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23話 元蛮族と気難しい少女

そんな感じでぽつりぽつりな調子で来る奴らの相手をしてのらりくらりとしていると、本日3組目の知り合いが来る。


「ユリウス殿下、ランデウス・フォン・ラヴァ・グラントンが新年のご挨拶を申し上げに参りました。殿下がご健勝であることを微力ながらお祈りさせていただきます」


「ご丁寧にどうも。俺もグラントン公が健やかにすごせるよう祈らせてもらう」


「光栄の至りにございます」


薄紫の頭髪が目を引くこの男こそ、この国に4つしかない公爵家、その当主様だ。

見た目はジルヴァより少し老けてくらいだが、コイツもジルヴァと同い年くらいだから大概若作りが凄い。

それを言ったらカンナもミカエラも20代前半くらいに見えるだろうって?

しょうもない事を考えると命が危ないぜ?


「そちらのご令嬢が例の?」


「ええ。アシュペリア、ご挨拶を」


「お初にお目にかかりますわ。アシュペリア・フォン・グラントンと申します。以後お見知り置きを」


父譲りの薄紫の髪がカテーシーと同時にフワリと揺れる。

これが噂の…と言うかランデウスが自慢して触れ回っている天才令嬢ねぇ…

歳は俺と同い年だから今年で5歳のはず。

しかし、子供らしく無い流暢な挨拶と立ち振る舞いのせいでそうは思えないな。

俺より礼儀作法うまいぞ?

女と男で違うから一概には言えないが、多分男の方をやらせても勝ち目はなさそうだ。

ランデウスが自慢したくなるのも分かるなーと眺めていると、アシュペリアからも視線が注がれる。

ん?子供だから気の強そうで生意気そうな感じだと思ってたけど、単にこれ値踏みされてるのか。


「ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディアだ。グラントン卿から噂は聞いている。非才な身故、教えられることの方が多いだろがお手柔らかに頼む」


「恐れ多くも、わたくし程度で殿下に教えられることなどありませんわ」


おっと、これは俺にも分かるぞ。

要するに「お前なんかに教える事はねぇよ」ってとこか?

気持ち悪い笑顔貼っつけてる爵位持ち貴族に比べれば、目に感情が出てる分やっぱ未熟なんだろうが、それでもこの歳で腹芸ができるとか本当に頭が下がる。

英才教育の賜だな。


「そんな事はない。貴女の立ち振る舞いは男の私から見ても実に見事なものだ。参考にさせてもらう」


「でしたら、後ほどある幼年達の集いで娘のパートナーを務めていただけないでしょうか?アシュペリアは少しばかり大人びております故に、同年代との歓談は少し苦手としているきらいがあります。殿下とご一緒であれば私も安心して送り出せると言うもの」


本当にコイツ、隙あれば娘のヨイショすんな。

まぁ、少し話しただけでランデウスが褒め殺す理由が分かるくらいにはアシュペリアが優秀なのは分かる。

普通の子供なんて貴族の子息令嬢でも言葉遣いもままならないなんて割とあるのに、アシュペリアは礼儀作法のどれを取っても飛び抜けており、神童とまで持て囃されてるクロードも上かもしれない。

それにこの感じ、多分『ギフト』の方も並外れてるな。

殆ど勘だから確証は全然無いが、恐らく『ワールド』は硬いか?

気難しそうでこの歳でこれだけ突出し過ぎてれば、そりゃ同世代のガキじゃ話は合わないだろうなぁ。

そう言う意味じゃ、誰とでも仲良くなれるクロードの方が上だな。

まぁ、それは置いとくとして、コイツまたパートナーなんて面倒な事を言い出したな。


「よいのか?未だ自分の事もおぼつかない身ではご息女に恥を欠かせかねない」


色んな意味でな。

見てみろ、この針の筵な状況を。

こんな奴に大切な娘を任せるなんて親バカのお前が本当に出来んのか?

社交辞令ならとっとと引っ込めな。


「とんでも無い。殿下程落ち着きを払っている子はそうそう居るものではありませんよ。貴方様でしたら娘とも話ができることでしょう」


おっまえマジか、周りを見ろよ、周りを!?

娘だって「え?マジ?」て目でお前のこと見上げてるぞ?

黙って将来成功が確定してるクロードの方にでも行っとけよ。


「アシュペリア嬢はどうだ?」


面倒だし引き受けたく無いんだが、下手な嘘をついて断る事もできない。

なら、ここは嫌そうな娘にぶん投げる。

断れ、な?な?


「…わたくしでよければ是非に」


是非に(引き攣り気味な微笑)じゃねーよ?

真顔で取り繕ってるつもりかもしんねぇけど、もう態度から嫌々感が滲み出てるからな?

嫌なら断れよ。

貴族だから難しいのかもしれないけども。

面倒過ぎる約束を成行で取り付けたランデウスは他にも顔を出す所があると、アシュペリアと2人で別の所へ行く。

少数の媚を売って来る貴族も初っ端に全員来たお陰もあってか、ようやく一足が途切れて僅かな休息の時間になった。

隣でひっきりなしに話しかけられるクロードが必死に頑張っているのに、兄が怠けて良いのかと言う問題はあるかもしれない。

しかし、そこはノブなんちゃら・オブなんちゃらの精神で頑張ってくれ。

力を持つ者は頑張る必要がある、だったか?

モルゲンから習ったうろ覚えの諺を弟に送り、俺は表面的にはしっかりして見える顔と体勢をたもちつつも、再びウトウトと半ば夢の世界への出航準備に取り掛かり始めた。


「ユリウス殿」


そんな風にクソつまらんパーティーを多少はマシに過ごしていると、わざわざ妨害しに来た酔狂者が現れた。

誰だと思い意識的に顔を見てみるが、10代後半くらいの整った顔立ちをしている黒髪の野郎は、媚び売りをしてきた貴族同様に見覚えは無い。

とは言え、俺の事を「殿」と呼ぶ事や明らかに質の良い被服や佇まいはから察するに、それなりに高い身分の奴なんだろうということは分かる。

てか、根本的なデザインがうちとはズレてるから他国から来たのか。


「この度は『ギフト』を無事に授かれたこと、誠にお祝い申し上げる。私は隣国、アルトニアで国王陛下より王太子の座を拝命している、ヴァルドニス・ラズ・アルトニアだ」


「竜王国の王太子殿下のご噂はかねがね。ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディアだ。何かと多忙な身での参列、感謝する」


コイツが何かと有名なアルトニア竜王国の王太子様か。

若くして戦に出れば常勝無敗の歴戦の猛者とは持ち上げられたモンだと思っていたが、握手を交わして実物を見てみれば確かに言われるだけはあると俺も思う。

当たり前のように馬鹿みたいな魔素に、隙のない佇まい。

服のせいで分かりにくいが身体の方も鍛え抜かれているのが立ち姿で想像できる。

間違いなく強い。

はたして王族にその必要があるのかはウチの家と同じく疑問が残るが、とにかく強い。

ヴィンセントは将来的にこれと凌ぎを削っていくのは中々苦労すると思ったが、アイツはアイツで大概優良血統だから問題なさそうな。

ギフトが『頑強』でも補ってあまりある馬鹿魔素持ちのユリウスと言い、つくづく血統ってヤツは不公平だなとしみじみ思うぞ。



大人の相手もそこそこに(とは言え2時間くらいは相手させられていたんだが)、子供だけでの歓談の時間になる。

まぁ、動きた盛りの子供だけの場だから歓談って言うよりは交流会の方が近いな。

大人に囲まれて窮屈な思いをしているだろう子供の息抜きをするための時間だなんて銘打ってるが、その実大人の混じるパーティーと何ら変わらない権力闘争の場だ。

あくまで本質がそうなだけで、所詮未熟な子供限定の場だから陰湿さは大分マイルドなことに変わりはない。

気を抜けるかは諸説あるが。

そんで俺の場合だが、気を張る必要こそなくなったが面倒さはそんなに変わらない。

ランデウスが約束通りにアシュペリアを預けてきて、そのまま2人でガキが集まるスペースへ移動することになった。

移動って言っても、子供用スペースは同じホール内の区切られた場所にある。

だから、別室に移るとかにはならないが、数百人が余裕を持って動ける部屋なだけあってありえないくらい広い。

子供の足だとそれなりの距離だ。


「「…」」


その間、無言。

それはもう歓談の場とは思えないくらいに。

葬式か?

お前、そこは緊張してる女性に男が率先して話題を振れよ〜、なんて昔の友人に茶化されそうなくらいに気まずい雰囲気。

だが、俺は特に困らないし気にしないのでわざわざそんな事はしない。

やがて大人が給仕の者だけで子供ばかりの空間になった。

空いてる適当な席にさっさと座りたい所だが、面倒なことに身分制度のせいで大まかに席は決められている。

皇族の俺の席は何の嫌がらせか子供スペースのど真ん中だ。

貴族の中だと一番身分が上の公爵令嬢のアシュペリアも同じ席になる。

椅子の数は8つ。

誰も居ないガラガラの席でも俺は上座に、アシュペリアはその隣へ案内される。


「殿下はレディのエスコートも学んでいないのですか?」


席に座って飲み物が渡され喉を潤していると、アシュペリアが耐えられなくなったみたいで静寂をおもむろに破る。

レディねぇ…

話しかけられたから改めてアシュペリアに向き直るが、作りは良いがどこまで行っても子供のそれ。


「あいにくと話術のセンスが皆無なんでな。不快な思いをさせるくらいなら口を閉ざしておくべきかと思ったけど、むしろ悪手だったか。すまんな」


「話術はセンスではございません。知識と経験です。センスが無いなど努力を怠った者達が使う言い訳かと」


キッと目端を釣り上げて俺の適当な言い訳に反論してきた。

子供なのに核心的なことを言うな。

全くその通り過ぎて言い返す言葉がねぇよ。

てか、本性が出てきたな?

なら、俺も使う必要も無いな。


「良いこと言うじゃんか」


「貴方様に仰ってるのですわよ?」


「礼儀作法の勉強が嫌いで怠け気味なのは事実だからな」


「それを自覚していながら何故改めないので?危機感を持たなければ皇族でも身が危うくなりますわよ」


「別に改めるほどじゃないだろ。この調子で続けても人並み以上には確実にできる様になるしな」


「貴方様にそれが許される訳ないでしょう。なにせ…」


「俺が劣ってるからか?」


「…皇族だからです」


先読みして口にしてみれば、表情的に図星か?

いくら気が強くても流石に皇族を貶すことが許されないことが分かるくらいには、自制心があるらしい。

因みに、俺に面と向かって怠けてるって言ってきたのはミカエラに次いで2人目だ。

ミカエラ曰く「努力は認めるわ。でも、嫌いな分野のやる気が露骨に低いのをどうにかしなさい」とのことだった。

とは言われても、モチベーションが自由にコントロール出来たら誰も苦労はしない。


「そうだな、責務は大切だよな。税で良い暮らしをさせて貰ってる訳だし。けど、凡人には凡人の身の丈って言うのがあるんだよ。ありがたい忠言をしてくれたことだし、ここは俺からも一ついいか?」


「何でしょうか?貴方様からタメになることが聞けるとは思いませんが、一応聞いてみましょう…」


言いたい事が出来たらどうしても言いたいトコとか、言い返されてムキになるトコはまだまだ子供だな。

それは俺もか。

どうも、身体がガキだと心がそっちに引っ張られる。

まだまだ揶揄いたいトコだが、ここは貴族らしく文学的に言い返してみようか。


「自分の物差しを持つ事は立派だが、物差しは用途に合うものを使わないと、取り返しのつかない図り間違えが起きるぞ」


「何を言ってるのか分かりかねます。例え話をするなら分かりやすくするべきですわよ」


「少し王侯貴族的な言い回しをしてみたくなっただけだ」


揶揄い半分、おっさんの忠言半分の言葉はピンとこないらしい。

そこまで悟ってたらお前の中身俺と同じ中年以上ってことになるから、その反応は自然ではあるな。


「それと慣れぬ対応と大勢の人に囲まれて気疲れしてしまった。申し訳ないがしばらく夜風に当たってくる故に、席を外させてもらう」


さて、俺のことが気に食わないみたいだし、邪魔者はさっさと退散するとしますか。

淑女に恥をかかせるのは紳士としてあってはならないからね。

煽るのは良いのかだって?

反応が面白いんだから仕方が無いだろ?

俺も子供なんだから、それくらいのことは流せ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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