命の誕生
見渡す限りの景色は真っ白に覆われている。
ちらちら降っている白い物体は、見ているだけで
わくわくした気持ちになれるもの、そう、雪だ。
雪だるまを作ったり、そり遊びをしている者は
ここにはいない。ここは人間のいない世界…
太陽の光がある一点を照らしている。
小さなかまくらみたいな雪で作られた洞窟の中、
生きているとまるで存在を指し示すかのように。
真冬のこの厳しい寒さの中、二つの命が誕生していたのだ。小さな二つの命が目を開ける。二頭の瞳に映るのはまだぼんやりとした世界。立ち上がろうとするその身体もまだ不安定で足元もおぼつかない。だが懸命に今を生きようとしていることだけは必死に足を
動かしている二頭の姿を見れば誰しも分かることだろう。温め合うように寄り添っているその二頭、それはオオカミだ。この二頭はまだ知らない世界…これから歩んでいく世界。これからどんな道を歩んでいくのだろうか。それはきっと素晴らしいものであるに違いない。強くてその強さの中に優しさも兼ね備えている、
守りたいと愛情いっぱいに育てようと最後まで、いや、この先もずっとこの子達の幸せをただただ願っている、ある一頭のオオカミが産んだのだから…
・・・・・・・
森の中を颯爽と駆けぬけていく一頭のオオカミ。
しなやかで滑らかなその銀色の毛は風に流れるように
揺れている。守り抜くべき者達のために今日も狩りを彼女。今、追いかけているのはさっきまで寝ていた鹿である。気付かれないようにそーっと近付いたはずだったのだが何かの気配に気付いたのかあと一歩というところでバチっと目をあけ逃げられてしまった。
逃がすまいと必死に追いかけるが相手も捕まりたくないという一心で全速力で逃げる。
三歩………もう二歩………あと一歩…というとき視界が
ぐらりと揺れた。ドスン…という衝撃音とともに
目を開けると何かの穴に落ちたんだということが
理解できた。上を見上げると五メートルはあるだろうか、その先に地面が見えた。あのとき、思いっきり
狙っていた獲物がジャンプしたのは落とし穴が
あることが分かっていたのか…と頭の中で考えた。
ということは…落とし穴を掘ったのはあの鹿か…それとも他の動物か。そんなことより早く愛する者達の所へ帰らなければ。登るしかない。四本の手と足の爪を立て必死に彼女は登るが途中で落ちてしまう。何度も落ちては登ってを繰り返し、ふと空を見上げると太陽が
顔を出していたことにより朝が来ようとしているのが
分かった。あきらめない彼女だっだが体力はもう限界だった。寒さで体は凍え体温が奪われていく。