21話 大英雄のギフト
啓示を受けるもとい、鑑定ができる神官はクロードに一言断ってから儀式を始める。
「それでは、始めさせていただきます」
途端、クロードの足元を基準に床が幾何学模様に薄く光り出す。
いや、床以外にも壁から天井にステンドグラスまで、あらゆる物が魔素特有の光を出してる。
「おぉ、派手だな」
神殿もだが辺りから感じ取れる魔術も圧巻だ。
発動してる魔術は神官への魔素の補給と増強に、クロードへの抵抗力低下だな。
ギフトに直接影響を及ぼす能力は制約があったり、能力の代価に代償が不釣り合いなものが多い。
大体がコストが重かったり、そもそも大した影響を与えられなかったりだな。
鑑定系はその筆頭だ。
その鑑定系のギフトですらかなり希少なのだが、本物の啓示系のギフトがアホほど希少だったりする。
理由は直接じゃなくて間接的なものだからか、はたまた神から直接情報を貰えているからか。
真相は知らないが兎に角精度と安定性がかなり高い。
まぁ、そんなギフトは数十年に1人産まれれば御の字で、この神官みたいに鑑定でどうにかするのがメジャーだな。
それだけギフトに干渉するのは難しいものなんだが、この教会は出来る限りギフトの鑑定をしやすいようにされてるみたいだ。
ギフトの鑑定で障害になってくるのが、魔素とギフト本来の力だ。
魔素は単純に鑑定する側よりもされる側の方が多いとやり難いという話だ。
皇族故の魔素量は子供のクロードであっても、そこらへんの魔術士を凌駕する。
あの神官もその例に漏れないんだろう。
だから魔素の増幅器を持って魔素供給を受けてる。
で、もう1つのギフト本来の力。
って言っても少し難しいんだが、ギフトには性質的に外部の力に抵抗する能力が備わっている事が多い。
これは希少であればあるほど顕著で、ギフトに当たり外れがあると言われる所以でもある。
だから、クロードの抵抗力を少しでも下げて神官の力を底上げしてるんだろうが、これには諸説あるから実際に意味があるのかは知らん。
まぁ、多少なりとも効果が見込めているからこんな施設が城の中にあるんだろ。
建設費も維持費も馬鹿にならなそうだし、もし意味が無いのならお笑い種だ。
技術の進歩に感心していると次第に神殿の光が収まっていった。
「啓示を述べさて頂きます。クロード・フォン・ラング・ヴァレスディアが授かりしギフトは『獅子王の心臓』、『光の大精霊の祝福』、『賢人』の3つになります」
声こそ上がらないが、同席を許された臣下達から驚嘆の気配が立ちこめる。
それもその筈でランクが希少かつ複数のギフトを持ってたんだから、声を上げて驚かないだけこの場に同席を許されるだけの分別がある。
まず、ギフトの保持については大抵の者が神からの恩恵をもらう事ができる。
稀に神から見捨てられし者『ノーギフター』と呼ばれる、ギフトを持たない人間が居るには居るが、だいぶレアなケースだ。
ギフトには質の当たり外れの他にも数なんかも含まれる。
まずギフトの質についてだが、大まかに7つのランクに振り分けらていて上から順にゴッズ、ワールド、グランド、スペリオル、ヒストリー、レア、コモンの順番で希少性が高い。
モルゲンから聞いた話じゃ、大半の人がコモンで数10人に1人がレア、ヒストリーは数1000人に1人で、スペリオルにもなると数万単位だ。
グランドに至っては基本国に数人しか居ないのだとか。
ワールドは語るまでも無い。
最後のゴッズ持ちは国に1人でも居ればソイツが存命の間は安泰だと保証されるレベルだそうだ。
次に数だが、こっちも質と似たり寄ったりで多ければ多いほどに希少になってく。
2つ持ちは稀で3つ持ちはかなり稀だ。
こっちはランクと違って上限はおそらく無いが、ヴァレス帝国が把握している限りで7つが最高らしい。
一応、俺が知っているので1番多いが13個持ちだから、もしかしたらまだ上がいるかもしれない。
それで、クロードの場合にこれらの常識を当てはめるなら説明なんて不用の大当たりだ。
ギフトのランクについて俺は詳しくはないが、『王』が含まれるのは大体グランド、『大精霊』系統はスペリオルで『賢人』はレアって風の内訳ってところか。
言うまでも無く歴史に名を残すだろう大天才って奴だな。
で、その当の本人はギフトの内容が良いのか悪いのかが分からなくて不安そうにしてるが、親組は兎も角付き添いの外野の反応のせいだろうな。
神官も神官で疲労が大きいらしく、助祭とのやり取りをしているせいでその事に気が付かない。
子供ってのは大人が難しい顔をしてると不安になるもんだ。
仕方ない。
「クロード」
名前を呼んで手招きをすれば、そそくさとこちらに来てくれる。
「もう終わりだから、お母様達に自慢してこい。褒めてもらえるぞ」
「褒めてもらえる?ぼくのギフトは凄かったの?」
「凄いと思うぞ。モルゲンが複数ギフト持ちは中々居ないって言ってたし」
それを聞いたクロードは戸惑いなど忘れて満面の笑みを作り「やったぁー!」と喜ぶ。
「ほら行け」と急かしてやれば、珍しくマナーなどかなぐり捨てて走り出していく。
結局、体調のすぐれなかった神官は別の神官と交代をしたことでようやく俺の番になった。
「大変お待たせいたしました。これより、ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディア第三皇子殿下の啓示を賜ります」
交代した神官は何の不備も無く朗々と宣言を始める。
前もってこのトラブルは予想されてたのか。
そんな神官達の裏を勘繰っていると再び神殿が光を放ち始めた。
さてさて、どうなることやら。
願わくば普通に良い感じのギフトを貰えてるのが最良なんだが。
ジッとすること数分。
光の消失により儀式の終了が知らされるが「これは…」と神官の戸惑いの呟く。
案の定こうなるのか…
「大変申し訳ございません。どうやらこちらに不備があったようでして。他の者に引き継ぎもう一度執り行わせていただきます」
顔を青くさせた神官は謝罪の言葉と共に深々と頭を下げる。
いや、何と無く良く無いことだけは分かるし、多分結果は変わらないから別にやり直さなくてもいいぞ。
そう言いたいところだが、本当に言い出す訳にもいかないので、なされるがままにされるしかない。
そうして3人目の神官が出てくると同じ様にギフトの鑑定に移る。
三度神殿から光が消えると神官は顔色を悪くさせ、少しの間を置いてから口を開く。
「啓示を述べさせていただきます…ユリウス・フォン・ラング・ヴァレスディアが授かりしギフトは『頑強』…になります」
今度はしっかりと驚愕の声が辺りから漏れ出る。
しかし、何と無くそんな気はしてたが前世と同じパターンかぁ…
大英雄だと持て囃されてるクランさんだが、ギフトも相応に凄いモノを持っていたと言われてる。
それこそゴッズを複数所持していたとか勘違いされてる訳だが、やっぱりこれは他人の空似なんじゃねぇかな。
現実逃避はほどほどにするとして、この『頑強』ってギフトのランクは?と聞かれればコモンだ。
効果は至ってシンプルで、少し身体が丈夫になる。
以上。
……………。
大英雄の持ってたギフトがそれだけかだって?
それだけだよ。
それだけだから俺は大英雄なんて呼ばれてる事に困惑してるんだぞ。
何でよりにもよってゴミギフト持ちの蛮族が大英雄になってんだよ、おかしいだろ。
他人の空似だと信じたくてもクランの周りに出てくる人物名が知り合いばっかだし、ファーストネームどころかファミリーネームまで同じなのは無理があり過ぎるだろうが。
まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
「手を煩わせたな。感謝する」
「い、いえ…」
用は済んだので互いに居た堪れない空気になって居心地の悪い神官に内心で別れを告げ、クロードに続いて家族の元へ足を進める。
クロードは周囲の異様な空気に戸惑い、ミカエラは驚きのあまり初めて見るポカンとした顔をし、カンナに至っては信じられないと真っ青な顔だ。
「ユリウス、お疲れ様」
呆気に取られる一同の中で1番最初に声をかけてきたのは、やはりジルヴァだった。
いつものニヤケ面で出迎えた奴だが、僅かに笑顔が控えめなのは動揺してるからか?
これだけならコイツもこんな顔が出来たのかと少し愉快に思うとこなんだが、カンナとミカエラを見るとそんな気分にはならないな。
「疲れる様なことはしてませんよ」
「たまに強い魔素に当てられて気分が悪くなる事もあるらしいんだよ。『ギフト』通りユリウスは丈夫だね」
「お陰様で。怪我も無ければ病気にもならないですし結構便利ですね」
「本当、健康が1番だよね」
「ですね」
あははと笑うジルヴァはいつも通りに見えるが心なしかわざとらしさが出てる。
お前、気を使うなんて事出来たんだな。
「けど、欲を言えば俺ももう1つくらいギフト欲しかったですね。クロードは3つなんですから、俺にも礼儀作法がどうにかなるギフトをくれても良いと思うんですよ」
「くふ…礼儀作法が身につくギフトかぁ。ユリウスらしいけど、そこは強そうなギフトじゃないのかい?」
冗談めかして言いはしたが実際に戦闘に役立つギフトよりも、貰えるならこちらの方が欲しいのは本音だ。
どうにも礼儀作法は苦手なのは変えられないからな。
元を考えれば別人レベルで上達したんだが、それでも上はまだまだ遠過ぎて嫌になるぜ。
「あんまりですかね。そういうのはクロードが貰ってましたし、被るより唯一性がある方がカッコいいじゃないですか」
「分かるよ。確かにオンリーワンなギフトってカッコいいよね」
まぁ、それが礼儀作法が身につくギフトって言うのは無理があるような気がするが。
「クロードもそう思うだろ?」
「うん。けど、礼儀作法のギフトはあんまりかな」
「うん。俺も丁度そう思ってた」
話に入ってこれそうなクロードに話を振ってみると、子供だからか事の重大さがいまいち理解出来てないおかげもあって自然と入ってくれた。
ただ、唯一性と言う男のロマンには同意をもらえたが、礼儀作法のギフトがカッコいいとは流石にならなかったが。
「けど、クロードが貰った『獅子王の心臓』?は名前はカッコいいと思うぞ」
「だよね!ぼくもライオンみたいになるのかなぁ?」
「ライオンみたいねぇ…」
思い浮かぶのは「がおー」とライオンぽい格好をするクロード。
「やっぱあんまだな」
「えー!?絶対にカッコいいよ!」
もう一度思い浮かべ直すが、やっぱり立髪の生えたクロードしか出てこない。
クロードは成体のライオンを思い浮かべてるんだろうが、年齢なんかを考えれば可能性的には子供の方が高いに決まってる。
ぐぅ〜…
肉食獣と言うことで肉を連想すると腹の虫が鳴る。
「この後って昼食でしたよね。話の続きはそこでしませんか?」
「それもそうだね。カンナは大丈夫かい?」
朝から忙しくて大した物を食べられていなかったのがこんな形で助け舟を出してくるとは思わなかった。
ジルヴァは俺の提案に賛成すると、先ほどから思い詰めた表情をするカンナを気にかける。
「えぇ。折角ですからご一緒させてもいます」
「体調が優れないようなら直ぐに言うんだよ?」
「自分の身体のことは自分が一番理解していますわ」
怪しい気配こそあるが、気を取り直してカンナはようやく笑みを浮かべる。
精神的な衝撃を受けてる事は分かっていたが、体調に変化や卒倒するなんてことは無くて良かった。
「クロード」
小さな声で呼びかけるとクロードは目立たない様に近づいてきてくれる。
苦労していなさそうで気苦労の絶えない弟にはすまないが、もう少し頑張ってもらおうか。
「なに?」
「滅多に無い機会だし手でも繋いでもらえよ。一緒に出かけたいって言ってたんだし、絶好のチャンスだぞ」
「ユリユリは?」
「俺はちょっとミカエラお母様と話してから行く」
「うーん、分かった」
クロードは思う所があるらしいが、それでも追及しないで言われた通りカンナの手を握りに行く。
普段底抜けに明るくて子供っぽく見えるクロードだが、立場のせいか環境のせいか。
ああ見えて4歳とは思えないくらい気配りが出来て、その場その場で求められるてる対応をそつなくこなしやがる。
自分で言うのもなんだが多分俺よりも出来るんだから、アイツの中身もおっさんなんじゃないかって時々思うことがあるんだよなぁ。
ま、今はクロードよりもこっちか。
「ミカエラお母様もいきましょう。朝あんま食べてないのでお腹が空いてるんですよ」
「相変わらずのマイペースね。啓示の重さは分かっているでしょうに」
「腹が減ったらご飯を食べたくなるのは当たり前ですよ」
「はぁ…ごめんなさいね。貴方らしくもない気を使わせて」
なんて事も無いように話しかけては見たが、回りくどい事が本質的にあまり好きで無いミカエラにはお気に召さなかったらしい。
「こう言う時は“何のことやら?”とか言った方が良いんでしたっけ?」
「紳士の対応としては悪くないけれど、子供の対応としては間違いね」
「難しいですね。やっぱり、こういうのは俺には向いてないらしいです」
社交には出てないカンナとは違って、俺の浅い技術じゃ動揺していてもミカエラには通じないらしい。
気遣いって言うのはバレた時が恥ずかしいから嫌いなんだよ。
息が漏れ出る音がしたので上を向いて見れば、ミカエラの頬が少しだけ緩んでいた気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




