第九十七話 皆さんご存知の……
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
七日ほどは眠らなくても平気。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
徹夜は二日が限界。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
キョンシーになる前の最長不眠記録は十日。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
三徹が限界。
◇ルネローザ
『薔薇爵家』の貴種森妖精の令嬢。
翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。
その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付きエンゲージド』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。
残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。
生前は徹夜した事が無かった。
◇スニクスアルフ
俗に『古竜王』と呼ばれる神獣。
元の主の成れの果てである世界樹を守っている。
翠玉のような鱗に覆われ大樹のような二本角が生え、後脚で直立し、五本指の前脚を持つ竜人のような体型だが、身長は約3000mもある超巨大な竜。
「(急に夜になった……!? いや太陽が暗黒領域に呑まれ──いや! 好都合! 今のうちに……!)
ジェアァア゛ア゛アッ!!」
突然消失した太陽にはルネローザも困惑したが、吸血鬼である自分にとって圧倒的に有利な状況を利用すべく、灼き焦がされた身体や頭を急速に再生させてスニクスアルフの口内へ戻って行く。
「しまっ──この魔力は……!」「〈暗澹帝〉の……!? なるほど、姉上擬きと協同作戦だったとはね……!」
アリエラは遥か遠方に感じる太陽を消失させた闇の魔力が自らの双子の姉──現在は『ネフェル』と名乗っているがアリエラは知らない──の発動した〈暗澹帝〉によるものであると感知した。
「はァん……? ああ、例の新入り……そう言やアナタの御姉様でしたわねェ!
偶然でしょうけれど、御礼の手土産としてアナタの死骸を持ち帰ってやりますわ〜ッ!!」
「アギッ……ガァアア゛アアッ!」
口内からルネローザが威勢良く啖呵を切ると、スニクスアルフは頭を抱えて苦しみ出し、全身を覆う翠玉の鱗の先端は薔薇の棘のように紅く染まり尖り始める。
「チィッ!」「かァッ!!!」
スニクスアルフが吸血鬼化する兆候を見せた瞬間、アリエラは双頭から爆発的な火焔と轟雷を放ち攻撃するが──……
『────オホホホホッ! 火力不足なんじゃありませんこと?』
第二形態のアリエラですら豆粒ほどの大きさにしかならないスニクスアルフの顔の表面は僅かに焦げる程度の損傷しか与えられておらず、その僅かな損傷を負った鱗もすぐに再生するか生え変わるかして修復された。
「くッ……!」(これ以上火力を上げると世界樹が──〜ッ!!)
想定以上に強靭な鱗に対する驚愕と、巻き添え被害への懸念による隙をアリエラが見せた瞬間、スニクスアルフは5本指の右前脚で握り拳を作ってアリエラを力一杯殴り付ける。
棘だらけの拳に殴られたものの、運良く棘と棘の隙間で殴られたアリエラは全身を打撲しながらも世界樹の頂点付近に叩きつけられた。
もちろんルネローザに操られているからという理由もあるが、口内で散々暴れたアリエラに対するスニクスアルフ自身の怒りが込められている拳でもあった。
「ギャオォオオオオッ!!」
『オホホホホッ! もう少し巨大化できませんのォ?
殴った感触が足りないですわァ〜!!』
「調子に乗っていられるのも──」
「ちょ、ちょっとアナタ! 一体何が起きているの!? スニクスアルフに何をしたの!?」
アリエラが素早く起き上がり、反撃を開始しようとしたその時、腰が引け気味になりながらも『星華隊』リーダー格の聖女がアリエラに詰め寄る。
その頭に咲いた輝く桃色の牡丹と、翠の髪と瞳、若草色の長衣を身に纏った姿でアリエラは相手の立場を察した。
「そうよね……別にワタクシが倒す必要は無いのよね」
「ちょっと聞いているの!?」
『星華隊』の存在を思い出したアリエラは右頭を向けて話しかける。
「古竜王スニクスアルフが今『薔薇の真祖ルネローザ』に身体を乗っ取られているのだけれど、『星華隊』なら女神の力を使って何とかできるのではなくて? ワタクシだけでは被害を出さずに事を収めるのが困難そうなのよね。お願いできないかしら」
「は、はぁ……?」
「乗っ取られた!?」「そんな事が……」
「ルネローザですって!?」「嘘でしょ……」
謎の巨大魔人に加え、正気を失ったスニクスアルフについての説明を一気に行われた『星華隊』は騒めいた。
特に身内の大逆を知らされた『薔薇爵家』出身の聖女は動揺している。
「狼狽えている暇は無くてよ」「……で? どうにかできそうかしら?」
アリエラは身体の動作確認をするような仕草を取って追撃をしてこないスニクスアルフを横目で視界に入れながら『星華隊』に協力を要請した。
「む、無理よ……『星華隊』が女神様の器として機能するのは託宣を受け取る時だけで……今、女神様は休眠なさっているから……」
リーダー格の聖女は自信無さげに歯切れ悪く答える。
「そう……なら奇跡でも使って被害を抑えてて頂戴ッ!」「あ、それと世界樹の下に蒼い女面鷲が居るから連れて来て頂戴!」
返事を待たずにアリエラは再びスニクスアルフに攻撃をしに雷と化して飛び立った。
「えぇ……? ッじゃあとりあえず皆で──……今度は何!?」
『星華隊』がワケが分からないなりに対処しようとした瞬間、また別の何者かが足元の枝葉から飛び出して来た。
「よーし着い……なんで夜になってんの!? 早くない!?」
まず自力で飛行して来たピチカが現れ──
「──……アリエラさんは応戦中ですね」
「護国竜様のお姿が……!?」
レイメイ・フュリス・シルヴィオは巨大な蜻蛉のような蝿の魔人──〈蝿の王・二世〉に乗って世界樹の頂上に到着した。
謎の集団に面食らう『星華隊』であったが、次期聖王候補として面識もあるシルヴィオを見つけ、一斉に駆け寄る。
「シルヴィオ卿ッ! 何事ですか!」
「あー……護国竜様が『薔薇の真祖』であったルネローザ嬢に──」
「それはもうあの魔人に聞きました! 一体何者なんです──……魔王軍……?」
『星華隊』のリーダーは自分で質問を飛ばしながら“獅子面の魔人”と“蝿の魔人”という組み合わせで謎の集団の正体を察した。
「おや……まあ隠している場合でもありますまい。
我輩は魔王軍四天王『蝿蛆元首バアル・ゼブブ』と申します。現状敵意は無いので是非ご協力くだされ」
「……マザー・フィオーラと申します」
「あの……私たちは一応冒険者として入国しているので……あ、特級冒険者『毒蛇姫レイメイ』です」
開き直って自己紹介を始め協力を要請するバアル・ゼブブとマザー・フィオーラ(分身)、一応不法入国ではない事を表明するレイメイとの間へ壁になるようにシルヴィオが割って入り、『星華隊』の説得を始める。
「私は女神様からの託宣や奇跡による援護が無い以上、ここは彼女らに協力して貰うべきかと愚考しますが……『星華隊』の皆様は如何お考えですかな?」
「くッ……良いでしょう。どう対処するか聞かせなさい……」
シルヴィオとしては本当に自分の意見を包み隠さず言っただけであったが、『星華隊』はこの緊急事態においても自在に女神の力を引き出せない自分たちを遠回しに責められているように感じ歯噛みした。
「ご協力感謝します。では『星華隊』の皆さんはスニクスアルフの周囲に向かって奇跡でも魔術でも良いので大量の花粉を飛ばしてください。それと地上の森林や世界樹が火事にならないように保護を」
協力を得られると見るやレイメイは『星華隊』にツカツカと歩み寄り、アリエラと小競り合いを続けるスニクスアルフを指差して指示を出す。
「花粉って……あ、わかった! 花粉症にして弱らせるんでしょ!」
「そんなワケ無いでしょ。ピチカさんには粉塵や火が散らばらないように風の結界を張ったり、アリエラさんの装備を換装したりして欲しいんですが……できますか?」
「あー……がんばる!!」
「頑張ってください。ゼブブ卿は──」
「〈蝿の王・九世〉ですな。我輩は一足先にアリエラ殿に作戦を伝えておきましょう」
バアル・ゼブブはレイメイの考えをいち早く察すると、微粒子と見紛うほど小さく異臭を放つ蝿の大群となってアリエラの方へ飛んで行った。
「さすがゼブブ卿……ではシルヴィオ卿は騎士団を動員してマザー・フィオーラと──」
「──わ、私は!? 私はどうすればいい!?」
次々に役が割り振られる中、明らかに攻撃力や対応力に欠けるフュリスは所在無さげにレイメイに詰め寄る。
「あー……フュリスさんはルネローザの本体が露出した瞬間に狙撃できるように魔力を溜めててください。距離があるから色々な意味で難しいですよ。ピチカさんも結界を張り終えたらフュリスさんを手伝ってあげてください」
「わ、わかった!!」
「オッケー!!」
逡巡した後に出された指示に従ってフュリスが魔力を銃の魔石に銀のドングリ弾を射出するための風の魔力を込めるのを確認すると、レイメイは自らの下腹部を摩りながら再びピチカに向き直った。
「ではピチカさん。せっかく夜になった事ですし、第二形態になって加勢したいので呪符を剥がしてくれますか?」
「それはいいんだケドどーいう作戦なの!?」
「……第二形態になった私の〈白毒雲〉には毒素の他に微細な金属粉が大量に含まれているんです。そこに花粉やゼブブ卿の大群が混ざると──……」
「あー! それ聞いたコトある! よッし行こっか!」
レイメイからの耳打ちで作戦内容を理解したピチカは無動作で【楽々御粧し】を発動して呪符を剥がし、分離したレイメイの身体の肩を掴んで飛び立つ。
分離した頭が変身したレイメイ(蛇龍)も頭から尻尾の先までの長さだけならスニクスアルフに匹敵するほど巨大化し、口から毒雲を漏らしながら飛んで行った。
◇
『……! チョコマカと……!』
「ギャオォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」
バアル・ゼブブから伝令を受けたアリエラは敢えて炎や電撃で攻撃する事を一切止め、飛び回りながら魔力で強化した四本腕でスニクスアルフを殴り始めた。
スニクスアルフに比べれば豆粒ほどの大きさのアリエラだが、本気を出せば地殻を粉砕するアリエラの拳は決定打とはならずも芯まで響き、体内に潜むルネローザを苛立たせる。
「全く効かないというワケでは無さそうなのだけれど……」「ゼブブ卿。後どれくらいかかりそう?」
中途半端に攻撃が効く相手への時間稼ぎに焦れたアリエラはバアル・ゼブブを急かす。
「そろそろ──……来ましたぞ」
「──〈真・白毒雲〉ッ!!」
バアル・ゼブブが周囲を確認すると、本体よりも早く押し寄せて来た大量の毒雲がスニクスアルフの身体を包み込んだ。
「うぉおおおおおおッッッッ!」
続いてピチカも手足が伸びるレイメイ(身体)を掴んで毒雲を吸わないよう遠巻きに円を描くように飛ぶ。
命懸けの状況であるため、現役の聖女であった頃よりも真剣に女神頼みをした結果、その速度は音速を軽く超えた。
超音速で円周軌道を描きつつも、身体に捻りを加えた舞を『風の女神』に捧げる事で吹き寄せる風が毒雲を集める。
『クソ鬱陶しいですわ! なんにも見えやしませんじゃ──クソぁ!!』
視界を白濁した雲に遮られたルネローザは雲を散らそうとスニクスアルフの巨大な竜翼を羽ばたかせようとしたが、再びアリエラに殴り付けられ阻害された。
「(回って回って……生クリームを練ってソフトクリームに変えるみたいなイメージ……)
……ッよし! できた! じゃあ一旦逃げるねー!」
その隙にどんどん加速して行くピチカが周囲を三周した瞬間、積乱雲を発生させる奇跡【竜褥の舞】が成就した。
それと共にピチカは事前にレイメイに指示されていた通り“雷が発生する前に”上空へ昇って行く積乱雲から一目散に世界樹へ引き返す。
『! 逃がすとでも──んガぁああ゛ッ!』
ルネローザはピチカを追おうとするが、いつの間にかスニクスアルフの頭部に移動していたアリエラに殴り付けられ、苛立ちをぶつけるように攻撃を振るうが毒雲に紛れるアリエラを正確に捉える事ができない。
「そう焦らずとも……」「すぐにでも晴らして差し上げて──……よッ!」
アリエラはルネローザに聞こえないような小声で呟きつつ、全身を魔力で保護した上で、スニクスアルフを傷付けるにはあまりにも儚い電流を指先に発生させた。
『何を……──』
何か目隠しや隔離以外の企みをルネローザが察した頃には時既に遅く、一体化したスニクスアルフ越しの視界は烈しい閃光に塗り潰される。
・大量に舞う有機粉末(花粉)
・燃焼を助ける金属粉
・可燃性ガスを撒き散らしながら周囲を飛ぶ蝿の大群
……これらに満たされた空間で電流を発生させた場合に起きるピチカも知っている現象、その名は──……
“ 粉 塵 爆 発 ”
◇ 〈蝿の王・二世〉
バアル・ゼブブの飛行能力特化形態。
人を複数人乗せて飛べるほど巨大な蜻蛉のような姿の蝿を産み出す。
単なる高速飛行はもちろんの事、急発進・急停止・停止飛行も自在にこなす。
暴走するアリエラと戦っていた際、必要に駆られて誕生した。
◇ 〈蝿の王・九世〉
バアル・ゼブブの爆破補助形態。
可燃性ガスを排出する微細な蝿の大群を産み出す。
僅かな魔力や火力で着火し、蝿の並べ方によってある程度の指向性を持たせた爆破を可能とする。
中央大陸制圧中に市街戦で無駄な被害を出さないために誕生した。




