22話 新年を迎えて
はっぴぃーにゅーいやー!
かつて俺の仲間に年が明けるとこんな言葉を大声で叫ぶ奴が居たので、厄除けのために俺も心の中で叫んでおく。
なんでも新年を祝う言葉らしいんだが、少なくとも俺はソイツ以外が口にしているところを聞いた事がない。
それでもこんなことを言ったのは、去年のギフトの件から続いている何とも言えない空気を払拭するためだ。
これもコイツの受け売りになるのだが、祝いを盛大にやると「じゃき」と言うヤツが逃げて行くのだとか。
やらないよりはマシだろうの精神だ。
前世じゃ新年は仲間内でどんちゃん騒ぎをした翌日だから、基本的にはダラダラして過ごしていた。
打って変わって皇子になった今じゃ、そんなことも出来ずに朝から従者にこねくり回されていた。
この日ばっかりはシルヴァの決めた家族で朝食も休みで、起きて早々風呂に入って髪を手入れされて化粧をされてと大忙しだ。
気分はまさに人形。
クロードとは違って髪を長くしてるのをこの時ばっかりは後悔した。
何せ編み物を洗濯でもしてんのかと言いたくなるくらい俺の髪は弄られてる。
綺麗な髪が個人的にかなり気に入っているんだが、こんなんなら切っちまおうかな…
そんな長い苦行をやること昼過ぎ。
「うわー、ユリユリの髪綺麗だね」
「お前もな。髪テッカテカ過ぎて光が反射してるぞ」
「皆んなが頑張ってくれたんだ。だけど、ちょっと疲れちゃったよ」
「奇遇だな。俺はものすごく疲れた」
毎日朝顔を合わせてるクロードとようやく顔を合わせる。
身なりは毎日整えられている俺達だが、主役の行事なだけあって気合いの入り用が違う。
いつものあの格好も充分手間が掛かってると思うが、式典や祝賀会は段違いだ。
「あら、ユリウスはいつも通りにしても、クロードまで疲れているのは珍しいわね」
休憩中に駄弁っていると同じく準備にひと段落ついたルミナリアが口を挟んでくる。
いきなり肩に手を置かれたクロードは「わっ!」と驚いて振り返った。
因みに俺の方は気がついてたので肩に手を置かれても驚く事はない。
「お姉様、今日はすっごく綺麗ですね!」
「ありがとう、クロード。貴方も非常に魅力的よ。見違えたわ。それにユリウスも」
「ミルヴァお姉様こそ、馬子にも衣装ですね」
「それは私のセリフよ。随分可愛らしい格好をしてるわねぇ」
「なへ、ひっはるんれすか?」
「何ででしょうね?」
急に頬を引っ張り始めたので抗議してみるが、
離してくれる素振りは無い。
なんか気に触ったのか、心なしか笑顔が引き攣ってる気がする。
クロードみたいに褒めただけなのにこの扱いの差は何なんだろうか。
解せぬ。
ひとしきり俺の頬を引っ張るのに満足したルミナリアは俺達の間に座る。
「お姉様も休憩ですか?」
「ええ。でも少しだけね。疲れちゃったから少し休憩にしてもらったの」
少しだけ?
おいおい、俺達ももう何時間も弄られてるのに、ルミナリアはこれで途中?
だが、言われてみれば髪は軽く結ってあるだけで飾り気が無い。
これからゴテゴテしてくんだな。
昔から女には準備することが多くて大変だなとは思ってたが、それでも一番長くても今日の半分以下の時間で終わるぞ。
「クロード達はもう終わったの?」
「いえ、まだ服を着てお化粧が残ってるって言ってました」
え?
「え?」
「ん?ユリユリどうしたの?変な顔して」
「ユリウスもそんな顔できたのね。その顔、是非絵に残しておきたいわ」
不思議そうに人の顔をバカに知るクロードも、興味津々に珍物を見るような顔をするルミナリアもこの際置いておく。
それよりも重大なことは…
「そんなこと聞いていないんだが?」
化粧をするだと?俺が?
驚愕する俺にルミナリアが呆れて小馬鹿にするように諭す。
「貴方、そんなラフな格好でパーティーに出られる訳無いじゃない。それに、衣装も簡易的な礼装じゃなくて正規の物になるんだから、去年とは違うわよ?」
マジか。
マジかぁぁぁ…
この休憩が終わってからの記憶は無い。
いや、厳密に言えばあるんだが、あまりの虚無さ加減に呆け過ぎていて頭が記憶してなかったと言うか。
とにかく、前世含めて一番虚無な時間を過ごしてたってことだけは断言できる。
「はっ…!」
「あ、ユリユリ起きた」
肩を強めに叩かれて目が冴える。
ここはホールに入場する直前の廊下か。
叩いた、と言うか強く肩に手を置いた人物を見るために上を向けば、いつもの鉄仮面を貼り付けたミカエラが俺のことを見下ろしていた。
「ユリウス、本当に具合は大丈夫なのかしら?」
相変わらず声音と凛とした表情が固定されてて心配してる風には見えないが、内容がキツく無いからこれはちゃんと心配してるヤツだ。
何故確認なのかと言えば、呆けている最中に同じ質問をされて、条件反射で「大丈夫です」と答えたからだ。
「今起きました」
「起きた?」
俺の返答にミカエラの眉がごく僅かに下がる。
やべ、言い間違えた。
側から見れば不快に思ってるように見える顔だが、流石に産まれて一年くらいで表情の判別はつく様になってる。
これは困惑してる顔だ。
「いえ、大丈夫なのでお気になさらず。迷惑はかけません」
「そこまで気負わなくてもいいわ。緊張しているのかしら?珍しいわね」
「まぁ、そんなトコです」
誤魔化すのに少し食い気味になってしまっただけなんだが、隠し通せるならそれでいいか。
「クロードもよ。初めてで難しいのは承知の上ですが、せめて肩の力は抜きなさい」
「はい!」
挙動のおかしな俺に次いで気にかけられたクロードはいつもの様に元気…に見せかけて立ち姿が硬い。
顔を出すだけなら毎年やっているだろうに、やっぱり主役になるのは違うらしいな。
同じ主役の俺が言うのもなんおかしな話だが、そこは責任感とかやる気とかの問題か。
偉いねぇ…
元貧民のおっさんには理解でねぇな。
「こちょこちょ」
「うひぃ!?」
責任感が無いから考え込んでいる奴を見ると悪戯したくなる。
普段揶揄い甲斐が無いだけに、今脇腹をくすぐってやればやっぱ面白い反応をしてくれるな。
「なにするの!?今日おふざけはダメなんだよ」
クロードは頬を膨らませて怒るが、口調も合わさって全く迫力が無い。
「お前も寝てるのかと思って」
「ユリユリじゃないんだから、ぼくに目を開けたまま寝る事なんてできる訳無いでしょ」
「練習すれば誰でもできると思うぞ?」
「え、ほんと?」
「今度教えてやるよ」
「わー、ありがとう!」
場をわきまえて小さな声だけだが、頬を膨らませてたのが嘘のみたいに悪戯されたことなんて忘れて機嫌を直す。
ちょろい。
頭が良くてもまだ餓鬼だな。
そんな風に遊んでいたら入場の時間になる。
あー、はやく終わんねぇかなぁ。
そう思いながら足を動かすと、また肩に手を置かれて足を止められる。
「式の最中は寝てはなりませんよ?」
ミカエラはずっと顔を近づけて呟く。
小声なのにやけに聞きやすい囁きなのは、ちょっとした特殊技巧なのか単に「それ本番でやったら許さねぇからな?」と言外に言ってるせいか。
注意をすませるとミカエラはサッと再び元の姿勢に戻して先を歩く。
え、マジ?聞こえてた?
いやいや、俺達から離れて段取りの最終確認とか従者と色々してたろ。
となると、誤魔化せたかと思ったらバレたのか。
ホールの扉を潜るとやかまし過ぎる光と音が俺達を出迎える。
皇帝のジルヴァを筆頭にミカエラが少し後ろに続き、さらにヴィンセント、ミルヴァ、俺、クロードの順番で各々が胸を張って後に続く。
そこから指定された位置へ辿り着くと、ジルヴァの長い挨拶が始まる。
「冬季の厳しさの中、多忙を押して今年も早々に我が呼びかけに応じてくれたこと感謝する。周辺諸国との関係は喜ばしいとは言い難いが、それでも大きな動乱も無く新年を迎えられたことを喜ばしく思う。これも優秀な臣下達の尽力による賜物と言えるだろう。今年も引き続き貴殿らが力を借りたい。それを持ってすればヴァレス帝国は更なる繁栄するとこをこのシルヴァ・フォン・ラング・クラン・ヴァレスディアが保証する」
「ヴァレス帝国に繁栄を。皇帝陛下に忠義を」
「「「「「ヴァレス帝国に繁栄を。皇帝陛下に忠義を」」」」」
宰相のローレンツの敬礼に復唱しながら全員もそれに続く。
大声を出しているわけでもないのに宰相の声はよく響くし、その後に続く貴族達の声も数百を超える人数ともなれば壮観だ。
去年までは途中顔見せに出るだけで開会の場には居なかったから新鮮に思えるが、多分来年あたりからは長ったらしいだけになって面倒なんだろうな。
所詮は腹黒狸達の腹を探り合う場だし、すぐに憂鬱が勝つのが目に見える。
「ありがとう。貴殿らの期待に応えられるよう、我も誠心誠意励むとしよう。さて、堅苦しい話は終いにして、新たな蕾達の芽吹きを共に祝おうじゃないか」
蕾達の芽吹き?まだ花が咲くのには早すぎる時期だろって思っていると、ジルヴァに名前を呼ばれてこれが俺達の挨拶をするための比喩を交えた導入だと気がつく。
随分歯が浮く様な言い回しをするもんだ。
「喜ばしい事にユリウスは『頑強』、クロードは『獅子王の心臓』含め3つと両名共に無事ギフトを授かることができた。女神フィリステラに感謝を。まずはユリウス、挨拶を」
僅かなどよめきが伝播する中で、構わずに指名されたので大人しくジルヴァの横に並び立つ。
おぉ、すげぇ視線。
鈍感な俺でも分かるくらいに全員が困惑とか驚き、続いて侮蔑や嘲り、不安が顔に滲み出ている。
一部例外は居るが、普段何重にも仮面を被り重ねてる貴族が感情を出すのは少し面白い。
もう少し眺めてたいところだが、もたついているとミカエラに文句を言われそうだ。
えー、確か俺が言う事は…
「ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディアだ。まずはギフトを授けてくれた神に感謝を。そして、弟に比べ物足りぬ才を埋められるよう、誠心誠意努力を尽くそうと思う。至らぬ点も多々あるだろうが、多めに見てくれると有難い。以上だ」
シン…と静まり返る会場。
やがてローレンツの拍手で時を取り戻したように弱々しい拍手が後を続く。
そのあとはクロードの挨拶となる訳だが、もう最初から会場の雰囲気が違いすぎる。
本当に最低限のことしか喋ってない俺とは違って随分と長い挨拶をしてるもんだ。
そうして話を締めくくると食い気味に拍手喝采が浴びせられる。
俺の時との対応の落差があり過ぎて面白いレベルだな。
それからは出席してる他の皇族の挨拶が始まって暇になったので再び呆けていると、いつの間にかパーティーが始まっていた。
「改めましてご挨拶を、ユリウス殿下。陛下より伯爵の地位を拝爵させていただいております、フレータス・フォン・ロンプスと申します。この度はギフトを授かられましたこと、お祝い申し上げます。この私、フレータスは〜…」
誰だ、このオッサン。
人が目の前に来たから意識を向けてみれば、知らんオッサンが長々と話し始めた。
ジルヴァの開幕の演説が終わり、俺とクロードのギフトを取得したことの報告、あとは意気込みの挨拶も終わったから今は歓談の時間だ。
話しかけて来るのは良いんだが、なんか会ったことがある口ぶりをされても本当に思い浮かばないせいで困る。
俺達の挨拶が終わった後に人が殺到してるクロードとは違って、遠目に伺うばっかで人が来なかったから気を抜き過ぎていた。
聞いても無い自己アピールを一通り済ませて話は終わりかと思うと、次は一緒にくっついていた娘の挨拶とアピールが始まった。
ミカエラとモルゲンから最低限の作法と定型分を叩き込まれてるから今の所大丈夫だが、そう遠く無い内にボロが出そうと言うかもう出た後と言うか…
ロンなんとか親子の会話に適当な相槌を打ちつつ、俺よりもそうが無くこなしてそうな弟をコッソリ盗み見る。
うん、俺の十倍どころの話じゃないな。
列が出来てんぞ、列が。
お勤めご苦労様って言いたいトコだが、それよりもあの人数を問題なく捌けていることに驚愕よ。
そんなことを考えているとロンなんとかの話が終わって次の人が来た。
「お、マルクス」
1人目で既に嫌気がさしてると、そこに丁度知人が来た。
「ハハハハ、殿下は相変わらずですね」
「ユリウス、すごいカッコしてんな」
「アレク」
「イデっ!?」
柔和な表情をした優男、それに付き添う様にやって来たのは乳兄弟のアレクだ。
アレクはおかしな物を見る様な目で、いつもと変わらない調子で俺の格好を指摘する。
そこにマルクスから高速の拳骨が飛んで来た。
顔はアレクを大人にしたような感じなんだが、柔らかい笑顔と物腰のせいでヤンチャな息子とは正反対の印象を受ける。
まぁ、このように見た目に似合わずスパルタ気質があるから、中身はあんま変わらないのかもしれない。
それから2人はそこそこ適当な話をすると今度はクロードの方へ挨拶に行き、変わる様にシューベルトとその父親、ベルナルドの二人が挨拶に来た。
こっちは気安かった前の2人とは違って少し堅苦しかったが、知らん奴らと話すよりは遥かに話しやすかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




