16話 ユリウスはしばき倒したい
「いつでもいいよ。全力で受け止めてあげるからね」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
シルヴァの気色悪さ置いておくとして、選んだのは武器は片手でも両手でも扱うことができるバスタードソード型の木剣。
手に持った時に軽く振り回してたが、軽そうにしてたとこを見るに本来の獲物はもう少しデカい物…多分ロングソードっぽいが、扱い方的に剣士としての力量はかなり高いな。
現にダラリと下段に剣を構えてるだけなのに隙と呼べる物が全く無い。
いつものアホ面なのは変わらねぇのに、俺のほんの少しの動きにすら目で追ってきやがる。
いいねぇ、久々の剣士との対決って実感が出てくると嫌でも楽しくなってきた。
昔は戦闘狂って訳でも無かったハズなんだが、狭っ苦しい生活を続けてるとこういうスリルが足りなくて、鬱憤が溜まってるのかもしれねぇな。
じゃ、まずは挨拶代わりに力任せの一撃から始めるか。
モルゲンとやる時よりも強く踏み込むと想像以上に大きな音が鳴る。
力加減をミスったか?とも思ったが、まぁ力任せなんだから加減もクソも無いかと考え直し、勢いそのままに力一杯上段から振り下ろす。
「うお?」
正面から受け止めたシルヴァは、思ったより押し込まれたことに驚いたのかニヤケ面を崩すと、咄嗟に力を流す方に切り替える。
続け様に追撃を放つが、今度は受け止めることなく全て受け流しで捌かれる。
「聞いたり見たりしてたけど、私の想像なんかより遥かに凄いな!こんなに驚いたのは久々だよ」
初撃以降は喜色満面でシルヴァは軽々と対処してのける。
なんなら力の調整も済んだらしく、普通に撃ち合いまで出来るくらいには余裕だ。
いくら帝国式剣術縛りなのと、モルゲンとやる範囲の強化だけとは言え、そんな軽々対処されるような動きじゃないハズなんだがなぁ。
「そうなのですか?それは随分驚きの少なそうな日常ですね」
「そんなことはないさ。子供の成長は驚きの連続だからね。いつもが私の想像を超えてくるのさ」
負けた様で癪なので煽っておくがやはり効いた様子もなく、シルヴァはただ楽しそうな反応をするだけだ。
分かってたが、俺が口でコイツをどうにかするのは無理だな。
まぁ、ここまではモルゲンと初めてやった時と似た様なモンになると思ってたから無問題だぜ。
だから体の強化のギアを一段上げる。
「また早くなった…だけじゃない!?まだ全力じゃなかったのかい!?」
ギアを上げたのと同時に我流の動きも混ぜてやる。
すると流石に意表をつけたのか、防ぎきれなかった剣の突きがシルヴァの体を掠める。
攻撃が当たるとは思わなかったと驚き顔を作るジルヴァだが、俺としても完全に当たったと思った攻撃があそこから回避が間に合うとは思わなかった。
「早くなっただけじゃないですよ」
「剣筋もだよね。いつの間に他の流派まで学んだんだい?こんな短時間でこんなに多くの技術を会得できるなんて、息子の才能が恐ろしいよ」
「残念」
「それは…おもッ!?」
俺の剣を何となく受けたシルヴァは、今度こそ想定以上の力を受け止めきれずに剣が大きく流れる。
うっし、胴体ガラ空きィ!
さらに一歩踏み込んで、今出せる最高の右ストレートを打ち込む。
「あぶな!?」
そう言ってシルヴァはどうにか手の甲だけを滑り込ませてギリギリの所でガードし、仕切り直しのために大きく飛び退く。
俺のことを速い速いと言うが、コイツも大概物理的にも思考的にも速いな。
「っー…結構本気で守った筈なんだけどなぁ。いやー、良い攻撃が入ったよ」
「俺的には今ので倒したいトコだったんですけどね」
ニヤケ面は変わらないが、一応は言葉通りダメージが入ったようで少し涙目で拳を防いだ左手をぷらぶらとさせる。
しかし、軽口を叩く余裕はまだ充分あるようで、俺も本音半分嘘半分で付き合ってやる。
「うーん、ユリウスの成長を確かめるのも凄く楽しいけど、このままだとカッコ悪いな。ここは一つ威厳を見せたいから本気で行かせてもらうよ?」
「いいですよ?見たことない威厳を見せてください」
「え!?」
「何を驚いてるんですか」
「いや…ちょっとね」
何驚いてるんだよ。
お前これまでに威厳らしい威厳を見せたことなんていつあるんだよ?
私生活は言わずもがなだし、俺達が仕事を見に行けばこっちを見るばかりでまともに出来てねぇだろうが。
如何にも傷つきましたみたいにしょんぼりするシルヴァだが、気を取り直して表情を引き締めれば纏う魔素の密度が大きく上がる。
ぐだぐだ言ってないで最初からそうすれば多少は格好が付くだろうに、つくづく残念なヤツだ。
「じゃあ、次は私から行かせてもらおうかな」
そう言い終える時にはシルヴァは目前まで迫っていた。
剣筋は俺が最初に仕掛けた時と同じ上段からの振り下ろし。
だが、シルヴァと俺の攻撃には同じに見えても天と地の差が存在している。
力任せで雑に振った振り下ろしと違って、何処までもブレの無い手本の様な攻撃は、それだけで対処が困難な代物だ。
この一撃だけで俺とシルヴァの間にある練度の差は一目瞭然。
やっぱ帝国式剣術を早々に捨てたのは正解だったな。
「よっ!」
「はは!凄いな」
横に構えた剣が接触すると同時に手首と膝を使って全力で威力を殺しにかかる。
結果として完璧に受け止めてやれば、思わずと言った様子でシルヴァは笑う。
モルゲンの時みたいに縛りなんてしてたらこれで終わってたな。
それはこの一撃もだが…
「なら、これはどう捌く?」
受け止められているにも関わらず、シルヴァはそこから難なく次の攻撃を放つ。
そう、所作や動作が洗練されていると次の行動へ恐ろしく滑らかに移ることができ、同じ身体能力でも練度が違うだけで数倍もの速度に違いが生まれる。
それこそ、シルヴァが剣術を使えば、常人離れした俺の身体能力を持ってしても対応困難なレベルで。
スルりと剣が引き戻されるとそこから間髪置かずに突きが飛び出す。
俺は身体を捻って回避するが剣先が服を掠める。
また、俺の攻撃の再現か…いや、そこから横振りに派生!
どうにか狙いに気がついて急いで剣を隙間に滑り込ませるが、流石に防ぐのは不可能だったので足の力を抜いて大人しく吹き飛ばされる。
ニコニコ涼しい顔ばっかしてやがるが、コイツ案外負けず嫌いじゃねぇか。
「あ!!」
球の様に吹き飛ぶ俺を見たシルヴァはやってしまったと焦るが、取り返しがつくわけもなく武具立てに突っ込む。
「ユリウス!?大丈夫かい!?」
血相を変えて駆け寄ろうとするシルヴァだが、自分から飛んだだけあって傷と呼べるものは無い。
そう慌てんな、ようやく楽しくなって来たトコじゃねぇか。
「取り敢えず、これはいらねぇや」
牽制に今の今まで握っていた木剣を思いっきりぶん投げる。
それをシルヴァはひとまず無事なことが分かって安堵の表情をすると、ホッとしながら難なく防ぐ。
安心するのは早いぜ?
「うわっ!?」
力の限り地面を蹴って砂煙を立てながら土礫を飛ばす。
さらに、足元に転がっている棚や武器達も片っ端からシルヴァにぶん投げる、と同時に気配を遮断しつつ今の限界値まで強化魔術を施して横に回り込む。
砂煙を抜けると最後の方に投げた武器を弾き飛ばしている途中のシルヴァが見える。
投げた武器より速くはあるが、思ったより遅いな。
及第点な自分の脚力はそのうちどうにかするとして、投げずに持ち出した大人用のロングスピアをいい感じに折っておいた。
大体ナイフくらいのサイズを2つ作り、1つを口に加えてもう1つをシルヴァに向かって投擲しながら俺も跳ねるように走り出す。
「今度はこっちか!?」
驚いている所を見るに俺を捕捉出来てはいないらしいが、死角からの投擲にはしっかり対応する。
じゃあ次はこっちだ。
シルヴァがロングスピアの木片を叩き切った時に、死角になるように移動していた俺は一度同じ攻撃を仕掛ける。
まぁ、これも訳もなく防がれるんだが、そんなことは織り込み済みだ。
「またか…そうなるとッ!あれ?」
二度も同じ事をすればまた死角からの攻撃と予測していたシルヴァは、2個目の木片を叩き落とすと同時に後ろに振り返り俺の姿を探す。
たが、勿論俺の姿は無い。
砂煙を出て1回目の投擲、2回目の投擲で死角を維持しながらも近いた俺は、シルヴァが振り返るのと同時に入れ替わる様に走り抜ける。
今度こそガラ空きの胴体を頂くぜ?
少し短くなったロングスピアは音を置き去りにしてシルヴァの腹をぶち抜きにかかる。
「ふッ!!」
一般人なら布が巻いてあっても余裕で突き殺せる威力だが、多分大丈夫だろうって思って放った一撃。
どうやってか攻撃を察知したシルヴァは惚れ惚れする足捌きを持って剣を間に合わせる。
「くッ!?」
だが、伊達に最大強化までした甲斐あって、今までとは段違いの威力を持った突きに対応できずに顔を歪ませる。
「フッ!!」
このままゴリ押せるかもと思ったが、そう簡単に事は運ばない。
シルヴァも身体強化の強度を上げる事で致命的な一撃を無理やり逸らす。
うん、力勝負じゃどうしても子供の体で大人に勝つのは無理があるな。
検証の一つが立証できたのでとっとと槍を引き戻し、それはそうと崩れた相手に何もしないなんてあり得ないのでもう一突き。
弱点は無ければ作ればいいし、ある弱点は徹底的に突き回す、これぞ戦いの鉄則だ。
うちの軍師の言葉だったか?
俺も大賛成なので嬉々としてやるとも。
「そらそらそら」
「ちょっ!?ぬぅ…!?」
防ぎにくい場所は勿論、次の動きを阻害する様に攻撃を置かれれば誰だって実力を発揮できず、こんな感じで防戦一方になる。
簡単に打開する方法もあるんだが、これは武術の手合わせなのでそう言った物には頼りにくい。
だが、流石に身体能力に差があるのでこのままであれば近いうちに対応してくる。
そもそも子供の俺とジルヴァじゃ地力が違いすぎる。
俺は善戦がしたいんじゃなく勝ちたい訳だから、どこでこの均衡を自分から崩さなくちゃいけないんだが、それはシルヴァも分かっているだろう。
だから思いもよらない手を使って仕留めなくちゃならないんだが、残念ながら魔術なんかの簡単な手は俺も使えない。
「ふんっ!」
バキッ!
なので手始めに膝を使って槍を真っ二つに折る。
唐突な奇行に「え?」と目を丸くするシルヴァだが、そんなんだと目ん玉飛び出しちまうぜ?
既に2回も折っているロングスピアは子供サイズになってたんだが、それがさらに2つになるとどうなるか?
「なっ!二刀流!?」
答えは俺にピッタリなダガーサイズの棒が2本出来上がるだ。
しかし、ただの棒と侮るんじゃねぇ。
「よっ」
「切れた!何で!?」
俺の棒を受け止めたシルヴァの木剣に小さな切れ目が入る。
その気になれば素手でも物を切れる俺が、わざわざ魔素を纏わせた棒なんだからそこらの鈍らより余程切れるさ。
そんな事実は知らないシルヴァは未知の体験だったらしく大慌てだ。
さっきからこんなのばっかなんだが、なんだかんだで一撃も入れられていないんだからやはりコイツはかなり戦い慣れてるな。
本当に皇帝を務めているのか大分疑わしいぞ。
また1つシルヴァに対する疑問が産まれたが、それは一先ず傍に置いておくとして、折角身軽な動きも出来るようになったのだから、足技も追加してさらに手数を増やしてやる。
「ふんっ」
「今度は足!?」
2本の棒に意識を持っていけたので、お留守になっていそうな足を踏み抜いてやろうとするが、ギリギリの所で気が付かれて引っ込められてしまう。
だが、目的だったさらに深く踏み込む事が出来たのでよしとする。
ただでさえ豆粒みたいで小さくてやりにくいだろうに、そんな豆粒が慣れない間合いで攻めてくるんだから、死ぬほどやりにくいだろうなぁ!
そこに足技も織り交ぜてやるとようやく両手で握る基本の型から、足を防ぐために片手を使った変則的な型を取らせることが出来た。
ここまでやってもまだ対処されるかと焦ったく思うかもしれないが、これはシルヴァの手札をまた1つ減らせた…要は対処の余裕が無くなった来た証だ。
ユリウスの子供心が疼くが、しっかりと勝利に近づいていると言い聞かせればまたワクワクが溢れてくる。
先に焦れたシルヴァはリスクを負ってでも離れようと、足の被弾覚悟で大振りの薙ぎ払いをして後ろに飛ぶが、身を屈めて潜り抜けた俺は同じ分だけ前に出てやる。
「くッ、読まれたか!」
「そりゃあ…な!」
出し抜こうとしたつもりが読まれていたことに気がついたシルヴァは悔しげに唸り、俺は逆刃に構えた棒で切り上げる。
このままなら当たると確信できる完璧な攻撃だったが、横這いからシルヴァの苦し紛れの足が迫る。
「うっ…」
咄嗟に出したのだから大した威力は出ていない筈なのだが、右腕で防いで見れば子供の体には充分な破壊力を備えた攻撃だった。
足から衝撃を逃すと共に地面から飛んで威力を大きく殺したのでダメージは無いが、このままだと距離が大きく離れてしまう。
耐え抜くのが理想だったが、読み違えた時点で半ばシルヴァに有利を取らせてることになる。
それは仕方がないが、タダであげるつもりも無い。
「ふっ!」
俺は吹き飛ばされながらも空中で足を蹴り上げる。
勿論、既に距離は現在進行中で離れているので空を切るんだが、何かを察したシルヴァは剣を横に構えていた。
その反応は正しく、俺の足から放たれた斬撃が走る。
「足から『オーラ・スラッシュ』!?」
シルヴァは騎士も使う基本技能を口にする。
素手で物を切れるなら足でも同じ事が出来てもおかしくない。
そして、足で物を切れるなら訓練された剣士や騎士が斬撃を放てるのなら、同じ要領で足から斬撃を出せるのもおかしく無いだろ?
それから、感づいたのは凄いが防御の選択はミスだぞ。
振り上げた足の勢いを利用して宙返りで体勢の整えて足にを溜めて放出。
さらに放出した魔素を足場にして斬撃に送れる形で突貫する。
さてさて、斬撃を防いでも次の俺の攻撃はどうするのかな?
空中で跳ねたような挙動にも目を見張るシルヴァだったが、ビックリだけで意表がつかれるほどのレベルでもなくきっちりと腰を据える。
それから剣の腹に手を添えて…やべえ!
俺がシルヴァの考えを読み取った時には全てが遅く、止まる事も進路を変えることも出来ない。
溜めを作ったシルヴァは正面に構えて前に踏み出す。
先に放っていた斬撃はジルヴァの剣に阻まれて霧散し、その後添えた手で剣を押し出して振り下ろしてきた。
これがシルヴァが斬撃と俺を同時に処理するために考えた答えだ。
力を溜めると同時に斬撃を防ぎ、溜めの後に強力な一撃を放つ。
俺は慌てて防御の構えを取るが、振り下ろされた剣の腹に木の棒は抵抗の気概も見せずに砕け散った。
肩にそのまま直撃するとドゴンッ!と派手な音を立てて地面に叩き落とされる。
「はぁ、びっくりしたぁ」
一本取ってみせたシルヴァは冷や汗を拭う動作と共に構えを解く。
それから今し方自分が何をしたかに気がつくと顔を青くして「ユリウス!?」と息子の安否を慌てて確認し出す。
やっぱ、コイツ筋金入りの天然で馬鹿だろ。
「負けました」
「うわ!?すまない、ユリウス!峰打ちだからって寸止めしそこねてしまった。どこか体は…!」
「この通りです」
「本当に大丈夫かい?我慢とかは…」
「してません」
「でも、結構な勢いでやってしまったし…」
「剣が途中で折れたので見た目ほど威力はありませんよ」
「剣が途中で折れた?」
俺に指摘されたシルヴァは何のことだと一瞬首を捻るが、すぐに自分の手に握られている剣の重さが違うことに気がついた。
確認するとそこには折れた剣が握られており、信じられないとポカンと口を開いて固まった。
叩きつけられる寸前、あの時他から見れば受け止める為に棒で防ごうとした様に見えたかもしれないが、俺が狙っていたのは武器破壊の方だ。
戦い方を棒二刀流に変えた時の初撃。
その時にシルヴァの剣に少しの切り込みを入れられた訳だが、その切れ込みに攻撃を入れて折れないかなと思った。
結果はシルヴァの強化が硬すぎたせいで棒が負けて、俺の体に当たってから折れたから失敗に終わった。
これを機にシルヴァを一発かまして気を晴らそうとしたが、この調子じゃしばらくは難しそうだな。
注釈として、この時点で勝負が成立している様に見えますが、流石にジルヴァが手を抜きまくっているからこその戦いです。
ギフトありきなら蛮族さんは逃げる事しかできません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




