第九十六話 頂点へ
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
競技大会は観戦よりは参加したい派。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
競技大会は皆で観戦して盛り上がりたい派。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
競技大会は裏方の仕事をコッソリ覗きたい派。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
昔よくバカにされていたので競技大会は苦手。
◇ルネローザ
『薔薇爵家』の貴種森妖精ハイエルフの令嬢。
翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。
その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付きエンゲージド』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。
残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。
競技大会は流血沙汰になるようなものが好き。
◇
「あれは……!? 護国竜様が何故あんなに──」
『薔薇爵家』領内に単身コッソリと引き返したフュリスの父シルヴィオは珍しく驚愕の表情を浮かべ、世界樹の枝葉から顔を出し咆哮する『古竜王スニクスアルフ』を見上げた。
“護国竜様“というのは本竜にそのつもりは無くとも結果としてエルタナ聖王国を守護しているスニクスアルフへの敬称である。
シルヴィオがスニクスアルフの咆哮する先に目を向けると、『薔薇爵家』の城から熱気で風景が歪み煙が立ち込めている。
「火事か……!? 『薔薇爵家』の蒼生諸君! 緊急事態だ! 幼子や年配者は急ぎ避難を! 水や土の魔術が得意な者は消火の援護を頼む!!」
火の手を目視したシルヴィオはほぼ表情を変えずに声を張り上げ、周囲の住民へ避難と消火活動の協力要請をするが、住民は全く意に介さず上空で咆哮するスニクスアルフを見つめ続ける。
シルヴィオは一瞬、住民たちは恐怖で固まってしまっているのかと思ったが、待ち侘びた何かが現れたかのように爛々と輝く真っ赤な瞳を見て違うと理解した。
(冒険者ギルドの報告にあった南西大陸に巣食っているという『薔薇の血族』か……!)
すぐに臨戦態勢に入ったシルヴィオは腰に佩いた杖剣を抜く。
剣身は鋼を凌ぐほどに硬質化した細長い葉っぱで出来ており、柄頭に付いた翠の魔石によって魔術触媒としても一流の業物である。
「──!」「ギシャアア!」
「おロ゛ロロロ゛ォ!」「かァアアア゛ッ!!」
武器を抜いたシルヴィオに気付いた住民たちは口を裂けんばかりに開くと、鋭い牙の生えた骨肉の薔薇が満開に咲き、シルヴィオに一斉に飛びかかった。
「もはや手遅れか……──〈早贄の槍衾〉」
シルヴィオは特に慌てるでもなく、杖剣の切先を軽く地面に刺すと魔術を発動させる。
まず術者のシルヴィオを守る籠のような枝葉が生え、骨肉の薔薇を止めると、隙間から槍のような鋭い枝が勢いよく伸びヴァンパイアと化した住民たちの心臓を正確に貫く。
「ギャッ……!」「アがッ……」
「グゥッ……!?」「カッ……!」
弱点である心臓を破壊されたヴァンパイアたちは短い悲鳴の後青白い炎に包まれ灰となる。
「嫌な事をさせてくれるな全く……フュリスは何処に──……何者だ?」
フュリスを探そうと周囲の気配を探ろうとしたシルヴィオは近くの家屋の隙間にある茂みに隠れた異形の存在を感知した。
隠密を看破されたにも関わらず、声をかけられた存在は慌てる様子も無く姿を見せる。
「マザー・フィオーラと申します。故あって素性は明かせませんが敵では御座いませんよシルヴィオ卿」
茂みから現れたのは、アリエラを追って来たハナカマキリの魔人マザー・フィオーラであった。
「人花……では無いな。魔人かね?」
「ええ。そんな事よりも捕らえられた幼子や老人を救出したのですが怖がられてしまって……一ヶ所に集まって頂いているので結界か何かで保護して下さいませんか?」
魔王軍の方針と自らの母性本能に従ってルネローザに捕らえられていたエルタナ国民を救助に向かったが、悲鳴で拒絶されたマザー・フィオーラは悲しげに目線を落とす。
「そうか……いやしかし──……」
「フュリス様ならアリエラ様とご一緒の方が安全かと」
「なぜフュリスを──ああ……つまり彼女が『殲滅女帝』で……君たちは魔王軍か」
「察しがよろしいですね」
“異様に理性的な魔人”と“褐色肌の獅子獣人の女”という組み合わせでシルヴィオはマザー・フィオーラとアリエラの素性を看破した。
「……なぜエルタナにいるのかは後で聴こう。案内してくれ給え」
「畏まりました。こちらです」
シルヴィオはマザー・フィオーラの案内で襲い来るヴァンパイアたちを退けながら人質の救出に向かった。
◇
「ギジャオォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」
「オホホホホホホッ! 火元はこのアテクシですわよー! スニクスアルフ!!」
世界樹を脅かす火気に怒り狂った『古竜王スニクスアルフ』が現れて尚、ルネローザはその怒りを煽るように火を噴き続ける。
「何のつもりだルネローザ!!」
「何にせよ止めた方が良いですね──〈屠絲魘縛〉ッ!」
「ぐギギッ……カフッ……オホホッ……もう遅ェですわよ」
竜としての特性が発現して強靭になったとはいえ、弱点である銀とレイメイの金属性の氣によってルネローザの最後の首は斬り刻まれた。
「ギ ャ オ゛ ォ オ オ オ ッ ! !」
──が、火を放った張本人であるルネローザが斬り刻まれてもスニクスアルフは止まらず、大きく開かれた口から甘臭い樹液のような涎がボタボタと音を立てて落ちてくる。
その涎が未だに蠢くルネローザの首に触れると、100本の首は一斉に上空のスニクスアルフの口へ向かって伸び上がって行く。
「……! 狙いが読めたわ……! レイメイッ!!」
アリエラは蠢く首を爆発する拳で攻撃しながらレイメイへの強く短い呼びかけだけで指示を出した。
「なるほど……ピチカさん! フュリスさん! 私たちは外から援護しますよ!」
レイメイもアリエラの視線の動きでルネローザの狙いを察しピチカとフュリスの首根っこを掴んで闘技場から連れ出す。
「うおぉッ……おいレイメイ! 外からって──まさか! アリエラのヤツ護国竜様の口の中に入るつもりか!?」
「えぇ!? アーちゃんがウンチになっちゃうじゃん!」
「さ、さすがにそんな奥まで侵入しないとは思いたいですが……」
レイメイが近隣の家屋から家屋へと跳躍して距離を取る間にも、遠近感が狂うほど巨大なスニクスアルフの大口が火元である『薔薇爵家』の中庭を丸呑みにせんと迫る。
「ア゛ァア゛ア゛ア゛ォ……!」
世界樹の枝葉から翼の生えた身体を現したスニクスアルフは城壁や屋根を前脚で荒々しく破壊しながら、闘技場をアリエラやルネローザ諸共に鋭い牙の生えた大顎で咀嚼した。
「わ゛ーッ! ア、アーちゃんが!!」
「おいレイメイ!」
「二人共落ち着いてください。……瓦礫に揉まれたくらいでアリエラさんが致命傷を負うと思いますか?」
「あー……ね。平気そう」
「だ、だが完全体とやらになったルネローザも一緒に護国竜様の口の中だぞ!」
「おそらく体内から吸血してスニクスアルフを眷属にでもするつもりでしょう……ピチカさん、私の呪符を剥がして──」
「逃がしませんよッ!」「お覚悟をッ!」
完全体となって百頭樹竜と化したルネローザに対抗してレイメイが第二形態に移行しようとした時、メイドヴァンパイア二人が牙を見せながら立ちはだかる。
「チッ……片方はピチカさんに任せます!
──〈屠絲魘縛〉ッ!!」
「あグッ……!」
レイメイは掴んでいたピチカとフュリス離すと、難無くメイドの片割れをバラバラに斬り刻んだ。
「うぇッ!? も〜……うりゃッ!」
「ふッ──カハッ……!?
(いつの間にこんな大剣が……!? 装備の切り替えはこっちの女面鷲の術か……!)」
残りのメイドはピチカに襲いかかり、明らかに空振りの距離感で放たれた蹴りを鼻で笑ったのも束の間、【楽々御粧し】で突如ピチカの脚に装備された蒼玉の大曲剣によって首を切断される。
「メイメイ トドメ刺して〜」
「ん……では改めて──……」
「ン゛ッ……グゥヴ……ン゛────ッ!」
レイメイが残った身体を糸で斬り刻んでトドメを刺した頃、スニクスアルフは闘技場をアリエラやルネローザごと頬張ったまま、世界樹の枝葉の中へ登って行く。
「マズいな……もう護国竜様が世界樹の中へ戻ってしまうぞ! 変だぞ早すぎる!」
「いつもは違うの!?」
「いつもならその場で咀嚼した火元を呑み込むまで移動しないハズだ! なぜこんな早く──……アリエラか!!」
「十中八九そうでしょうね……」
「あ〜……ね。絶対そうだわ」
三人は苦しそうに去って行ったスニクスアルフの様子を思い出し、アリエラとルネローザが格闘しているのだろうと察したが、スニクスアルフが苦しんでいる主な要因はアリエラの方だろうという謎の確信があった。
「と、とりあえず『エンニル教団』や『聖王宮』に事情を説明して掛け合うぞ! その前に心苦しいが周囲の吸血鬼の排除を──……いなくなってるな?」
フュリスがピチカとレイメイに協力を仰いで周囲を見渡し気配を探ったが、家屋や道端には灰が積もるばかりで敵対者は見当たらない。
「おそらくマザー・フィオーラが始末してくれているんだと思います」
「そうか! それは助か──……付いて来てるのか!? 冒険者のお前らはまだしも彼女はその……純粋に魔王軍構成員だろう!? ここはエルタナ領内だぞ!?」
「ま、まあまあ! 緊急だし! そういや後でまた来る的なコト言ってたね」
「まあ……そうだな! よし! じゃあ世界樹まで連れて行ってくれ! 先方がゴネたら多少武力行使しても構わん!」
「話が早くて助かります。ではマザー・フィオーラにも同行してもらって行きましょうか。マザー!」
少しでも確保しておきたいレイメイが周囲を見回し呼びかけると、三人のいる家屋の屋根にマザー・フィオーラが静かに跳躍して来る。
「状況は概ね把握しております。それから──」
「──私も同行しよう」
自分がそこにいて当然とでも言いたげな平然とした様子のマザー・フィオーラが少し振り返ると、魔術で急成長させた植物の足場に乗ったシルヴィオが現れた。
「父上ッ!? なぜここにいらっしゃるのです!?」
「ん…………少し胸騒ぎがしてな……」
当然、うまく言い包めて帰らせたと思っていたフュリスは驚いてシルヴィオに詰め寄る。
「マザーと一緒に行動しているという事は……」
「……また魔王軍バレしちゃったカンジ?」
レイメイとピチカは呆れたような視線を向けるが、当のマザー・フィオーラは涼しげな微笑みを湛えたまま話を続ける。
「まあ細かい事はよろしいではないですか。世界樹を登るならシルヴィオ卿はこの上無く頼りなる御方ですし……私も吸血鬼化していない分身たちを向かわせましょう」
「……貴殿らが魔王軍であるという事は承知の上で……協力してはくれまいか? 国際問題にはならないように尽力すると約束しよう」
とにかく現状の打破を優先するマザー・フィオーラに追随してシルヴィオも軽く頭を下げてレイメイとピチカに協力を要請した。
深々としたものではないとはいえ、エルタナ聖王国において聖女や聖王に次ぐ権力を持つと言っても過言ではない『百合爵家』の当主であるシルヴィオが頭を下げるという行為をした、という事の重さはレイメイだけではなくピチカにも理解できた。
「もちろんです。ピチカさんも良いですね?」
「うん! 早く行こっ!」
「では早速──〈白毒雲〉ッ! さ、乗ってください。
あ……ゼブブ卿も呼んで良いですか?」
「……その方が確実ならば是非も無い」
味方である内は心強いが、世界樹の麓に魔王軍幹部複数名が容易く侵入して来ているという事実にシルヴィオは無表情の内心を震わせた。
◇
数刻後──夕暮れ間近……。
傘状に枝葉を広げる世界樹の頂点に集う『樹の女神エンニル』の聖女集団『星華隊』は麓で起きている異変を感じ取り、ざわめいていた。
頭に輝く桃色の華が咲いており、女神の力や意思の一部が宿って影響で翠色に染まった総勢33名の内、25名は森妖精であり、残りは樹霊3名・人花3名・翅妖精2名という構成である。
「そろそろスニクスアルフが戻って来るわ」「何か恐ろしい気配が……」
「北側から……」「戦闘向きでない子は南側に────」
「────グゥウゥヴヴッ……!」
リーダー格である頭に牡丹の華が咲いた貴種森妖精が避難指示を出そうとしたその時、世界樹の枝葉を掻き分けてスニクスアルフが飛び出す。
「スニクスアルフッ! 一体何が──」
姿が見えたため、リーダー格の聖女は声をかけたが、距離があったからかスニクスアルフは反応を示さず翼を広げて空へ飛び立ってしまう。
後脚で直立するような体型の全貌を見せたスニクスアルフの身長は約3000mほどもあり、近くに現れたように見えても魔力を載せたワケでもない声が届くハズもない。
「ン゛ッ……
グッ……
ギャオォオ゛オ゛ッ!」
鼻の穴から火を漏らしながら空高く飛んだスニクスアルフは、真上を向くと口を開いて猛火の息と共に異物を吐き出した。
“異物”というのは当然、闘技場の瓦礫が嚥下され消化されて尚、口内に残り暴れ続けたアリエラとルネローザの事である。
「アハハハハッ!」「いくら『薔薇の真祖』といえど古竜王を従えるには時間が足りなかったようね!」
第二形態になったアリエラは亜竜化したルネローザの太いイバラのような身体を掴んで脱出した。
「クソぉオオオオッ!!」
アリエラほどの火炎耐性の無いルネローザは全身を灼かれながらスニクスアルフの口からなす術無く引っ張り出される。
(夕暮れ時とはいえまだ太陽が出ている!)(このまま全身を引っ張り出せば──……!?)
アリエラが勝利をほぼ確信した瞬間──。
突如として太陽が消失し、世界は闇に包まれた。
◇『星華隊』
世界樹の頂点に集う『樹の女神エンニル』の聖女集団。
頭に輝く桃色の華が咲いており、女神の力や意思の一部が宿って影響で翠色に染まった総勢33名の内、25名は森妖精であり、残りは樹霊3名・人花3名・翅妖精2名という構成である。
『牡丹爵家』出身の貴種森妖精がまとめ役を務めている。




