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12話 病弱な家族

ヴァレスディア家には病弱な者が多い。

母であるカンナは嫁いできたので除外するにしても、ロクに外へ出られ無いギルバートを筆頭に産まれてすぐに死んだ名も知らない妹に一応俺と、中々に虚弱な面々が揃っている。

厳密に言うと産まれやすいと言うのが正しいんだが、これには分かりきってる理由がある。

この国は実力至上主義を掲げてるだけあってそれは俺達皇族にも適応される。

だからか、才能のある奴ら同士でくっ付いてとにかく血筋を作ろうっていう思想が根強い。

そうなると権力を持つ奴らの考えることは大体似たり寄ったりらしく、優れた者同士で政略結婚を重ねるって所に行き着くらしい。

その結果、ヴァレス家の者は優れたスキルや膨大な魔素量を持ってる奴らを多く輩出することに成功する一方で、とある問題も同時に出てきた。

良い所もあれば悪い所も出てくる訳で、欠陥を抱えた者達も多かった。

その欠陥だが、大抵は魔素が高過ぎるのに伴った機能不全が大多数を占める。

死んだ妹は知らんが、ギルバートの場合は保有できる魔素と放出出来る魔素の量が釣り合ってない魔素調整不全とかだったハズだ。

俺の場合はそもそも子供には耐え切れない魔素を持ってしまったりとかな。

軽度にはなるが昔は第一皇女の姉も苦労したらしいし、シルヴァの兄弟なんかにもまぁまぁ居たと皇族では病弱は珍しく無い。

体質のことだから有効な治療法も限られるし、不治の病な場合が多いこともあってか『ヴァレスの渇望』なんて言う呪いと巷では囁かれていたりするな。

話は逸れたが、呪いとまで言われたヴァレス家の体質なんだが、一部に限れば解決策はあったりする。

ギルバートみたいな魔素の釣り合いが取れていないタイプは、簡単な話として釣り合いをどうにかすれば治るないし改善できる。

それが出来るなら苦労しないだろうって?

その通りで、体質ってことで薬で和らげるにも限度はあるし、克服するには優れた魔素の操作精度が本人に求められる。

しかし、肝心の体質のせいでその魔素操作を上げるのもままならない。

それじゃあどうするのかといえば…


「どうですか?」


「気持ちがいいわ。ユリウスはもうこんなことができるのね」


手のひらの揉み心地を聞くと、カンナは嬉しそうに感想を言う。

傍目には親に甘えるガキの構図なのが良くないが背に腹はかえられなかったんだ。

断じて、中身がおっさんの俺が本当に甘えてる訳じゃない!

最近の医療について興味が出たので、簡単なモノを試させて欲しいとカンナに頼んだ結果がこれだ。

手のひらのツボを押して気を整える、所謂指圧マッサージってヤツだ。

本当のトコは医療に興味など全く出ていないし、昔師匠に覚えさせられたマッサージをうろ覚えでやっているだけなんだが、理由付けとしては親を心配する健気な子供に見せることに成功したから悪くない方便だった。

従者達から突き刺さる生暖かい眼差しが少しうざいが、目くじらを立てるほどじゃないから早々に気にしないことにした。

で、この効果があるんだかないんだか分からないマッサージなんだが、指圧マッサージはあくまで表向きにやってることで、実際にはカンナの体内にある魔素にこっそり干渉してるところだ。

病名については知らないが、俺なら魔素に関わる体調不良や病気であれば見ただけで、何が原因なのかが分かる。

魔素が流れてる魔素回路と呼ばれる器官の不備で、カンナの場合はこいつのあらゆる調整が不均一なのが原因だな。

実のところこの現象は別に珍しい訳じゃない。

よくある症状なら自分の回路や魔素を貯めとく臓器を痛めたり、機能を低下させたりするのが一般的で、要するに頭痛や腹痛みたいな病気みたいなもんだ。

ただ、体に溜め込める魔素がかなり多いカンナみたいな奴だとこれがかなり重症化したり慢性化したりすることがある。

端的に言うと運動不足みたいなもんで、違いは運動しなきゃ付かない筋肉と違って魔素は才能に応じて勝手に伸びちまう。

そのせいで魔素を操る力量を魔素の量が勝手に追い抜いてしまったんだろう。

カンナの場合は生来の体質と俺ら兄弟の妊娠に妹の流産、そこから来る精神の不安定さが諸々重なった結果だと俺は思ってる。

ここまで来ると薬でも自力でもどうしようもないせいで不治の病認定されるんだろうが、先ほども言ったように限られるだけで治せない訳じゃない。

それが今俺がやってるように他人に魔素の操作を肩代わりしてもらう方法だ。

適度に魔素を抜いてやり、不規則な流れを整える。

これだけで幾分かマシになるだろ、多分。

因みに、何でこの方法が今まで試されなかったのかの理由だが、これをやるには施す相手よりも大きな魔素を持ってる必要があったり、体を傷つけないかつ負担をかけないようにやる必要がある。

そんなことが出来る医者は少ない、と言うか居ないだろうし、知られていない可能性が高いんじないか?

それだけの魔素を操る技量があるなら、誰だって医者じゃなくて魔術士になるもんだ。

ちなみに話は逸れるが、俺みたいな産まれた瞬間から魔素が体を壊している場合はどうしようもない。

産まれた時に自分で治癒魔術を使うか、外から絶え間なく適切な治癒魔術を使ってもらうしかない。

まぁ、どちらも無理な話で俺の意識が産まれた瞬間からあったって言う例外中の例外だな。


「お体はどうですか?」


「うん、お陰ですごく良くなったわ。ありがとうね」


直ぐに良くなる訳ないんだが、可愛い息子がしてくれたってことが嬉しいんだろう。

自分で可愛いとか考えると何か嫌だな…

いや、今の俺が可愛いツラをしてるのは間違いないし気に入ってはいるんだが、どうしても何とも言えない気持ちになるんだよなぁ…

ま、そのうち慣れるか。


「こんなに良くなるなんてユリウスは凄いわねぇ。将来は有名なお医者さんかしら?」


珍しく調子が良い日に息子の親孝行でさらに上機嫌なカンナは、俺が医者を目指していると勘違いしてそんなことを聞いてくる。

勿論、そんなつもりは全く。


「医者は嫌ですね」


「どうして?ユリウスは賢いしきっと立派になれると思うわよ」


「そんなことは無いと思いますが。どちらにしろ俺は好き嫌いが激しいので、嫌いな部分がある医者にはなりたく無いですし、向いていませんね」


賢いなんて買い被りも良い所だ。

別に頭の出来が悪いとは思ってないが、かと言って良いとも思ってない。

体を動かすことに関しては自信があるし、大した努力をしなくても大抵の動きを出来たりするんだが、暗記なんかの頭を使うことに関しては相応の努力が必要だし人並み程度なのは間違いない。

そんな俺の頭の出来は置いておくとして、答えに不満があるのか納得が行かないと顔に出てる。


「どんな所が嫌いなの?」


「病名を覚える所とかですね。僕がどんな症状かを理解していて、その対処法を知っていても、他の人には何の病名なのかを教えないと納得してもらえないでしょう?病名なんて増えたり変わったりするのに覚えるのが不毛だと思うんです」


「それはそうね。治療を受ける立場からしてみれば、何をするのかは教えて貰いたいし、知識が欠けてる人はどうしても心配になっちゃうわね。でも、それは必要なことだと思うわよ。患者さんに安心してもらう為にもね」


「僕はそれが良くわからないんですよね。あと、もう一つの嫌な場所ですが、患者を思いやるとかも面倒なので嫌です。だから面倒臭がりの俺には向いていんですよ」


「ふふふ、そうなの?ユリウスは凄く思いやりのある子だからやっぱり向いていると思うわよ?」


「そんなことないです」


この答えの何がそんなに面白いんだ?

俺に思いやりがあるって言うんなら、前世で盗賊をして蛮族なんて呼ばれていないわ。

面倒になって冷たくあしらっても笑うのを止める気配が見えないし、やはりこの母も他の家族同様に苦手だな。

やりたいことはやり終えたし、居心地が悪くなって来たからそろそろ帰るか。


「それでは、お母様もお疲れでしょうし読みたい本もあるので失礼します」


「そんなことは無いわよ?どうせならここで読むと良いわ」


「お気になさらず。それでは」


俺はこれ以上引き止められないようにさっさと部屋を出る。

中から「少しからかい過ぎたわね」と楽しげな声が聞こえ、冷たくあしらったハズなのにあんな反応をされてはやはり困る。

やっぱりアイツは苦手だ。

しかし、さてさて。

今日はカンナの見舞いに行くことになっていたので、この後の予定は全部ぶん投げちまったんだよなー。

何をするかと考えていると後ろに控えていた世話係のモルゲンが「殿下」と声をかけて来た。


「この後は読書とおっしゃっておりましたが予定よりも早いご帰宅になりますし、せっかくですので今日予定していた授業はいかがでしょうか?」


俺は内心で顔を盛大に顰める。

何がいかがでしょうか?だ。

親に俺のことを細かく報告をする義務のあるモルゲンの言葉となりゃ、それは実質「今日はもう暇なんだから勉強をしなさい」って言っいるようなもんだぞ。

勉強は嫌いじゃないが、誰かの話を長時間動かずに聞き続けるのは結構苦痛だ。

それに今日の授業は礼儀作法が殆どだったよな…

よし。


「はぁ、仕方が無い。部屋に戻るぞ」


「畏まりました」


溜め息を吐きながらモルゲンの提案を呑んでやる。

チッ、コイツ俺は嫌だって態度に出してるのに全く気使う気配が見えないぞ?

まぁ、これは予想通りだ。

少しカンナの部屋から離れて曲がり角を曲がろうとした時、「あ」と小さく呟いてやる。


「いかがいたしましたか?」


「手帳を忘れた」


俺は普段からポケットに入れている手帳を忘れたことを言うと、モルゲンはもう一人の従者であるアリスへカンナの部屋へ取ってくるように指示を出す。

よし、視線は外れたな。


「さようですか。では、アリス」


「はい」


「手帳を受け取って来てもらいませんか?私は殿下と先に戻っています」


「畏まりました」


視線が外れた瞬間に気配を紛らわせて、音を立てずに全力で走り出す。

これだけのやりとりをする時間があれば逃げ切るのは余裕だ。

たまにはサボりと言う勉強も必要だと俺は思うんだ。

定期的に逃げ出してサボってはいるが、それよりも圧倒的に真面目に授業を受けてる時の方が多いんだから、たまにの息抜きくらい目を瞑って貰いたい所だぜ。

ま、アリスには悪いが俺と見つからない手帳の捜索を頑張ってくれたまえ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。

モチベーションの維持になりますので何卒。

一作品目の『社会不適合者の英雄譚』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。

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