」
あれだな。
アシュペリアを包んでる布がアイツの魔素を遮断したり、ダミーを2つ増やして抱えて小細工してるが、俺の強化された五感からすれば丸わかりだ。
諜報員みたいな格好をしてるが、獲物が明らかに騎士の装いの奴が声を上げようとし、真っ先に俺の存在を察知した奴がナイフを手に持ち襲いくる。
残りの4人は戦闘態勢に移るのが遅いが、最初の2人に比べればの話。
襲撃のせいで多少焦りがあっても、動きに迷いが無いのは良い戦士の証だ。
1人くらいボロを出してくれれば楽だったんだが、魔術師を先に倒せただけでも儲けモンか。
手早くショートソードを腹から引き抜き、地面を強く踏み鳴らす。
ついでに殺気を強化して叩きつけてみるが、あまり動揺の類は引き出せない。
まぁ、このレベルなら効けば良いな程度だ。
飛び出した黒ずくめの野郎の気がより引ければそれでいい。
死体蹴りは趣味じゃないが、死んで無いしセーフと言うことで、魔術師に踏み込みの勢いを乗せて掌底を背中に叩き込む。
背骨を砕きながら黒ずくめ目掛けて打ち出すも、野郎は受け止めることもなくステップ一つでやり過ごした。
冷静。
いや、仲間を顧みないこの場合は冷徹か?
なんにせよ、最も隙の少ない行動は悪く無い判断。
「!?」
「居ない!?袋を守れ!」
けど、俺からすればどっちでも構わない。
黒ずくめ含めて全員が再び気配を絶った俺のことを見失う。
その俺は打ち出した魔術師の背中を後追いする形で走っていた。
正解は魔術師を真っ二つにする、だ。
まだまだ冷徹さが足りないぜ?
ダミー、と言っても匂いからして同じく人が入ってるみたいだが、今回はあくまでアシュペリア最優先。
全員助け出せると思えるほど俺は万能じゃないし、可哀想だからと同情するほど善人でも無い。
目的の袋目掛けて一直線に向かうと、俺の存在にいち早く気が付いた野郎が再び俺を捉える。
「玉を守れ!!」
1番動きの良い黒ずくめの野郎の鋭い一声に指揮を取っていた奴が間に立ち塞がり、ダミーを持っていた奴も袋を投げ捨てて囲い込みに来る。
お前ら、その中身も子供だろうが。
緊急時なのは分かるがもうちっと丁寧に扱ってやれよ。
武器と立ち振る舞いから察するにコイツらは騎士だろうに。
正面から振り下ろされるロングソードをショートソードでいなし、突進の速度と小柄な体躯を活かして通り抜ける。
「なっ!?」
あっさり抜けられたことに方々から驚きの声が漏れた。
唯一、動きの良い奴はナイフをぶん投げて来たが剣で適当に弾く。
同僚達が簡単に敵を漏らすとは思わなかったのは守られてた奴も同じだった。
「しまっ…!」
ダメ押しに引っ込めた気配を再び強めて殺気を飛ばせば、明らかに焦って出た粗雑な一振りが飛び出す。
顔はフードとマスクで隠れていて見えないが、自分でもやってしまった自覚があるのか動揺がありありと伝わった来た。
そんな攻撃が当たるわけもなく屈んで躱しつつ素早く剣を振って両方の二の腕を切り付ける。
あとは拘束の緩んだ袋をひったくれば任務完了。
「逃すなッ!」
動きの良いリーダー格が鋭い声を出すが、もう遅い。
用の無くなったショートソードを牽制代わりに投げ捨てて、開けておいた陣形の穴から抜ける。
これが前職賊の手並みよ。
騎士だろうが魔術師だろうが、果ては貴族でも鴨にして飯の種にしていた男の実力だ。
いやー、当時は生きるためにやってたことだから特に感じる事は無かったが、久々にやるとワクワクするのはなんでだろね。
精神が体に引っ張られて子供化してる自覚はあるが、やっぱりユリウスに影響されて思考がそっちに引っ張られてれのか?
ま、今はそんなことより全力でズラからないとな。
取り敢えず、来た道を全力で逆走する。
魔素を遮断して音も出来るだけ立たないように逃げてはいても、子供の小さな体と荷物を抱えてるせいで痕跡を消し切れない。
魔素を外に漏れないようにする袋があっても、自分と同じサイズの荷物があると森の中のせいで後ろからの追っ手が中々撒けない。
今時の誘拐犯は練度も根気も段違いだ。
特に指示を出していたリーダー格の黒ずくめの暗殺者っぽいのと騎士ぽい2人。
奇襲かつまともに戦ってないからどうにかなっただけで、普通に戦うってなるとそう簡単には行かないのが分かる腕前だ。
現に先行してるあの2人はこのままであれば、その内俺に追い付く速度で迫ってる。
一度捕まったらなし崩しで他の奴らにも囲まれるだろうし、そうなれば良くて俺も捕まって、悪ければその場で死亡。
ジリ貧ってやつだな。
なら、やることなんて決まってる。
まず、アシュペリアは邪魔だからその場の茂みに放り込む。
気絶していて魔素も感知出来ねぇから、これだけで良い感じの隠密行動になる。
後は木の上に登ってアイツらのトコに向かってやり、先行してる2人と入れ違って…
「ごばっ!?」
少し遅れて来た格落ちのヤツを襲う。
こっちは10人団子になって走ってるが、狙い目はショートソードを持ってる諜報員ぽいの。
騎士ぽい黒ずくめの持つロングソードは扱えなくはないが、今の俺の身体だとどうしても扱い辛いからな。
勢いを付けて上から背中目掛けて着地してやればそれだけで1人倒れる。
後ろを走っていた奴らが目を剥いて臨戦態勢に移るが、再び奪ったショートソードを手に飛び掛かる。
やっぱり反応が良い。
追ってるはずの奴が目の前に現れたって言うのに、誰1人大した隙を晒さない。
一番手近に居た騎士風の奴は俺の速度をちゃんと捉えてロングソードで迎撃しようとし、他は退路を断つために包囲に移ってやがる。
分かり切ってたコトだがタダモンじゃねぇなぁ、コイツら。
だが…
「俺の剣を受けるにゃ、それじゃ柔いぞ」
宙を舞う刃。
俺が強化したショートソードはロングソードを切り飛ばし、返す剣で肩口からバッサリと切り捨てる。
一応、不殺のつもりだから傷は浅めにしておいた。
無理に動かなきゃすぐに死なないだろうが、そうじゃ無い時は自己責任と言うことで諦めてくれ。
力負けして吹き飛ばされた所を狙っていたらしい連中は、こんな事態を想定して無かったと言わんばかりに狼狽える。
餓鬼がパワー勝ちするなんて予想外か?
「ギフトなんて理不尽があるんだからそれくらいで狼狽えるんじゃねぇよ」
唯一の穴である切り倒した奴の裏を抜け、木の影で一度視線を切る。
また気配を消して木を蹴って移動。
「また見失った!?」
「クソ、何なんだあのガキは!」
「言ってる場合か。背中を合わせろ!」
冷静な奴の一声で全員が背中合わせに構えて死角を消した。
反省を生かして1人円の中心に配置して頭上を警戒させる徹底ぶりだ。
ただ、それで完璧に防げるなんて考えは甘いぞ。
貰ったショートソードを強化、投擲。
対応するのは正面にいる奴だけでも変化があればどうしても意識が少なからず向くのは人間の性だ。
俺なら意識の隙間が少しでも出来れば、そこに入り込むなんて朝飯前。
1番意識を割いた奴に襲いかかる。
今度は気配を気取らせることもしないで腕を折ってロングソードを奪う。
気絶させられなくても戦闘に支障が出るダメージを最低でも与え、またすぐに離脱する。
武器と四肢を奪い力を削いで、石や木を投げたり盾にして翻弄し、浮いた駒があれば必ず取る。
ガキの体の上にブランクのせいで腕が鈍っていても、物心付いた時には身に付けていた技能は最低以上の働きを勝手に繰り出す。
1人、2人、3人…
恐慌しかけている6人目を取ろうと木上から飛び出そうとした所で、何かが飛んでくるのを感じて身を捻る。
すると、後ろにある木にドスッと物が刺さる音と小さな穴が現れた。
武器は刺し傷からしてナイフで、魔素は感じ無いってことはあの黒ずくめの暗殺者のギフトだな。
おおかた物を隠す能力ってトコか。
おっと、分析してる場合じゃねぇ。
宙を蹴って軌道をかえると、次は空気の塊が木々をへし折りながら通り過ぎる。
発射元にはこれまた量産品のロングソードを突きつけてる指示役の騎士っぽいの。
まだコイツらを襲い初めて10秒ちょいだって言うのに、もうこっちに来ちまったのか。
全員とは言わずとも2人残しが理想的だったんだが、後は治癒魔術を使える奴が居ないことを祈るしかねぇな。
で、要警戒の諜報員の姿が見えねぇな。
ギフトで隠せるのは物だけじゃなくて自分もか。
なんか来るな。
「イテ」
攻撃を見越して大きめに後ろに飛んだのに掠った。
動くのが少し遅かったか。
「被害は!?」
「死者は無し。ただ、意識不明の者が追加で5名、残りは私含め全員が負傷を負っております」
「そんなに…貴方達がたったこれだけ短い時間で…」
「如何いたしますか?」
「貴方に臨時の指揮権を渡すわ。負傷者を連れて目標地点まで撤退を。任務は私とアサシンで遂行する」
「はっ!検討を祈ります」
俺と暗殺者がやり合っている傍ら、指示役は手早く情報交換を済ませ、他の奴らが撤退の準備を始める。
他に意識を割かなきゃならねぇのは面倒だったが、その選択はありがたい限りだ。
なんせ…
「ん?また当たった」
肩に浅い切れ込みが走る。
強化を施した俺の目すら欺くギフト持ちの手練れが相手だ。
コイツに加えてあの指示役も同時に相手にするってなると、集中が少し削がれるだけでも大打撃だからな。
それに、そろそろ燃費を気にしてる場合じゃなくなって来た。
強化の段階を一つ引き上げるか。
「消えてる間は速さも上がんのか?至れり尽くせりなギフトじゃねーの」
このレベルになると、口の揺さぶり程度で目に見えたボロなんて出さねぇが、なるほど。
大気に漂う魔素の動きすら見える目と、人の心音すら拾う耳が告げる。
大当たりだと。
強化の度合いを上げても殆ど見えねぇし、心音もギフトの影響で聞こえ無いが、それでも暗殺者の周りを漂う魔素の揺らぎと、警戒のために重心を変えた時の僅かな音で判別出来た。
なら、コイツの速度は今の俺と同等かそれ以上の速さってことか。
隠密性能はまずまずで身体能力に補正がかかるってなるとギフトのランクはスペリオルくらいだな。
で、もう1人の方は。
「お前も速ぇな!」
周辺状況を完璧に把握している俺は、横這いから伸びるロングソードを視線をよこさずに避けた。
ハズだった。
余裕を持っての回避は失敗して脇腹の肉が斬り裂かれる。
魔術の前兆は無かったんだけどな。
「こっちは風の精霊使いか」
さっき放たれた風の魔術に含まれていた独特な魔素が精霊由来なのを見落としてた。
俺が見落とすレベルってなると相当練度で、剣筋も悪く無かった。
両方が高水準な精霊騎士は格にもよるが、知恵のある精霊だとその場の判断で魔術を放ってくる。
実質魔術師と騎士の2人が居るようなモンで、こりゃ最初の奇襲で先に落とす方を完全にミスったな。
それで言えば治癒魔術を使えば治るくらいの傷で良かった。
産まれた時から自分の魔素で壊れ続けるユリウスの体を治し続けてるのは俺で、この程度ならノーモーションで治すとが可能だ。
そもそも俺が使う魔術は殆どノーモーションで発動可能なんだが。
一瞬で傷を塞いだことに相手から動揺の気配が漏れる。
自分で言うのも何だが、この速度で治すのは下手な専門ギフトより速いからな。
なんならユリウスになって得た、魔素量以外の成果なんだからもっと驚いてほしいくらいだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




