15話 シルヴァは構い倒したい
「よ、よ、よっと」
「ッ!?」
俺の連撃を捌ききれなかったモルゲンの剣が宙を舞う。
「こんなもんかな。中々様になってきただろ?」
「ふぅー…いやはや、お見事にございます。もう、私が教えるのには実力不足ですな」
少し自慢げに言ってみれば、息を整えたモルゲンは珍しく手放しに褒めてきた。
だが、俺は勝ったことによる爽快感こそあるが、納得行かない部分が多々あった。
型は中々の完成度で覚えたとは思うが、そこからの応用はまだまだぎこちない自覚がある。
それなのにモルゲンに勝てているのは本来の獲物では無い、と言うか、そもそも今使っているバスタードソードと言う中くらいの長さの剣が本来の武器じゃ無いこと。
明らかに足運びや体術と比べて技量が見劣りしてるからな。
まぁ、それは俺にも言えることで、元々の戦闘経験値と型を無視した動きをちょいちょい入れてるからこその勝利だ。
だから、そこを指摘することも予想してたんだが、モルゲンは言い訳を一つもしないもんだからなんとも張り合い。
「そうでもないだろ。お前本当は剣より別の武器の方が得意なんじゃないか?」
「ほう、そこまで察しているとはそのご慧眼含めて益々感服いたします」
モルゲンは少し粘るかと思ったが、あっさり俺の言い分を認める。
国に所属する諜報員、いわゆる暗部とか影とかそんな感じの奴だろうに、そんなあっさり肯定していいのか?
「隠さないんだな?」
「主人に隠し立てのために虚偽を述べるのは臣下としてあってはならないことにございます」
理由を聞いてみれば模範回答みたいな耳障りの良い返答が返って来る。
とは言え、コイツが忠誠を誓っているのは俺じゃなくてシルヴァの方で、俺に仕えてはいるが本当の部下って訳じゃ無い。
「ふーん。なら、次はお前の本来使ってる武器種でやろう」
「大変申し訳ありませんがお断りさせて頂きます」
そろそろ剣術同士の戦いも飽きてきた所なので、もう少し真面目なモルゲンと戦ってみたかった。
この感じなら頼んでみれば案外イケるのでは?と思ったがそう簡単に話は進まない。
「なんで?」
「授業の趣旨とは異なるからにございます」
「そんなことないだろ。俺が強くなる為の勉強なんじゃ無いのか?」
「いえ、基礎的な身体の使い方を学ぶのが我々の教える武術にございます。それに、私の戦い方は今の殿下が学ぶ必要の無い場所ゆえ」
「戦いなんて剣だけでするもんじゃないんだから、色々な奴と戦った方がタメになるだろ」
「ユリウス様のおっしゃる通り。しかし、これはあくまでも基礎の授業。これより先を学ぶには他の方々と相談しなくては私の一存だけでは決める事ができないのです」
俺は子供なので結構ゴネてみるが、モルゲンの意思が変わる事はなく、逆に次々に俺の言い分を真っ向から潰してきやがる。
それが本当に臣下が言う事なのか?主人のわがままもを聞くのも臣下の務めだと思うんだが。
「はぁ、頭が硬い事だ」
「私もいい歳になりますれば。殿下は少々意欲が強いご様子。それとももしや、遊びと思われてはおりませんかな?」
「そんなことはないぞ?」
「それは重畳ですな。真剣に取り組んでもらえていると言うのは、教育者冥利に尽きるもいうもので嬉しい限りにございます」
せめて嫌味の一つを言ってやるが、モルゲンは朗らかに笑って受け流す。
それどころか俺の考えを詠んできて差し返してきやがった。
フッフッフッと上品に笑うこのジジイをしばきたい衝動に駆られるが、それをしたら俺が遊びたいだけなのがバレるので飲み込むしか出来ない。
その内また脱走して吠え面を掻かせてやるからな?覚えておけよ?
「しかし、優秀すぎると言うのもまた困るものなのですね…今日の所は武術をやめて他の勉学に切り替えるのも…」
「俺は形稽古も大切だと思うぞ?」
ん?なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
悩ましげにモルゲンは他の授業にしようか考え始めたが、俺としてはこのまま体を動かしていた方が何倍も楽しいんだ。
是非ともこのまま遊…武術を学びたいところ。
「殿下は既に充分の練度に見えます。これ以上は効率的な効果を見込めないのなら、そこまで根を詰める必要はありません」
「分かった。もう一度打ち合いをしよう。俺も動作の移行がまだ甘いと思うし、改善するところなんて山積みだ」
「間違いありませんが、殿下の年齢を考えればだいぶ早いと思いますが」
「武に年齢なんて関係ないだろ。高みを目指すに越した事はないんだからな」
これは確か弟弟子の言葉だったっけか?
なんと無く良い感じの言葉なので今は藁にもすがる思いで貸してもらうことにした。
「その年でその志を抱いておいでとは。しかし、私としては武だけでは無く、皇族としての高みを目指して欲しく思います」
しかし、モルゲンは感銘底受けた様子だが、考えを改めることにはならなかった。
「俺、将来は関所の門番になる予定だから関係ないな」
「何故よりにもよって門番なのかお聞きしたい気持ちはあります。そもそも、殿下がその様な職に就くのは不可能に思えますが…」
「そんなの分からないだろ」
「はぁ…兎も角、私ではこれ以上殿下に剣術や格闘術を教えるのはお恥ずかしい話ですが難しいのです。後日、ユリウス様に見合った教師を手配致しますので、今日の所は別のことを致す様お願い申し上げます」
良くない話だと判断し、これ以上続けたくないらしいモルゲンは話を無理やり戻すと、包み隠さずに事情を説明した。
こんな事なら手抜きでもすれば良かった…
前倒しになってしまった座学に憂鬱な気分になる。
「やぁ、ユリウス。今は武術の時間だったかな。調子はどうだい?」
そんな時に限って面倒な奴が現れた。
シルヴァが物陰からこちらを覗き見ていたのは知っていたが、そのまま出てこないでどこかへ行って欲しかった。
「良さそうに見えます?」
「何かあったのかい!?私にできる事ならなんでも言ってくれ!」
「気が散るので仕事に戻ってください」
「私の心配をしてくれるなんてなんて優しい子なんだ…!?大丈夫だ、安心してくれ。今日やらなくちゃならない仕事はもう無いんだ」
遠回しにウザいからどっか行ってくんね?って言ってんのに謎の深読みをするだけで全く意味が無い。
めちゃくちゃ貴族らしい陰湿な言い回しだったと思うんだが、やっぱこれ覚える意味ないだろ。
この国のてっぺんが解釈できないんだからむしろやめた方が良いまである…と言うか、コイツこれで貴族と本当に付き合っているのか?と心配になる。
仮に俺の意味をちゃんと受け取っているんだったら無敵過ぎなんじゃないか?
どうすればコイツは何処かへ行くんだろうかと思うが、今まで何を試しても俺がどうにか出来た試しが無いんだよなぁ…
いや、よくよく考えればコイツが俺の教師を手配してるんだし、丁度頼み事を聞いてくれるって言ってるんだから試してみるか。
「じゃあ、新しい武術の教師を探してくれませんか?」
「新しい武術の教師?モルゲン、少し詳しい説明をしてもらってもいいかな」
「ハッ、かしこまりました」
鶴の一声なんて言うのはこのことなんだろうな。
どこかの国の諺だったが、普通に尋ねただけのシルヴァに名を呼ばれたモルゲンは畏まって返事をする。
話を聞き終えたシルヴァは「なるほど…」と少し考え事をしてから、良いことを思いついたとニコリと笑う。
「新しい教師ね。分かった、手配しよう。それにしても、もう剣術の基礎は完璧だなんてユリウスは凄いなぁ。私も鼻が高いよ。このままだとすぐに追い抜かされちゃうね」
「ソンナコトアリマセンヨー」
「才能があるのに努力家な上に謙虚だなんて…私には恵まれすぎた息子だよ!」
「お父様はもう少し客観視をした方が良いですよ。そんなことより、早く教師を見つけてきてください」
コイツ、一々家族を持ち上げないと死ぬ病気か何かなのか?
他も大概だがその比にならないくらい多いし、暴走の仕方が薬をやっている人間のそれなんだが。
もう会話が面倒だから早く頼み事を叶えてくれと追い払うしか俺にできる事はない。
「今すぐにでも連れてきてあげたい!けれど、流石に難しいんだよね。だからどうかな?今日は私と一本勝負でもしてみないかい?」
お?
ふむ、鬱陶しいダル絡みこそあるが、中々に悪く無い提案なんじゃないか?
普通、王様なんて言うのは城でふんぞり返っているのが仕事だと思っていたんだが、実力至上主義なウチの家系なだけあってコイツも例に漏れずかなり強い。
勿論、城で戦ってる所なんてのは見た事がないし、何なら情け無いと言うか気持ち悪い所ばかりが目立つのだが、立ち姿には隙と呼べるものが他と比べれば恐ろしく少ない。
それに、ユリウスの親なだけあって保有魔素量は膨大だ。
これで弱いなんて事はあり得ない。
「お父様が?本当に今日は暇なんですね?」
「勿論だとも!今日は1日中ユリウスの相手をしてあげられるから遠慮なく甘えてよ」
「甘えるのは遠慮します」
「遠慮しないで!」
ハッ倒すぞ?
笑顔で両手を広げて飛び込み待ちをするシルヴァを見て、少しワクワクしてた気持ちが急降下するのを感じた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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モチベーションの維持になりますので何卒。
一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




