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14話 インテリ系蛮族

皇族になってからと言うもの、驚くほどに暇な日と呼べるものが無い。

立つのもままならなかった赤子の時は論外として、クロードが喋れるようになって少し経つと、そこからは皇族教育が始まった。

最初の頃は1時間程度だった勉強時間も、4歳を超えた頃にはトータルで6時間やる日も珍しく無くなってきた。

最初は身の振り方を覚える為になんと無くで取り組んでいた訳だが、ユリウス本人の意識があると自覚してからは覚える気の無かった礼儀作法も努力している。

そんな感じで飯、勉強、勉強、昼寝、クロードのお守り、勉強、勉強、飯、クロードのお守りみたいなサイクルで生活を送っていたりするが、こんな生活をしていたら鬱憤も溜まる。

解消する手段が武術の時間くらいしか無いある日、唐突に良いことを考えついた。


「モルゲン達から逃げ回るの楽しそうじゃね?」と。


筆頭専属従者のモルゲンを筆頭に俺の専属従者達は全員が捜索追尾、隠密などを高い練度で納めている。

何故か。

そんな奴らから逃げ回るのは中々スリリングで楽しいのでは無いかと思い付いちまったからには、お試しでやってみたらコレがまた非常に楽しい。

最初は書き置きだけして姿を消したらミカエラから大目玉を食らって散々な目に遭ったが、予想以上にモルゲン達との隠れん坊は良かった。

最近では騒ぎになることもなく、モルゲンを含む数人が捜索に駆り出されるちょっとした行事に収まったのは少し残念だが、折角の自由時間だと思えば続けない理由は無かった。

だから、授業だけの日は定期的にモルゲンの元から逃げ出して自由を謳歌することにした。

大体週一回くらいのペースで。

久々の休暇。

今日は書斎にある棚の上に寝そべりながら本を読んでいると、「おや?」と声がした。


「ユリウス、そんな所で何をしてるんだい?」


「くつろいで本を読んでいます」


「ここ、本棚の上だよ?」


「?そうですね」


見ればわかるだろ?

しかし、声の主であるヴィンセントが聞きたかったのはそんなことじゃ無いらしい。


「凄いくつろぎ様だね。棚の上じゃなくて机で読んだ方が良いよ」


「今授業のサボり中なので机で読めないんですよ。あと、机か床で寝ながら本を読んでたら怒られますし」


何故本棚の上に居るのかを告げれば「どうりでモルゲン達がいない訳だ」と、ヴィンセントは仕方なさそうな顔で納得する。


「棚の上でも怒られるよ」


「お兄様は怒るんですか?」


「怒らないけれど」


「じゃあ良いじゃないですか」


言葉通りヴィンセントは苦笑を浮かべるだけで、一向に怒り出したり注意をする気配はない。

なら問題解決だな。

俺は今読んでいた本に視線を戻す。

何か用事があって書斎に来たのだから、直ぐにどこかへ行くと思っていたヴィンセントだが、一向に本棚の上から頭を引っ込める様子は無い。


「それは医学書か。前見た時の魔具制作の本も大概驚いたけれど、今日はまた難しい本を読んでいるね」


「マッサージの勉強です」


「マッサージ?あぁ、カンナ様とギルバートがやって貰っていると嬉しそうに話していたな。父上が羨ましがっていたよ」


一瞬眉を顰めこそしたが、ヴィンセントは直ぐに心当たりに行き着くと顔を綻ばせる。

端的にしか答えなかったのにこんな短い言葉で良く察せる物だ。

この歳で交渉や社交が大人顔負けだなんて噂があったが、誇張表現じゃ無いらしい。


「私も最近忙しいせいか体が凝っている気がするんだけ。その練習中のマッサージで良いから是非してくれない?」


「面倒です。そもそも、お兄様は健康体じゃないですか」


「それはそうだけど父上も同じだろう?やって貰えたと自慢されたばかりなんだ」


「本当ですか?」


「違うのかい?」


よほど俺の顔が顰まっていたのか、ヴィンセントが興味深げな顔を隠しもしないで聞いてくる。

あれはつい先日のことだ。


「ユリウス、私にもマッサージをしてくれないか!?」


「嫌です」


蹴破るような勢いで扉を優雅に開けると言う無駄に器用なことをしながら部屋に入って来た不審者が居た。

何故そのことを?とは思わない。

家族の元に鬱陶しいほど入り浸ってるコイツがカンナかギルバートから話を聞くのは時間の問題だからな。

むしろ、俺が指圧マッサージを始めてから週を跨いでる事を考えりゃ、遅かったと感じるくらいだ。


「えー、何でー、お願いだよー」


子供か。

間髪入れずに断りを入れた俺に、情けない銀色の不審者は纏わりついた挙句部屋に居座り始める。

抱き上げ、頬擦りをし、話続ける。

いい歳したおっさんがそんなことをする気持ち悪さと言ったら。

そんな状態で本を読みづづけらるほど俺の忍耐力は高くもなく、一刻も経たないで根負けした訳だ。


「あー、うざい…分かりました。手を出してください」


「おぉ、是非ともお願いするよ!」


そんな調子で気持ち悪い不振者に指圧マッサージをするハメになったが、苛立ちが溜まってた俺が普通に施術をするなんてありえない。

強化魔術まで併用した神経のツボに指を捩じ込んでやった。

せいぜい苦しむと良い。

そう思いながら不振者の顔を見ると、それはもう気色の悪い笑みが浮かべられてたとさ。


「と言うことしかしてませんよ。普通、激痛にのたうち回ってもおかしくないのに、それを自慢するって。拷問の一歩手前を気持ちいいって……はぁ…」


「ユリウスもユリウスだけど、父上も父上な話だね」


あぁ、思い出しただけでげっそりする。

ヴィンセントもこの話は笑えないらしく何処と無く笑顔が陰る。

次こそはあの変態を黙らせる技術を身につけないとな。


「アレにやったのと同じでよろしければお兄様にもしますがどうします?これを読み終えたら人体の本を読み込んで改良をしてみたいので、比較対象が欲しかったトコなんです」


「やっぱり遠慮しておこうかな。それと、父上も大概だけどユリウスも悪戯は程々にしておきなよ。家族とは言え相手は皇帝陛下だからね」


「皇帝陛下は子供の前で駄々を捏ねたりはしゃがないと思うんですが」


「そう言われると返す言葉が無いな。けど、公務をなさっている時は立派なんだよ?多分、ユリウスに構って欲しいから敢えてそんな行動をしてるんだよ」


「色々敢えての使い方おかしく無いですか?」


「ははは、そうかもね」


ヴィンセントは「つい」と言った様子で笑ってるけど、何処の世界に皇帝の威厳と父親の我儘を比べて後者を取る奴がいるんだよ。

公務でもあの奇行を繰り返してたらこの国の寿命は秒読みだぞ。

そもそも、皇帝陛下以前に大人としてどうかしてるだろ。

笑いの壺にハマったヴィンセントが笑いを堪えていると、足場がぐらりと揺れる。

そこは未来の皇帝候補として大爆笑してる場合じゃ無いだろうが。


「おっと。流石にここで話すのは良く無いね。ユリウス、続きは椅子に座って話さないかい?」


「俺、本の続きを読みたいんですが」


「ユリウスは本を読みながらでも話ができるじゃないか。久しぶりの2人だけのお喋りなんだから付き合っておくれ?」


「それならこのままでも問題ないじゃないですか」


「ユリウスも“敢えて”そこに居たいのかい?お喋りは席に座ってするものだよ」


まるでジルヴァと同じだと言いたげなその物言いに腹が立つが、アレと同じだと思われるのはそれ以上に釈然としない。


「………」


無言で読んでいた本を閉じて、傍に置いてある次の本も抱えて本棚から飛び降りる。

良い加減それなりの時間を過ごしたし、モルゲン達に見つかっても良いと思ってた頃合いだ。

決してヴィンセントに乗せられた訳じゃない。

そのヴィンセントはクスクス笑いながら同じように梯子から飛び降りてくる。

ヴィンセントは俺の座った席の向かい側に腰掛けると、先ほどの会話の続きを始めた。


「ところで、マッサージの勉強って言ってたけど、何故人体の仕組みに関する本を読んでいるんだい?学ぶなら整体の指南書の方が良い気がするけど」


大体の推察は済ませていたらしいヴィンセントからしたら、何故整体術とは微妙に外れている人体の本を読んでいるのか不思議なのだろう。

俺も同じ立場ならそう思う。


「そっちはもう読みました。整体の本にも人体について記述がありますけど、端折られている部分がありますから。病人用の整体術の本は見つからなかったので、少しでも体への負担を減らす為に詳しく調べてるんですよ」


「ただマッサージが出来るようになる為じゃなかったのか」


「やる相手はカンナお母様とギルバートお兄様ですからね。体質もありますが、2人ともそもそもの身体が弱いですし、一般に広がってる施術は合っていないですよ」


「ほぉう?凄いな、そこまで考えて学んでいたのか。ユリウスって普段ズボラそうに振る舞う割に、やる事は結構凝り性だよね」


大まかな成り行きを聞き終えたヴィンセントは大いに感心するように頷くと、ついでに失礼な感想を添える。

つまり、意外だって言いたいんだな?


「そんな事は無いですよ。本を読むついでですし、あくまで2人に必要な知識しか学ぶ気はありませんから。これは充分適当ですよ」


「一般的技術じゃなくて専門技術を学ぼうとするのは適当じゃ無いんじゃないかな」


「中途半端な技術の習得を適当と言う以外になんかあるんですか?」


「捉え方は人それぞれだね」


高々これくらいで凝り性だなんて言われるのは大袈裟だ。

本気で1つのことを極めようとする奴らは、寝食も惜しんで取り憑かれたように努力をしやがる。

俺のは所詮片手間の苦労、しかも気が向いた時だけやる程度だ。

読書の趣味に便乗しての行動なのだが、ヴィンセントがこちらを見る目がより一層気持ち悪くなる。


「何ですか?」


「いやー、ユリウスは“優しいなぁ”って思っただけだよ。将来は名医かな」


お前もかよ。

ユリウスの家族の優しいの基準が低すぎるだろ。

ただ、まともに出来る趣味が読書くらいしかないので仕方なく本を読んでいるだけで、何故こんなにも褒められなきゃならないんだ?

あと、何故どいつもこいつも俺が医者になりたがっていると勘違いするんだよ。


「だから…はぁ、もういいや。それで」


「おや、医者は嫌なのかい?」


言い返すのも面倒になり適当に返事をする。

その様子から無駄に高い気配り能力を発揮し、医者に成るのが嫌なことは察したらしい。


「向いていると思うんだけどな。授業を抜け出したりはしてるけど、勤勉だし勉強が嫌いな訳じゃないんだろう?」


「勤勉では無いと思いますが…別に勉強は好きでも無いですね」


「そうなのかい?普段からずっと勉強ばかりしているし、てっきり好きなのかと思っていたよ」


一瞬、否定の言葉をだそうとするが、直ぐにヴィンセントが不思議がるのも無理はないなと考え直す。

振り返って見れば、前世じゃ考えられないくらい知識を集めまくってる。

まぁ、そうなってるのも仕方の無いことなのかもしれない。

前世から何もしないのは死に繋がると言う、刷り込みがされているせいで、どんな形であれ成長しないと落ち着かないのだ。

しかし、そのことを正直に伝えるのは無理がある。


「単純に本が好きなんですよ。知恵は力ですから」


だから、昔の友人が使っていた言葉を口ずさむ。

他人の受け売りでも自分らしいこの言葉はすごく性に合ってる。

理由は違えどヴィンセントも同じことを思ったのか、「良い言葉だね」と優しく微笑んだ。


定期的に挟みたい蛮族さんの日常回。


蛮族さんは気が付いていませんが、彼の学習量が多いのは学術教養を自由時間が欲しいがために短時間で終わらせてるからです。

その浮いた分はミカエラの指示により苦手な礼儀作法や歴史なんかに勝手に回されています。

さらに、疲れ知らずの蛮族さんは嫌々ながらも涼しげな顔で課題をこなしてしまうので、好奇心を刺激されたミカエラがどこまでなら大丈夫なのか検証した結果、時間が許す限り問題ないと判明してしまったので兄弟の中で最も学習時間が長いです。

単純に、自由にしておくと悪さを始めてしまうと言う理由もあります。

その為、ストレスが溜まると日中に勉強をサボるために脱走をしたりします。

ミカエラは最初こそキツく叱りつけましたが、宮殿内から出ることは無いので最近は多少叱る程度に止まっています。

叱られることには変わりありません。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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