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13話 ユリウスとギルバート

さてさて、逃げ出すことには成功したがこの後はどうするか。

やりたいことがあるとか、勉強がどうしても嫌だとかいう理由で逃げ出した訳じゃないせいで、これと言った目的みたいなもんが無い。

強いて言うならこれは隠れ鬼のような遊びだから、究極的には見つからなければ良い。

だが、それだと少し味気ない。

俺が本気で隠れれば多分見つかることは無い。

だったらいっその事、大胆に行動してみるそとにした。

とは言え、良い案が浮かんだまではいいんだが、その大胆な行動ってのが悩みどころだ。


「城の外に出るのは…日中は流石になぁ」


悪巧みにも限度があることが分かるくらいには俺にも良識はあるんで、これ以上騒ぎの大きくなるタイプの行動はやらん。

なにより、そんな事をすればミカエラから何を言われた上でやらされるか分かったもんじゃない。

夜なら大丈夫なのは人目につきにくいのもあるが、それ以上に急な予定が入る事がないのが大きい。

ガキでも皇子には予定に無いことが舞い込むのは日常茶飯事だ。

ジルヴァとか、クロードとか、ジルヴァとか、クロードとか、ジルヴァとかジルヴァとかジルヴァとか。

ジルヴァ来すぎだろ。

そんなことは置いておくとして、うーん。

子供のイタズラって言うのも思いの外難しいな…

結局具体的な案が思い付かないな。

あ。

カンナの見舞いをしたんだし、どうせならギルバートの見舞いもついでにやるか。

起きてるかは分からないが、それなら従者達を言いくるめれば俺の従者に見つかりにくくはあるが見つけられなくも無い、丁度良い隠れ場になる。

そうと決まれば人の視線を掻い潜ってギルバートの部屋を目指す。

何故、城ってヤツははこんなにデカいんだ。

皇族の居住区、と言うか宮殿が俺達の住んでる場所なんだが、これがまたデカいのなんの。

本来は妃一人につき一つの宮殿が与えられるらしいんだが、そこは家族大好きシルヴァと効率大好きミカエラの意見が合致した結果、今は一つの宮殿に俺ら家族は住んでいる。

だから、本来よりは俺がギルバートの部屋へ行くのは難しくはないんだが、それにしても宮がデカ過ぎる。

絶対にこんな使わないだろ!と昔は思ってたが、実際に暮らしてみると出来るだけ子孫を残さなきゃいけない皇族の性質と、その皇族一人につき増える従者や護衛なんかを考えると意外と余裕は無かったりするんだよな。

そんな訳で、広い宮殿でも人目は結構あったりするせいで意外と思う様進めない。

身の回りを世話する使用人が軒並み最低限の戦闘技能を持ってるのも難易度が上がる要因だ。

しかし、何故使用人の戦闘力が高いんだ?

絶対に必要無いだろ?

お陰でギルバートの部屋に着いたのはそれなりに時間が経ってからだった。

ゴールは目の前にあっても、このまま普通に正面から入れば簡単にモルゲンに見つかってしまう。


「ちょっと入るぞー」


なので、少し離れた適当な部屋に一度入り、そこにある窓から外へ出る。

ここからは速さ勝負だ。

気配を極力消してはいるが、流石に明るいし注意深く見れば普通にバレてしまう。

まず、窓から身を乗り出して外壁の装飾を掴んで張り付く。

即座に窓の配置を確認、同時に開いている窓へ凹凸伝いに移動。

最後に結界が張ってあるからそれをすり抜けられるように魔素を調整して、部屋の中へ侵入。

完璧だな。

身体を動かしてないし鍛えてもいないから満足は行かないが、それでも最低限の動きはできるんだから我ながら中々な身のこなしだ。

さーて、ギルバートは起きてるかな。

天井に張り付いた体勢のまま部屋を見たわせば、どうやら使用人の作業スペースみたいだ。

一人がちょうどお茶の準備をしている所で、これから使うであろうカップと茶葉的に、ギルバートは起きてるぽいな。

俺にもお茶を出して欲しいが、今声をかけると騒ぎが大きくなりそうだからギルバートの居る部屋に行くまで待つか。

そんな調子で少しの間ボケっとメイドの働きを眺めていると、準備が整ったようでトレイに一式を載せて別の部屋へ向かう。

普通はト、ト…あー…なんて言うんだったかな。

お茶とか食事を配膳するカートみたいの…トローリーだっけか?を使うんだが、あれは物音がどうしても出るから、寝てるかもしれないギルバートに気を遣ってこんな形になっているらしい。

メイドが「お茶とお薬の準備が整いました」と小さく呟くと、別に待機していたメイドが音も立てずに扉を開ける。

お前ら本職メイドじゃねぇだろと言う、何度目かもわからないツッコミを入室の掛け声がわりに、俺も部屋の中へ入れてもらう。


「ギルバート殿下、薬の時間です」


「もうそんな時間か」


時間を知らせたのはギルバートの筆頭従者であるケビンだ。

ギルバートは読んでいた本をパタンと閉めると、少し意外だとでも言いたげに時計を確認する。


「本日は調子が非常によろしいようで、我々としても嬉しい限りです」


「僕もビックリだよ。今日は何か良いことが起こるかもしれないね」


「私としましては、殿下が元気で過ごせることが何よりの吉日にございます」


「ははは、ありがとう。確かに元気があるんだからもう良いことはあったね」


何気ないギルバートの言葉に、ケビンは畏まりながらも中々にセンスのある返しをする。

ケビンのヤツ、ツラが良いだけじゃなくて言葉選び良いなんて、こりゃモテるのも納得の貫禄だな。

そこら辺の女なら惚れてもおかしくないが、言ってる相手は男な上に子供だ。

ユーモアな発言として受け取ったギルバートは笑いながら、励ましを兼ねた言葉に礼を言いながらも同意する。

元気なだけで良い日は大袈裟なんじゃないかと思わなくもないが、本人からしたら切実な問題なのは分かる。

前世今世を通して不自由な身体をしらない俺には、下手な同情をしても相手を馬鹿にしているようにしかならないだろうからな。

俺にできることは病気のことなど気にせずに、普通の家族として接することだけだ。


「ぅぅ…何回飲んでも慣れないなぁ…」


「成人でも厳しい味の薬ですからね。顔を少し崩すだけの殿下は非常にご立派ですよ」


「薬くらいで大袈裟だなぁ」


「いえいえ、そんなことは。お口直しにこちらをどうぞ」


「ありがとう」


「次で良いから俺にもお茶をくれ」


「畏まり…!!?」


だから、俺はギルバートが薬を飲み終えて、口直しの茶を飲む所になんでもないように割り込む。

自然に頼んだが流石に途中で違和感に気が付いたケビンは、慌てて言葉を切るとギルバートを守れる位置へ瞬時に移動する。

それに少し遅れて部屋に居た三人のメイド達も慌てて迎撃の態勢に移るが、全員は俺の姿を見つけた瞬間に困惑の色を浮かべる。


「ユリウス!遊びに来たのかい?」


唯一、ギルバートだけはなんて事の無いように弟が遊びに来た事を純粋に喜んでいた。

驚かすつもりでいた俺が言うのもなんだが、お前肝が据わりすぎだろ。

一周回って能天気な反応をする兄を見ていると暗殺とか誘拐が非常に心配になる。


「そんな所です」


「失礼ですが、ユリウス殿下。モルゲン殿達はどちらに?」


俺が曖昧な返答をすると、一応冷静さを取り戻した風を装っているケビンが尋ねてくる。

本来、従者が主人達の会話に割って入るなんて問題なんだが、内心はまだ動揺が抜けてないんだろうな。

俺もギルバートも細かい事に目くじらを立てるタチじゃないので、俺はケビンの質問に普通に答える。


「さぁ?逃げ出してきたから俺のことを探してるんじゃないか?」


「逃げ出してきた…」


「あ、告げ口はやめろよ?自力で見つけられなきゃ、モルゲンの立つ瀬がないだろうし、何より面白く無いだろ」


「さようですか…でしたら、我々は何も無かったことに致します」


俺のしょうもない答えにケビンは再び動揺を露わにするが、頭は硬い方じゃ無いようで取り敢えずは納得したように頭を下げる。

残りのメイド達はここを取り仕切る筆頭従者の判断に従うと、同じように承知したと無言で礼を取った。

察しが良いようで実に助かるわ。

よし、良い感じの隠れ家が確保できた。


「何で逃げたの?」


事務的に必要なやり取りが終わると、空気を読んで待っていたギルバートが詳しい理由を聞いてきた。


「勉強をサボりたかったからです」


「ユリウスは勉強が嫌いなんだね」


「そんなことはありませんよ」


「じゃあ何で逃げてるのさ」


単純な答えに一度クスリと笑うギルバートだったが、訂正を聞くと首を傾げた。


「息抜きですかね。遊びみたいなものです」


「息抜き?遊び?」


「はい」


「それは良く無いんじゃないかな?ユリウスの従者達が困るし」


「それはそうですが、上の無茶振りに答えるのも臣下の仕事ですよ。子供のやることですし、これくらいのイタズラなら許してくれますよ」


やはり俺の答えが理解できないと、ギルバートはさらに疑問が深めたみたいだ。

病弱な身体のせいで1日の活動時間が限られているギルバートは、勉強などしなくても許される立場でもできる努力は惜しまないタイプの人間だ。

そんな真面目ちゃんにはこの考えは理解し難いらしいな。


「そういうものなのかなぁ…」


言い出しておいて何だがそういうのでは無いと思う。

だが、俺には都合の悪い事なので訂正するつもりは微塵もないがな。


「怒られたりはしないの?」


「怒られますよ?ミカエラ母様に。けど、俺が分別を弁えてるのが分かってからは大丈夫ですね。モルゲン達にも一応、城から外には出ないと伝えてあるので大事にはなりませんよ」


「そっかー。ならいいのか…な?」


「俺は良いと思っています」


大人たちが状況を把握しているのであれば問題ないと思うギルバートだが、良識があるだけに全面肯定は難しいらしい。

なので一押ししておいて罪の意識を無くしてあげよう。


「そんなことより、今日ギル兄上に会いに来たのには理由があるんですよ」


「理由?ただ遊びに来たんじゃないの?」


これ以上、この話を続けても良い事はない(俺に)ので、さっさとここに来た本題に移って有耶無耶にする。

ギルバートも特に引きずる事なく、俺の目的の方が興味深いようで食いついてくれる。


「最近、医療に関することを本で読んだんですけど、そこに誰でも簡単に出来る医術が載っていたんですよ」


「へぇー、そんなものがあるんだ。その医術って何なの?」


医術と言ってしまったせいでギルバートの期待値が上がってしまう。

本人が大病を患っているだけにその手の話題には興味が大きいのだろうが、壮大そうなも物じゃないのが申し訳ないな。

言葉をもっと選べばよかったと思いながら種明かしをする。


「医術とは言いましたが、大したものじゃないですよ?ただのマッサージです。手とか足とか揉むだけの」


「ユリウスはマッサージが出来るようになったのかぁ。凄いね」


「先程、お母様にやって来たんですけど、中々反応が良かったのでギルお兄様にも試してみようかと思いまして。ギルお兄様は身体が凝ってそうなので」


「確かに、さっきまで本を読んでたから体が硬まってる気がするな。ユリウスがマッサージをしてくれるなら評判も良いみたいだし、是非お願いしたいな」


こちらもカンナ同様に可愛い弟の申し出とあって非常に嬉しそうだ。

順調に了承を得られたので早速と腰を浮かせるが、「恐れなら…」とギルバートの体調を任されているケビンが止めに入る。


「大変無礼を申し上げますが、ギルバート殿下の整体については専門の方以外は禁止されておりますので、いくらユリウス殿下と言えどご遠慮ください」


まぁ、もっともな言い分だ。

カンナに輪を掛けて身体の弱いギルバートは免疫力や身体の機能が低い以前に、そもそも物理的に身体が強く無い。

だから、普通の力だったとしても痛みを感じるし、下手に力でも加わればそれは激痛になり得る。

最悪の場合は病状が悪化する可能性だって普通にある。

そんなギルバートの体を無闇に触れさせるのは、ケビンからすれば到底許せないことなのは分かりきっていたことだ。


「俺もにわか知識でやろうなんてしないぞ。なんなら初めにケビンにためしてやる。お前はギルお兄様の整体が出来るんだし大丈夫かの判断は出来るだろ」


「わかりました。そこまで言うのでしたら初めに私にお願い致します。ただし、ユリウス殿下でも審査は厳しめにさせていただきますよ?」


なので、まずはコイツを実力で黙らせることにする。

仮にも俺は皇子なので、角を立てないでやめさせるにはこの提案を受けるしかないだろう。

案の定、ケビンは注意した時に少しばかりあった表情の剣を取り除くと仕方が無いと了承する。

最後に冗談っぽく厳しくする言っているが、俺を落としやすくするための前振りだな。

まぁ、いいさ。

メイドがケビンの分の椅子を用意すると、彼はそこへ座る。


「じゃ、袖を捲って手を出せ」


「こちらで宜しいでしょうか?」


「ああ。始めるぞ」


一言声をかけてから、俺はケビンの掌を揉む。

何だろう、凄く何とも言えない気持ちになってきた。

仕方が無いとは言え、男の手を揉むのは気持ちが悪くて非常に嫌だな。

このケビンは若々しい見た目をしてるが、確か三十路を越えたオッサンなのを知っているのも関係があるかもなぁ。

この考えはやめよ。

こうして黙々と野郎の手を揉むこと5分。


「はい、終わり」


「手だけでしょうか?」


「そうだが?子供が覚えられるのなんて所詮この程度だろ。大したことじゃなくて悪いな」


「そんなことは。予想していたよりも堅実な方法に感服いたしました」


「堅実ねぇ…無理やり出した褒め言葉にしては上々だな」


「いえ、決してそんな事はありません。他に目移りもせずに一つをしっかりと学ばれたご様子。実に丁寧かつ真剣であることがよく分かりました」


俺の棘のある物言いにケビンは慌てる事なくしっかりと弁明をする。

そりゃ、やるからには適当な理由付けのためとは言え、一応手のマッサージについて学んだからな。

下手な物では無かった自信はある。

力加減とか場所は殆どその場の手探りだったけどな!


「なら、ギルお兄様に同じことをやってもいいか?」


「これであれば問題ありません。ですが、私めが監修させて頂くことをお許しください」


「構わないぞ」


こうして、俺は無事ケビンからギルバートのマッサージ資格(手限定)を獲得することができた。

その後は問題なくギルバートにマッサージを施すと、変なこともなく普通に喜ばれた。

これで多少は身体が良くなれば御の字だが、効果の程はどうだろうな。

少しでも元気になって是非ともミカエラの個人教育を分散する手助けをしてくれ。


「こんなもんですかね」


「すごく気持ちが良かったよ。体も軽くなった気がする。本当にありがとう」


「どういたしまして」


負担にならないギリギリを見極めて施術を止めると、ギルバートは手を閉じたり開いたりしながら笑う。


「ユリウスは将来有名なお医者さんに成れるね」


「たかだかマッサージをしただけですよ」


お前もか。

カンナも同じことを言っていたけど、何を勘違いすればそんな考えになるんだよ。

周りはそんなにも俺が医者になりたい様に見えるんだろうか?


「指圧マッサージが出来るだけじゃ成れませんよ。そもそも、医者になんてなりません」


「それは勿体無いよ。ユリウスのマッサージは今までで1番気持ちよかったのに」


「お母様にも言いましたが医者は嫌ですね。勉強が面倒ですし、人の命に責任を持つなんてまっぴらです」


「そっか。将来お医者さんになったユリウスに身体を診てもらいたから、残念だよ」


露骨に肩を落とすギルバートは心の底から残念がる。

俺は大袈裟だなんて言ったが、魔素回路を調整したり、魔素を抜いたりしたから体の調子が良くなったのは本当だろう。

そんなに落ち込まなくても、俺の見立てではこの調子で行けばそう遠く無い内に改善することができる。


「それは無理な相談ですね。俺は将来適当な家の用心棒として生活する予定なんです」


「用心棒?ユリウスは誰かを守りたいの?」


「そう言う訳じゃないんですが、ある程度自由があって楽そうで良いじゃないですか。3食昼寝付き希望です」


「フフフ、ユリウスらしいけど用心棒はお医者さんより向いてないんじゃないかな」


おいおい、何を言ってやがるんだ。

死ぬ前は用心棒として生活していたんだから、そんなバカな話があるかと、腹を抱えて笑うギルバートに言いたい。

そんな俺の顔を見て、不満そうだと感じ取ったギルバートは引き笑いをしながら「ごめんね」と心の篭らない謝罪をした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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