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第九十八話 継承

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

好きな魚はナマズ。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

好きな魚はマグロ。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

好きな魚は白身魚全般。


◇フュリス

エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』

小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。

仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。

好きな魚はシタビラメ。


◇ルネローザ

『薔薇爵家』の貴種森妖精(ハイエルフ)の令嬢。

翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。

その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付きエンゲージド』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。

残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。

魚全般が嫌い。


◇スニクスアルフ

俗に『古竜王』と呼ばれる神獣(チートキャラ)

元の主の成れの果てである世界樹を守っている。

翠玉のような鱗に覆われ大樹のような二本角が生え、後脚で直立し、五本指の前脚を持つ竜人のような体型だが、身長は約3000mもある超巨大な竜。




ギ ャ オ゛ ッ(ゴォオオオオ……)……」

(スニクスアルフの眼が潰れて──いや、全身が崩壊している……! アリエラ(ヤツ)の魔力の動きは警戒していたのに……! 制御が効かない……上空(うえ)に押し上げられる……ッ!! 何しやがったんですの……!?)


 粉塵爆発の発生から一瞬にも満たない間にスニクスアルフの眼は閃光によって潰れ、鱗や牙の隙間に侵入したバアル・ゼブブの蝿が炎に巻かれて絶命すると共に自爆、いかに強固な古竜王の鱗や牙といえど土台を破壊されては維持できず次々に散らばっていく。

 爆発して尚ピチカの【竜褥(りゅうじょく)の舞】による上昇気流は空気を巻き上げ続け、スニクスアルフとルネローザを灼き焦がしながら遥か上空へ昇り続ける。


「古竜王が()()()()で死にはしないでしょうけれど……」「操られているだけなのにこれ以上は気の毒ね」

 発生した火焔旋風に自らの魔力を追加して灼き続けていたアリエラだったが、全身の鱗が剥がれて皮膚が焦げ付き、翼膜が燃え尽き骨になっている有様を不憫に思い炎を吸収して鎮火させた。


……!?(フッ……) 攻撃を止めた!? 殺れスニクスアルフ!)

ガ……(ボココッ)グォオオ゛ッ!!」


 ルネローザの命令で眼だけを最優先で再生させたスニクスアルフはアリエラの姿を捉えると、飛行能力を喪失し落下を始めた身体で乱暴に腕を振るって攻撃する。


 しかし──


「「ガる゛ァアアア゛ッ!!(バゴォッ!)」」

 アリエラの双頭が同時に咆哮し、右側二本の腕で大きく振りかぶり強かに殴り付けると、竜鱗を殆ど失ったスニクスアルフの右前腕は粉々に爆破されてしまった。


「グォッ……ジェアアアッ(ビシュルルッ)!」

逃走(トンズラ)は許しませんことよ! 絞め殺してやりますわッ!!』


 すかさずルネローザは失われた前腕からイバラの束と薔薇のような捕食器を展開し、アリエラを絞め上げる。


チッ……(ギチチッ……)」「ワタクシが一体いつ逃げようとしたのかしら……ねッ!(ビシュウッ)

 手足を拘束されたものの頭部はまだ自由なアリエラは両の頭の右眼から熱線を放つが、スニクスアルフの巨大過ぎる身体と再生を始めた鱗に阻まれた。


『オホホホホッ! 古竜王を相手に情けをかけるだなんて愚劣(クソアホ)ですわねェ〜! このまま地面と衝突(なかよし)させて差し上げますわァ!!』

 ルネローザは早くも再生を始めたスニクスアルフの翼を飛翔ではなく、地面への落下の加速に使うために広げる。


「クッ……ワタクシとした事が……」

「ピ  チ  カ  ッ ! ! !」

 それに対してアリエラは無理に脱出する事を諦めて爆発のような大声でピチカを呼んだ。


『(……!? この局面でなぜ手羽先(ピチカ)を?)

 何か知りませんけれど企みごとぶっ潰すまでですわァ!!』

 ルネローザの声に合わせてスニクスアルフは前腕のイバラを振り上げ、アリエラを叩き付ける準備をしながら地面に向けて落ちて行く。


「〈葬送帝(アヌビス)〉と!」「〈豊穣女帝(イシス)〉をッ!!」


──────────


「おいピチカなんか呼んでるぞ!」

「アーちゃん今ドコ!?」


 大声は世界樹の頂点に届いたが、粉塵爆発からの避難に集中していたピチカはアリエラの現在地を見失っていた。


「護国竜様の右手だ! イバラに巻き付かれてる!」

「んー……(スチャ)あ! いたいた! リスちゃん目ェいいね!」


 ピチカはフュリスの言葉を頼りに望遠鏡を取り出して注視する事でアリエラを見つけ出し、指定された術の触媒を神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】を発動しアリエラに装備させた。


──────────


「(まずは〈葬送帝(アヌビス)〉からね……!)

 ──“死兆の星詠み”…………(ドロッ……)

 

 指定した二つの黄金髑髏を双頭に載せたアリエラは、まず右頭のオオカミ獣人の黄金髑髏の眼窩に光を灯らせると、魔力を込めた声で詠唱を開始。


 星と月の光に照らされ地上に落ちたスニクスアルフの影は深みを増し、ドロリとした沼のような粘度を帯びて蠢き始める。


手印(ハンドサイン)無しで装備の換装を──!? 早着替えはあの害鳥(ピチカ)の術!? 欺瞞(ブラフ)か! 小賢しいマネを!!)

 ルネローザはピチカへの呼びかけで【楽々御粧し(ドレスアッパー)】の使い手を看破したが、時既に遅くアリエラの詠唱は止まらない。


「──“連なる賢者”……(ゴボッ)


 二節目の詠唱で影の沼は泡立ち、巨大な黒い腕が何本も伸び、激突寸前だったスニクスアルフの身体を受け止めた。


「ゴオォッ……!?」

 驚いたスニクスアルフは黒い腕を振りほどいて脱出しようとするが、吸血鬼(ヴァンパイア)に成りかけている状態では屍を自在に加工する〈葬送帝(アヌビス)〉の力には逆らえず、満足に上昇する事も落下する事も許されず踠く事しかできない。


『(この感じは──マズい!!)

 スニクスアルフッ!! 〈真竜の息吹(ドラゴンブレス)〉で薙ぎ払えッ!!』



 ── 〈真竜の息吹(ドラゴンブレス)〉──

 それは真竜(ドラゴン)の火焔の吐息に圧縮した高密度の魔力を合わせた破壊の奔流。

 形ある存在の殆ど全てを死滅させるその力は、生命力の権化であるその肉体と合わせてドラゴンを“完全生物”と形容される要因となっている。

──────────────────

 


グギャオオオオオ(キュイィィ……)──カハッ……!?」

 ルネローザの命令に従って息を吸い、上下の牙の間に翠色の魔力塊を生成したスニクスアルフであったが、突如として呼吸困難に陥り魔力を霧散させた。


『こ、これは……毒!? ハッ……! 長虫がァッ!』

 異変を感じたルネローザはいつの間にかスニクスアルフの首から右腕に巻き付いていた白く長い縄のようなモノに気付く。


 レイメイ(蛇龍)である。


ふぁふぁむひほふぁ(長虫とは)ひっへいれふね(失敬ですね)……」

 スニクスアルフの首に深々と毒牙を突き立てているため上手く喋れていないが、レイメイは毒の注入と吸血は確実に行う。


グ……ゴ……ォ……(シュオォ……)

『ク、害虫(クソムシ)がッ!』


 スニクスアルフと一体化したルネローザも毒と吸血の影響により萎れて動きが鈍る。

 ルネローザは『薔薇の真祖』──亡者(アンデッド)であるため通常より効き目は薄いが、末端のイバラだけでは第二形態のアリエラに有効打を与える事は叶わない程度には弱ってしまう。


「──“叢林(そうりん)の隠者”……(ジャキッ)」「でかしたわレイメイ」


 その隙に三節目の詠唱が行われ、影の沼からは次々と巨大な短剣・鋏・鉗子・薬品の壺・縫い針・真っ赤な包帯などの加工道具を持った黒い腕が姿を現した。

 

 ルネローザへの脅しなのかアリエラはわざと音を出して道具を見せびらかす。


「カ……ア゛ッ…………」

 スニクスアルフは加工道具によって素早く丁寧に腑分けられて関節ごとに解体され、内部で一体化していたルネローザは壺に入っていた薬液の作用によって強制的に分離させられて引き摺り出され始めた。


『ぐウぇあッ……! なんですのこれはッ(ズリュリュリュッ)!?

 止めろッ!! スニクスアルフがどうなってもいいんですの!? 死んだら国際問題(オオゴト)なんじゃありませんこと!?」

 

 ルネローザはスニクスアルフの頸部から露出した翠色の竜玉に萎びたイバラを絡ませて必死に脅しをかける。


 しかし──


「──“聖餐の秤”…………(グゴゴ……)」「古竜王を『ゲダの指』に渡すくらいなら多少国際問題になろうが始末するわ。気の毒だけれどね……」


 腹を括ったアリエラの四節目の詠唱により影の沼は一層深い闇の穴となり、スニクスアルフから摘出されたルネローザのイバラと幾つかの頭が落ちていく。


「(この術は──何か不味(マズ)い!!)

 導師ッ!! さっさと助けに────(チュンッ パァンッ)ッ!?」


 進退窮まったルネローザが貴種森妖精(ハイエルフ)形態であった頃に左手であった部分の葉の棘にはまった黄金の指輪に魔力を込め、『導師ゲダ』の左腕を召喚しようとしたその時──銀のドングリが指輪を弾き飛ばし、一瞬遅れて銃声が響いた。


──────────


「当たった……!」

「マジじゃん! リスちゃんスッゴーい!!」


 世界樹の頂点付近から狙撃したフュリス本人と一応観測手(スポッター)を務めていたピチカも驚いた。


──────────


「フュリス……ッ!!」

 ルネローザも誰が狙撃したか察し、忌々し気にその名を呼ぶ。


(さすがに“へなちょこ”呼ばわりはできなくなったようね)

「……──“其は冥道の支度人“

 ──〈葬送帝(アヌビス)〉!」


 詠唱の完遂と共に、闇の穴からは腕ではなく巨大なワニのような牙の生えた長い大口が出現し、解体されたスニクスアルフの身体やルネローザのイバラを呑み込む。


「(アテクシの身体が……消失している!? 再生できない……! この身体はもうダメですわ……!)

 くッ……!(グギギッ……) チクショオォオオオオ(ハラハラハラハラ……)ッ!!!」


 ルネローザは心臓部や主人格を務める頭を呑み込まれる前に精一杯身体を上に向かって伸ばし、その身体を大量の薔薇の花吹雪に変身させて四方八方へと散って行き、逃げ出した。


「チッ……! 逃げられた……まあ()()()()()()()()()。今はスニクスアルフの治療が優先ね」「レイメイ! 手伝って頂戴」

「わかりました。しかし……アリエラさんに斃されていれば楽に死ねたものを……」


 アリエラとレイメイは追撃を早々に止め、憐れむような目で花弁となって散って行くルネローザを見た。



 ◇



「ハァハァッ……糞ッ! 指輪が……エルトート御姉様に叱られる……! フュリスめ……!!」

 

 世界樹の下から外れた森の中──花弁に変身していたルネローザはハイエルフの令嬢の姿に戻ったが、先ほどフュリスの狙撃によって指輪ごと弾き飛ばされ指の欠けた左手を忌々し気に見つめる。

 強敵である事は分かっていたアリエラから受けた攻撃よりも、生前から格下と見下していたフュリスの攻撃による傷の方が痛むようだ。


ずァああ゛ッ(ザグッ)! 左手(こんなもの)今はもう要らねぇですわ!! 導師! さっさと繋げろォ!!」

 ルネローザは手刀で左手首を切り落とし、ついでに断面から溢れる赤黒い血でできた血溜まりの周辺に指輪を紛失した際に使う緊急用の血文字を描き始める。


 血文字が完成しようとしたその時──、ルネローザの周囲に()()()()()()()()が舞い始め、血溜まりに群がると口吻を伸ばして血を吸い始めた。


「蝶……? まさか────(ブブブブブ……)……!」

 正体を察したルネローザが走って逃げようとした矢先、大量の蝶と蝿が寄り集まり蟲人の貴公子のような姿に擬態する。


「逃がしませんぞ。大人しく心臓を差し出して下さるなら苦しめはしないと約束──(ビュンッ)

「馬鹿じゃねぇですの!? 『虫ケラの真祖』なんかに遅れを取るとでも思って!?」 


 ルネローザは現れたバアル・ゼブブの言葉を遮って袖口から伸びたイバラの鞭を振るうが、接触した部分の僅かな蝶と蝿しか潰す事はできず、バアル・ゼブブは一瞬バラけた後すぐに元の姿に戻った。


「残念。交渉決裂ですな。マザー! こちらへ」

はい。(ギチャチャ……)ゼブブ卿。マザー・フィオーラ参りました。……本当に私が頂いてよろしいのですね?」


 バアル・ゼブブが茂みに向かって声をかけると、既に顎を左右に開き両手の鎌を展開した状態のマザー・フィオーラが涎を垂らしながら現れた。


「構いませんぞ。マザーの方が適性が高そうですしな」

「では遠慮なく頂きますわ(ギチャギチャッ)


「ひッ!? な、なんですのアナタ! 気色悪い!」

「ウフフ……『薔薇の真祖』を継ぐ者ですわ。これで私は王妹殿下の直属に……ウフフッ(シャッ)!」


 マザー・フィオーラは素早く鎌を振るうが、最初から鎌を見せていた事もありルネローザは間一髪で回避する。


「ハッ! 見え見えですわァ! このまま──(シャッ)あグッ(ドシャッ)!?」

 そのまま走って森の中へ逃げようとしたルネローザであったが、足に異変を感じた直後、盛大にコケて顔面を強打してしまった。


「マザー。血溜まりを作らぬように注意してくだされ」

「畏まりましたゼブブ卿。分身(こども)たちに血を啜るよう徹底させますわ」


「な、何──アテクシの足……!?」

 ルネローザが足の異変を確かめようと顔を上げると、目の前の地面に脛の中ほどから切断された自らの足が転がっていた。


ギギギギッ……(バリバリぐちゅ)

「ひィッ!?」


 ルネローザが拾って接合させようかと手を伸ばそうとした瞬間、大きく地味な色合いのカマキリの魔物──マザー・フィオーラの分身が切り落とされた足を咥えて咀嚼し、他数匹のカマキリは血溜まりに口を付けて啜り始める。


「ウフフ……血の一滴に至るまでしっかりと味わうのですよ。心臓は本体(わたし)が頂きます」

「や、止め──(シャッ)あ゛っ…………(ベキッバリッ)

「……命乞いが通用する段階はもう過ぎましたぞ」


 マザー・フィオーラとその分身たちによる晩餐会はバアル・ゼブブ立ち会いの下静かに執り行われ、マザーが最後の一口を平らげると共に新たな『薔薇の真祖』が誕生するのであった。


◇『薔薇爵家の十五輪目・ルネローザ』

エルタナ聖王国の貴族『薔薇爵家』に産まれた十五人目のハイエルフの令嬢。享年197。

その裏の顔は『薔薇の真祖』にして『竜の血族』であり『ゲダの指』幹部『指輪付き』の一角『凌爛のルネローザ』であった。

『竜の血族』としての力を解放すると、百頭樹竜(ラドン)の性質が発現する。

自らを吸血鬼に変えた『竜血のエルトート』を“御姉様“と呼び慕っていた。

聖女候補であった事や、竜と植物の性質を併せ持つ体質を利用して『古竜王スニクスアルフ』と融合して『竜血のエルトート』の最強の眷属になる事を目論んでいた。

汚い言葉遣いは生前からのもの。

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