いらない手作り弁当〜本当に欲しいモノ〜
とある高校の教室の昼食時間。各々が仲の良い者同士で固まり会話を楽しんだりしてる。
そんな中、女生徒が一人ぼっちで食べている。彼女は入学直前に入院した。二週間程した彼女の初登校時、女子たちの間ではグループが形成されてた。乗り遅れてしまった彼女に友人はいない。
一つ前の席では男子生徒が友人と食べてる。友人は別のクラスの者だ。
彼女は男子生徒が気になっている。なぜなら学校生活に遅れた彼女の面倒を席が後ろという縁で色々と見てくれたのだ。まだ恋愛感情とまではいかないが、それに近い感情を抱いている。
食事を済ませた友人は教室を去っていく。すると彼が振り返る。
「まだ食べ終えてないんだ?」
「あっ、うん」
「あのさ、前から気になって事があるんだけど」
「なにかな?」
「もしかして自分で作ってる?」
「あっ、うん。でも、どうして?」
「玉子焼きの形が歪かなって」
「……」
「ごめん。ちょっとだけだからさ。気悪くさせたよな?」
「べっ、別にっ」
「つい母親のヤツと比べちゃってさ」
「お母さんは上手なんだねっ」
「やっぱ怒ってるよな?」
「えっ、どうして?」
「お母さんは、って言ったからさ。お母さん、ってだけで良かったじゃん。言われた事への皮肉かなって思っちゃってさ」
「違うよっ!」
彼女に毛頭そんな気はなかった。彼女は赤面し俯いてしまう。
「あっ……いつか好きな人の作った弁当食ってみたいなって。そう思ってたら調子に乗ったかな。ごめん」
「えっ! あっ、うん」
この後、二人の会話は途切れた。
数週間後のお昼時間。彼は机に伏せている。気になる彼女は背中を突っつく。彼が頭を上げ振り返る。
「体調悪いの?」
「いや。弁当忘れてさ。やることなくて」
「そっか」
「昼食楽しんでよ」
「食欲なくて。良かったらどうぞ」
「いいの?」
「うん」
「本当いらない? 弁当」
「……あっ、うん。いらない弁当っ」
彼女は弁当の蓋を開け箸を渡そうとする。その際、二人の指先同士が触れ合う。思わず彼女は手を引っ込める。箸が落ちそうになり、掴もうと彼女の手も一緒に握ってしまった。
「あっ、ごめん」
「ううんっ」
彼女と彼は見つめ合う。すると彼女はすぐに目を逸らし彼の手前に弁当を両手で差し出す。
「食べてもいいんだよな?」
「どっ、とうぞっ」
「いただきます」
そう彼は言うと食べ始める。そして、あっという間に平らげた。
「ごちそうさま。美味かった」
彼が満面の笑みを浮かべる。その瞬間、彼女の胸で何かが弾けた。