第八話 知らぬ間に入学していました
案内人に連れられ、俺たちは丘を下るように歩いていった。
島の景色はどこまでも広がる青空と、豊かな森の緑に包まれていて、まるで絵画のようだった。しかし、俺はそれどころではない。
「……なあ、俺たち今どこに向かってるんだ?」
「入学手続きです」
「いやいや、待て待て。俺、入学するなんて聞いてないんだけど?」
案内人の青年は俺の問いに特に驚いた様子もなく、落ち着いた声で答えた。
「手続きそのものはすでに済んでいます。あとは公式な登録を行い、寮へご案内するだけです」
「おいおいおい、ちょっと待て! 俺、何の書類にもサインしてないんだけど!?」
「いえ、湊様はすでに同意されていますよ?」
「えっ……どこで!?」
「兄さん、心当たりがあるでしょ?」
横で歩く柚希がクスリと笑いながら言った。
「……え……」
俺はふと思い出した。しばらく前にエアギターを熱演していた夜。
柚希と話していたときのこと——。
「兄さん、私の進路について話したいのだけど……」
「みなまで言うな! お前がやりたいようにしろ! それで俺の手が必要なら、なんでもしてやる!」
——あれかああああ!?!?
「嘘だろ!? 俺、あれで入学の同意したことになってるのか!? なんで!?」
「兄さんがそう言ったからよ」
「ちょっ……! 普通はちゃんと説明してから同意させるもんだろ!? 俺、そんなつもりじゃなかったんだけど!?」
「……でも兄さん、こうしてここにいるわよね?」
「ぐっ……!」
言い返せない。確かに俺は今、ここにいるし、手続きらしきものをしようとしている。認めたくはないが、確かに俺は“同行する”と決めていた……。
「さあ、着きました」
そんな俺の動揺をよそに、案内人は足を止めた。
目の前には巨大な建物があった。白く整えられた外壁に、幾何学的な模様が刻まれた大きな門。
「……えっと、ここは?」
「入学手続きと新入生登録を行う施設です」
「……いや、改めて言うけど、俺、入学するなんて聞いてないんだけど?」
「大丈夫です、手続きはすでに済んでいますので」
「そうじゃなくて!! 俺の意思が!!」
俺が叫んでも、案内人は優雅な微笑みを浮かべるだけだった。
「まあまあ兄さん、せっかくだから、正式に入学しましょう?」
「お前なぁぁぁ!!」
結局、押し切られるような形で俺は建物の中へ足を踏み入れることになった。
手続きの流れは、思ったよりあっさりしていた。
入ってすぐ、事務的なカウンターの前に通され、名前を確認される。
「では、こちらに署名をお願いいたします」
俺の目の前に差し出されたのは、羊皮紙のようなものだった。しかし、ペンは普通にボールペンだ。
「え、これにサインするだけでいいの?」
「ええ、これで正式に登録が完了します」
「……えぇ……」
めちゃくちゃ不安だが、柚希の隣でじっと待たれると、サインしないわけにもいかない。
「……まあ、なんとかなるか……」
俺は適当にペンを走らせた。
その瞬間——羊皮紙がふわりと光を放ち、文字が浮かび上がる。
「うおっ!? なにこれ!? なんかすごいことになってるんだけど!?」
「正式に入学が完了しました。湊様、これから学園での生活をお楽しみください」
「おい待て!! なんかもう確定した感じになってるけど、俺まだ心の準備ができてねぇ!!」
「大丈夫よ兄さん。学園生活って楽しいものだから」
「そうだよね!楽しいものだよね!でもそこが問題じゃねぇんだよ!!」
結局、俺の異議はすべて流され、あれよあれよという間に入学が確定した。
その後、俺と柚希は寮に案内されることになった。
「こちらが、お二人の寮です」
案内人が示したのは、立派な建物だった。いや、建物というよりも……
「これ、一軒家じゃね?」
「はい。主従ペアには一つの住居が与えられます」
「いやいや、寮って……もっとこう、個室があって共同生活するやつじゃないの!? これ、もう普通に家だよな!?」
「兄さん、細かいことは気にしないの」
「気にするわ!!」
とはいえ、もう疲れた。
いろいろとツッコミどころが多すぎて、俺の思考は限界を迎えつつあった。
「はぁ……とにかく、今日は寝るか……」
俺はため息をつきながら、自分の部屋に入った。
今日一日、何が起こったのか整理しようと思ったが、考えれば考えるほどおかしいことだらけだ。
超絶美人の外人さんが家に迎えに来て、外車に乗って森の中つれてかれて。
洋館に入ったら中は病院みたいで、ラスボス扉開いたら普通の応接間みたいな部屋で、部屋から出たら知らん島にいた。
あと、何やら入学を了承していたようで書類書かされて、ふわって浮いて光ってた。
ふむ。ということは…
そういうテーマパークか。
夢の国的な舞〇らへんにあるあそこの新しいアトラクションか。
ちっちゃい時に家族で行ったのが最後だから今どんなアトラクションがあるとか知らないけど
なるほど、技術の進化はすごい。
ほんとうに夢と魔法に満ち溢れた体験だ。
納得したぜ。
「……いや、やっぱり無理がある。」
俺は再び部屋を飛び出し、柚希の部屋を訪ねた。
自分の置かれた現状正しく知るために——。