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第五話 マリアの訪問と旅立ち

 朝日が差し込む中、家の前に一台の黒い車が滑るように停まった。


 車のドアが開き、現れたのは——銀髪の美女。


「おはよう、柚希。それと……湊君ね?」


 透き通るような声とともに、銀髪の女性が優雅に微笑む。


「初めまして、と言いたいところだけど、画面越しには話したことがあるわよね。私はマリア・ヴァレンティーナよ。よろしくね、湊君」


「お、おはようございます……!」


 不覚にも、めちゃくちゃ緊張してしまう。


 なにせ目の前にいるのは、映画の中から飛び出してきたかのような超絶美人。


 こんな美女に話しかけられるなんて人生で初めての経験だ。


「な、ナイストゥーミーチュー……! アイム……ミナト……?」


 気づいたら、変な片言英語で挨拶していた。


 沈黙。


「……え?」


 マリアの綺麗な眉がピクリと動く。


「兄さん、落ち着いて。マリアさん、日本語話せるから」


「そ、そうなのか!? なら最初に言えよ!」


「普通に日本語で話しかけてたでしょ……」


 柚希がため息をつき、マリアがクスクスと笑う。


「ふふ、面白い子ね。画面越しで見たときも思ったけど、やっぱり楽しい子みたいね。湊君、緊張しないで。これから長い付き合いになるんだから」


「え、あ、はい! よろしくお願いします!」


 なんかもう訳が分からないが、とりあえず元気よく返事しておく。


 マリアは俺と柚希を車に促し、俺たちは後部座席に乗り込んだ。


 ドアが閉まると同時に、車は静かに動き出す。


「じゃ、出発するわよ。二人とも準備はいい?」


「おう! 俺はバッチリだぜ!」


 ボストンバッグを誇らしげに抱えながら答える。


 すると、柚希がこめかみに指を当てながら、呆れたように小さくため息をついた。


「兄さん、それ、本当に持ち物大丈夫?」


「大丈夫に決まってるだろ。着替えとスマホと歯ブラシ、完璧なセットだぜ?」


「それ旅行じゃなくて避難レベルだから……」


「え?足りない?」


 俺が首をかしげると、柚希は目を伏せて小さく苦笑した。


「まあ……兄さんなら、なんとかなるか」


「おい、今のは信頼のセリフか?」


「うーん……七割くらいは」


「微妙だな!?」


 マリアは後部ミラー越しに笑いながら、ハンドルを握る。


「そういえば、湊君はこの旅、どんな気分?」


「おう、ワクワクしてるぜ! なんたって、ついに海外進出だからな!」


「海外……?」


 柚希が静かに額を押さえた。


「だって、俺の妹が外国の美人さんと友人になってこうして一緒にでかけるんだぜ? これはもう異国の地に乗り込むってことだろ!」


「兄さん、それ……」


 マリアが微笑みながら、アクセルを踏み込む。


「それは着いてからのお楽しみよ」


 その言葉とともに、車はさらにスピードを上げ、俺たちの見慣れた町並みは、徐々に遠ざかっていった。


 ……うん、俺、だんだん不安になってきたぞ!?





車内は快適そのもので、座席のクッションがやたらとフカフカしている。さすが海外の高級車、とか思いながら、俺はぼんやりと流れる景色を眺めていた。


「……それにしても、本当に静かだな、この車」


「ええ。特殊な防音加工が施されているから、外の音はほとんど入らないの」


 マリアが微笑みながら説明する。


「へぇー、すげぇな。やっぱ海外仕様は違うぜ」


 俺が感心していると、柚希が横で小さくため息をついた。


「兄さん……まだ海外だと思ってるの?」


「え、違うの?」


「……もういいわ」


 柚希が諦めたように目を閉じる。


「まあまあ、いいじゃない。楽しみは後に取っておくものよ」


 マリアが楽しげに言いながら、スピードを上げる。


 車は市街地を抜け、やがて見慣れない森の中へと入っていった。


「お、おいおい、なんかすごい山道なんだけど!?」


「大丈夫よ。この先に目的地があるから」


「目的地って……観光地?」


「さあ、どうかしら?」


 マリアの意味深な笑みが気になる。


 俺は少し不安になりながらも、まあ柚希が一緒なら大丈夫だろうと考えることにした。


 しばらく走ると、目の前に立派な門が見えてきた。そこには古びた洋館のような建物が佇んでいる。


「おお、すげぇ! ここ、なんかの映画で見たことある気がする!」


「それはいい表現ね。この場所、ある意味で映画の舞台みたいなものだから」


「マジか! じゃあ観光地で決まりだな!」


 俺が興奮気味に言うと、柚希が再び深くため息をついた。


「兄さん、もう何も言わないわ……」


 車が門をくぐり抜けると、建物の正面に停まった。


「さあ、着いたわよ」


 マリアが軽やかに車を降りる。


「ふぅー、やっと着いたか!」


 俺も後部座席から飛び出すように降り、伸びをする。


「で、ここは? ホテル? それとも海外の寄宿学校的な?」


「ふふ、湊君。この先であなたは、もっと驚くことになるわ」


「お、おう? なんかワクワクしてきた!」


 そうして俺たちは、マリアに続いて建物の中へと足を踏み入れた——。

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